清志郎の本音が次々と
今回は最近読んだ、音楽がらみの本の紹介です。
忌野清志郎「ロックで独立する方法」。2000年から2001年に「Quick Japan」誌に掲載されていた記事を1冊にまとめた本で、もともとは2009年8月、彼が逝去した直後に販売された1冊。今回、新潮社から文庫本として発売されたため、はじめて同書を読んでみました。
タイトル的にはロックミュージックで身を立てたいとする「ミュージシャンの卵」たちへのメッセージのようにも思われますが、内容はそんなこれからミュージシャンを志すような人たちへのメッセージもある一方で、彼が音楽業界に対して思うことやRCサクセションの活動を振り返った記載、RCやソロでの活動を通して感じたことやさらには「君が代」をロックアレンジで歌って騒動となった1999年の出来事に関する率直な感想など、忌野清志郎の音楽遍歴を総括するような内容になっていました。
そんな訳で忌野清志郎ファンにとってはバイブル的な1冊となっているのですが、ただそんな清志郎ファンに関わらず日本のポピュラーミュージックに興味を持っている方ならば間違いなく興味深く読むことが出来る1冊だったと思います。まず非常におもしろいのが世間の常識に全く捕らわれない清志郎の物言い。例えばよく芽の出ない人たちに対して「世間のせいにするな、力のない自分が悪い」という忠告が行われがちです。しかし清志郎は同書の中では「世間のせいにすべきだ」と言っています。ただし、それは決して甘やかすメッセージではなく「『わかってくれない世間のせいにしちゃえるほどのこと』を、『やっぱりダメかと簡単には反省しちゃえないほどのこと』を、自分がどれだけできてるかっていうことが大切なんだ。そこまでの自信が持てないと言うなら、それは最初っからそれほど好きなことなんかじゃなかったんだよ。」と言い切っています。逆にとても厳しいメッセージともとれるのですが、読んでいてとても納得感がありました。
その後も音楽業界の裏話のようなネタやそれに対して清志郎が思っている「本音」が次々と登場してくるため、非常に興味深く一気に読める内容になっています。例えば「君が代」騒動の時に「君が代」をパンクアレンジで歌おうと思った本音としては「今やれば目立つし売れると思ったから」と根も葉もない本音が語られていますし、それに対して特に「社会派」とされるインタビュアーが自分たちの思っていることを答えさせようとするインタビューばかりする、とうんざりしている裏話もそのまま書かれています。
音楽雑誌についても、「ロッキング・オン」など実名を出して、「音楽のことを訊いてくれない」「話題になるのは歌詞の内容ばっかり」と強く批判していますし、さらに広告の見返りにインタビューが行われる「バーター記事」についても赤裸々に語っています。また、彼のファンについても30年間「ファンに裏切られ続けてきた」と語り、「ファンを信じてなんかいない」と語っているのは、熱心なファンにとってはショックかもしれません(笑)。ただ、これと似たような話を石野卓球もしていたなぁ・・・と思いだしました。「ファンは信じられない」というのはミュージシャンの偽らざる本音なのかもしれません。まあ、確かにファンなんて気まぐれな存在というのはよくわかるような気がします・・・。
そんな彼の本音が軽快な語り口で次々と出てくるため非常におもしろく、また読みやすい内容になっていました。RCの話や清志郎のソロの話がメインなのですが、そんな音楽業界の裏話やミュージシャンの本音のような話も多いため、おそらく幅広い人が読んでいてとても楽しめる1冊になっていたと思いますし、こういう話を率直に話せてしまうあたりが清志郎の清志郎たるゆえんなんだろうなぁ、とも感じました。ただひとつとても悲しく感じたのがラスト。「次のテーマはきっと『ロックで爺さんになる方法』か、さもなきゃ『ロックで天寿を全うする方法』になるだろうな」と書かれている点。その後の彼のことを思うと、思いいるところが強くありました。もっとも、最期の最期までロックを貫いてこの世から旅だっていったという点では、「天寿を全うした」のでしょうが。
そんな訳で、最初から最後までとても楽しめる音楽好きなら無条件でお勧めしたい1冊。清志郎節が最初から最後まで楽しめる、とても楽しい作品でした。
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