「ドリーム・カメラ」完成
Title:ANIMA
Musician:Thom Yorke
ご存じRADIOHEADのボーカリスト、トム・ヨークによる、ソロでは3枚目となるオリジナルアルバム。純然たるオリジナルアルバムとしては約5年ぶりのリリースとなるものの、その間、映画「サスペリア」のサントラもリリースしているため、ソロとしては比較的コンスタントに活動を続けている感もあります。今回の作品でもRADIOHEADの作品にも多く関わっている盟友、ナイジェル・ゴドリッチをプロデューサーに迎えた作品となっています。
ここ最近、ソロでの活動と並行してRADIOHEADとしての作品もリリースされているように、基本的にはソロとバンドとしての活動は、今の彼にとって車輪の両輪のようなものになっているのでしょう。ただ両立できるということは、ソロとしての活動とバンドとしての活動を区別しているということも言える訳で、実際、音楽的にもバンドサウンドが主軸になっているRADIOHEADとエレクトロサウンドが主軸のソロでは明確に区分がされています。
良く知られているように、RADIOHEADといえば2000年にリリースされたアルバム「KID A」が、エレクトロニカやビートミュージックに大きくシフトした作品となっておりシーンに大きな衝撃を与えました。ただ、その後はRADIOHEADとしての作品は徐々にバンドサウンドに回帰していく訳ですが、「KID A」の方向性にトム・ヨークの興味がなくなった訳ではなく、エレクトロ方面の作品はソロとして発表するようになっています。そういう意味で言うとこのアルバムも「KID A」からの流れに沿ったアルバムになっていると言えるでしょう。
そんな今回のアルバム、広告の際には夢を映す機械、「ドリーム・カメラ」なる商品の広告を模したプロモーションも話題となりました。「ドリーム・カメラ」なんて言うと、日本人にはむしろドラえもんの秘密道具を彷彿とさせてしまいますが、今回の作品は「Impossible Knots」のように、ドリーミーな雰囲気を醸し出しているようなエレクトロチューンが目立ったような印象を受けました。もっとも、決して楽しいワクワクするような夢の世界だけではなく、例えば「Last I Heard(He Was Circling The Drain)」のような、不気味な雰囲気を醸し出している楽曲も少なくありませんでしたが。
ただ全体的には「The Axe」のような、どこか哀愁感も覚えるような叙情感あるメロディアスな要素がアルバムの全体から感じられ、印象としては「KID A」のような難解なエレクトロというよりも、比較的聴きやすいポップチューンという印象を受けます。もっとも、「KID A」以降、世間にあふれだしているビートミュージックに耳が慣れてしまった、という側面も大きいのでしょうが。
また、サウンドとしてもエッジの効いたエレクトロサウンドを最小限に入れてくる・・・というスタイルではなく、音は比較的絞ってはいるものの、決して「音の隙間を聴かせる」というスタイルではなく、音の美しい重なりを聴かせるスタイルだったように感じます。そういう意味では「KID A」以降の変化も感じられるのですが、全体的には、今、最先端の音といった印象は受けません。実際、曲によっては3年前にすでにライヴで披露された曲もあるそうで、時代の先端を行くというよりも、彼にとって最も魅力的なエレクトロサウンドを時間をかけて作り上げた作品と言えるのかもしれません。
そんな訳で、非常に凝ったエレクトロアルバムであるものの、リスナーにとってはドリーミーな世界をただ楽しむことの出来る傑作アルバムだったと思います。ある意味、バンドとしての活動とソロとしての活動を理想的に両立させている彼。次はRADIOHEADのアルバムか?まだまだたくさんの傑作アルバムを聴くことができそうです。
評価:★★★★★
Thom Yorke 過去の作品
The Eraser Rmx
Tomorrow's Modern Boxes
Suspiria(Music for the Luca Guadagnino Film)
Suspiria Unreleased Material
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