徹底的に自己を見つめた強力なメッセージ
Title:MOROHA IV
Musician:MOROHA
本作がオリジナルアルバムとしてはメジャー第1弾となるHIP HOPユニット、MOROHAのニューアルバム。MCのアフロとギターのUKの2人組のユニットで、以前、ベスト盤も紹介したことがあるのですが、彼らは「HIP HOP」という枠組みにあてはめるには非常に異質となるユニット。基本的にトラックはUKの奏でるアコースティックギター1本のみ。ラップもしっかりと韻は踏まれており、それなりにHIP HOPのマナーには沿っているものの、それ以上にアフロの力強いメッセージを伝える、ラップ以上にポエトリーリーディング的な要素の強い作風に仕上がっています。
そんな彼らの歌詞の大きな特徴は、まさに今回のアルバムの1曲目「ストロンガー」の冒頭に凝縮されています。
「バカにされるのは 惨めな思いをするのは
俺達が弱いから悪いんだ
この楽曲は怒りと痛み 屈辱と葛藤
それらをメインスポンサーに迎えてつくられた
手の中に残った悔しさだけがギャランティ
それを歌詞と旋律に全額ベットする
俺達はもっと強くなりたい」
(「ストロンガー」より 作詞 アフロ)
要するに世の中で上手く言っていない自分たちのふがいなさに嘆き、怒り、そしてそんな思いを徹底的にぶつけたのが彼らの歌詞。徹底的に内省し、自分たちの身を削るような歌詞は、おそらく同じように現状、なかなか思うように上手くいかず、鬱屈した思いを抱えている人たちに強く響いてくるのではないでしょうか。
そんな今回のアルバムでも特に心に響いてくるんが「拝啓、MCアフロ様」。別れた恋人からの最後のメッセージという形態を取られた歌詞で、お互いおそらく目指すものの違いから別れざるを得なかった恋人からの言葉が非常にリアルで胸に響くと共に、その中に実はアフロの決意を感じるようなメッセージも織り込まれており、強い印象を残す歌詞となっています。またラストの「五文銭」もメジャーデビューし、この音楽業界の中で戦っていこうという決意を歌った歌詞が印象的。この音楽で生きていく決意をつづった歌詞は、以前紹介したベスト盤の中でも多く登場してきますが、彼らの歌詞の大きなテーマのひとつとなっています。
またアフロの書く歌詞にはもうひとつ大きな特徴があります。それは歌詞の内容が徹底して内省的であり、上手くいかない現状の原因として自分自身に求めえいる点。ある意味、上手くいかない現状にいらだち、それを音楽にぶつけるというスタイルはパンクロックに通じる部分があるのですが、その原因を外に求め、そんな社会をぶっ壊してやるというスタイルのパンクとはある意味、対極的にすら感じます。
そんなスタンスが明確なんが、これも1曲目の「ストロンガー」で
「貧しかろうと苦しかろうと三度の飯にありつける
運命ともパッチパチの喧嘩が出来る
こんな恵まれた国に生まれ育っちまったからには
被害妄想はいい加減に捨てちまえ馬鹿野郎」
(「ストロンガー」より 作詞 アフロ)
という歌詞が、ある意味、社会一般に対するアフロのスタンスを読み取ることが出来ます。ただ個人的にはこのスタンスは若干の違和感があって、確かに上手くいかない現状の原因を自分に求めるというのは非常に潔さを感じる反面、一方ではその原因を外に求め、世の中を変えていこうとするからこそ、世の中は少しずつでも進歩してよくなってくるはず。「食うに困らないから現状容認」というのは今の若者っぽいのかもしれないのですが、個人的にはあまり賛同できない部分ではあります。
もっとも、この「ストロンガー」の歌詞で示されているように、彼の世代はバブル景気の後始末をさせられたという認識があるようで、世間をよくして行き着くあてがあのバブルなら現状のほうがまし、という認識が根底にあるのかもしれません。
