« 刺激的なサウンドで要注目のロックバンド | トップページ | 「ドリーム・カメラ」完成 »

2019年7月27日 (土)

不安と前向きな気持ちが同居

Title:トワイライト
Musician:スカート

青春の1ページを切り取ったような、ちょっと甘酸っぱさも感じる漫画のジャケット絵が強い印象に残る澤部渡のソロプロジェクト、スカートのメジャー2作目となるアルバム。ちなみにこのジャケットは「このマンガがすごい!2019」のオンナ編第1位を獲得した「メタモルフォーゼの縁側」の作者、鶴谷香央理による書下ろしだそうです。

このジャケットの絵からは、どこか切なさと、それと同時に前向きな爽やかさを感じさせます。そして、そんな切なさや寂しさと前向きさが同居した複雑な心境は本作のスカートの作風に沿っていました。まずアルバムは女性アイドルグループNegiccoのKaedeに提供した曲のセルフカバー「あの娘が暮らす街(まであとどのくらい?)」からスタートします。この曲は、「ひとりじゃ不安だけど それでも逃げ出したい」という逃避行をにおわせるような表現が登場します。ただ一方最後はタイトルである「あの娘が暮らす街まであとどのくらい?」と、おそらく恋人の元に向かっているであろう、明るさと希望を感じさせつつ曲は締めくくられます。

さらに「君がいるなら」でも

「眠れない夜にはしごをかけて
風もない春に寄り添う
今がこのまま続いて行くならば
不安でも前を見ていたい」
(「君がいるなら」より 作詞 澤部渡)

と爽やかさを感じる表現ながらも、どこか影の部分を想像してしまう歌詞が印象に残ります。

ただそんな不安や影の要素を感じつつも、「歩き出そう 風がどんなに強くても」と歌う「ずっとつづく」や「指をつないで 扉の向こうへ」と締めくくる「ハローと言いたい」など前向きな希望を感じさせる曲も目立ちます。ただ、単純な前向き応援歌ではなく、その向こうにある決して上手くいくばかりではない現実も垣間見れる歌詞になっており、それが本作の大きな魅力に感じました。

また爽やかさを彩るような風景描写も印象的で、高田馬場での乗り換え風景を描いた「高田馬場で乗り換え」のような曲もあれば、春を描いた風景描写も印象的な「遠い春」や暗い海辺に佇み、不安を感じる恋人を描いた「花束にかえて」など心境にあった風景をしっかりと切り取った歌詞も大きな魅力となっています。

さて、スカートの曲ですが、歌詞も大きな魅力なのですが、それ以上にメロディーも大きな魅力。もともとはスピッツのバックバンドに参加して話題になった彼ですが、スピッツのように暖かい雰囲気のポップスが大きな特徴になっています。特にメジャーデビュー作となった前作「20/20」でメロディーにインパクトが出てきたのですが、今回のアルバムもいい意味でメロディーがあか抜けてきているように思います。

あえて言うのならフォーキーな雰囲気にはくるりのような雰囲気を感じます。メロディー的にわかりやすいサビがあるわけではないのに、聴き終わった後に強く印象を残すという点もくるりに似ていますし、同時に澤部渡のメロディーセンスの良さを感じさせます。ただ、くるりと比べると、例えば「遠い春」などAORの要素も強く感じさせ、ここらへんは歌い方も含めて、どこかキリンジを彷彿とさせる部分も。くるりとキリンジの中間を行くサウンドといった感じでしょうか。

ただ、くるり+キリンジ÷2といっても決して既存のミュージシャンのコピーではなく、そこはしっかりスカートとしての色を出しています。確かに決してサウンドの面では目新しい感じではないものの、暖かさを感じるメロディーとサウンドは聴いていて安心しますし、また歌詞の世界観をしっかりとサポートしているようにも感じました。

メジャー2作目となった本作ですが、前作から引き続き、いい意味でインパクトも増してスカートの魅力をしっかりと出すことのできた傑作アルバムに仕上がっていたと思います。ポップスが好きならば、間違いなく聴いておきたい1枚です。