そんな気になる部分はあるものの、非常にメッセージ性の強い歌詞が1曲1曲胸に響いてくる作品。ほかにも「お金」に徹底的にこだわった「米」や、少年への強いメッセージをつづった「スタミナ太郎」など強い印象に残る曲が並びます。正直、説教くさいといわれれば否定は出来ず、そういう意味でも賛否はありそうな部分は否定できないのですが、BGMとして片手間に聴くことを拒否した力強いメッセージは間違いなく耳に残ることと思います。
ただ若干気になるのは前述のとおり、彼らの歌詞の内容の本質を問われると「ストロンガー」の冒頭で示されたメッセージのワンイシューで最後まで構成されています。そうい意味では形を変えつつ、基本的にはワンパターンな部分は否めませんし、それが今後、どうなっていくのかは良くも悪くも気になるところ。また、なにげに彼ら、本作はオリコンベスト20に入ってきており、徐々に「成功」しつつあります。そんな彼らがブレイクして成功した暁にはどんな歌を歌うのか・・・これも良くも悪くも気にかかるところ。そのメッセージが強烈なだけにいろいろと気になる部分も大きいのですが、そんな点を含めて前に紹介したベスト盤を含めて、是非一度チェックしてほしいミュージシャン。要注目です。
評価:★★★★★
MOROHA 過去の作品
MOROHA BEST~十年再録~
ほかに聴いたアルバム
more humor/パスピエ
フルアルバムとしては約2年ぶりとなるパスピエの新作。ファンキーなギターが印象的な1曲目の「グラフィティー」にロックバンドとしてのカッコよさを感じたのですが、アルバム全体としてはメロディアスなシンセポップがメインといった印象。「resonance」などはメロディー的にはインパクトがあるものの、悪い意味で様式化しているアニソンっぽいイメージも。それなりにインパクトと個性を感じられる曲が並んでいるのですが、絶賛するにはあと一歩、何かが不足しているように感じてしまうアルバムでした。
評価:★★★★
パスピエ 過去の作品
ONOMIMONO
演出家出演
幕の内ISM
娑婆ラバ
&DNA
OTONARIさん
ネオンと虎
NIAGARA CONCERT '83/大滝詠一
1983年7月24日に西武球場で行われた、結果として大滝詠一名義ではラストライブとなってしまった「ALL NIGHT NIPPON SUPER FES '83 /ASAHI BEER LIVE JAM」の模様を完全収録したライブアルバム。もともと大滝詠一はライブに積極的ではなかったようで、特にライブ会場では自分の音に納得が出来ないため、なかなかライブを行わなかったのだとか。このアルバムに収録されているライブ音源も、彼のこだわりを感じさせる、オーケストラの演奏を取り入れた「完璧な演奏」。ただライブの魅力というと、不完全だからこそ生じ得る、突発的な化学反応的に発生する素晴らしいステージを体験することが出来る点であり、そういう意味では作り込まれた彼のステージというのはライブ本来の魅力とは少々異なるのかもしれません。ただ、今となっては非常に貴重な音源であることは間違いなし。完成度の高い音源はもちろんファンならずとも楽しめる内容になっています。おそらく彼の生前ではリリースが望めなかったであろう作品。そういう作品がリリースされるというのは複雑な感もするのですが、それを差し引いても音楽遺産として世に残しておく音源だと思います。
評価:★★★★★
大滝詠一 過去の作品
EACH TIME 30th Anniversary Edition
Best Always
NIAGARA MOON -40th Anniversary Edition-
DEBUT AGAIN
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2019年」カテゴリの記事
- 彼女の幅広い音楽性を感じる(2019.12.26)
- 80年代に一世を風靡した女性ロックシンガー(2019.12.28)
- 2つの異なるスタイルで(2019.12.14)
- ミュージシャンとしての矜持を感じる(2019.12.17)
- 2019年最大の注目盤(2019.12.13)
コメント