評価:★★★★★

スカート 過去の作品
CALL
20/20


ほかに聴いたアルバム

大きな玉ねぎの下で/サンプラザ中野くん

元爆風スランプのボーカル、サンプラザ中野くんの新作は、爆風スランプの代表曲で1989年にリリースされ大ヒットした「大きな玉ねぎの下で」のリメイクを中心とした6曲入り(うち1曲はカラオケ)のミニアルバム。同じく代表曲のひとつである「月光」のセルフカバーを収録しているほか、オカモトラバーズ研究所とのコラボ曲「岡本と友だち」、QUEENの日本語直訳カバー「女王様物語」、お笑いコンビ野生爆弾のくっきー作詞作曲歌唱による「月光」のアンサーソング「日光」が収録されているなど、真面目な側面とギャグの側面が混在したような楽しい1枚になっています。

ただリメイクの「大きな玉ねぎの下で」に関しては正直言ってサンプラザ中野くんの声があまり出ていない・・・不快というほどではなく曲自体は十分楽しめるものの、ちょっと残念に感じました。ただ、そんな気になる点はあるものの、今聴いてもやはりこの曲は名曲ですね。武道館を舞台にペンフレンドとの切ない恋愛を描いた風景描写が絶妙。なんでペンフレンドが会場に来なかったのか一切語られていませんが、そこをいろいろと想像できる余地がある点もまたこの曲を名曲にしている要素のように思います。ちなみに今となってはかなり時代を感じさせる歌詞に。「ペンフレンド」とか完全に死語になってしまいましたしね。でも、はじめて会う異性にドキドキ感を覚えるのはいつの時代も変わらず、そういう意味ではこの曲もしっかりと時代を超えた名曲と言えるのでしょう。

このシリーズ、まだ第3弾、第4弾もありそうだなぁ。次は「リゾ・ラバ」とか「涙2」あたりか?若干、露骨なアラフォーホイホイ的な後ろ向きな企画な点は気にかかるのですが、率直にアラフォー世代としては楽しめた1枚でした。

評価:★★★★

サンプラザ中野くん 過去の作品
Runner

美空ひばりトリビュート Respect HIBARI -30 years from 1989-

没後30年の区切りの年にリリースされた、主にポップス系ミュージシャンによる美空ひばりへのトリビュートアルバム。妖艶に歌い上げる吉井和哉や煤けた雰囲気が楽曲にもマッチしている徳永英明。ちょっとコミカルなカバーが楽しいNICO Touches the Wallsや、2曲目の「東京キッド」のカバーでは、ちょっとこなれすぎた感がマイナスだった松山千春もラストの「津軽のふるさと」ではその歌唱力を遺憾なく発揮し、その実力を見せつけました。

基本的には感情を込めたカバーを非常に上手く歌い上げている人ばかりで、ちょっと浮いている感のある倖田來未も意外と力強いボーカルで他のミュージシャンに決して負けていませんでした。ただそんな中、唯一このメンツに参加しているのが疑問だったのが水谷豊。それも「川の流れのように」という代表曲をカバーしたのですが、完全にそこらへんの飲み屋のおじさんのカラオケレベル・・・。いや、彼は歌が下手なのは知っていたので最初から全く期待はしていなかったのですが、他のミュージシャンが上手い人ばかりだったので、その酷さが際立ちます。なんで参加させたんだろう?その点は非常に残念でしたが、そこを差し引けばよくできたカバーがそろったアルバムだったと思います。参加ミュージシャンが好きな方はチェックして損のない1枚です。

評価:★★★★

|

« 刺激的なサウンドで要注目のロックバンド | トップページ | 「ドリーム・カメラ」完成 »

アルバムレビュー(邦楽)2019年」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 刺激的なサウンドで要注目のロックバンド | トップページ | 「ドリーム・カメラ」完成 »