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2019年7月 9日 (火)

バンドとしての意識を高く

Title:834.194
Musician:サカナクション

これは決して揶揄することを意図した表現ではないのですが、ここ最近のサカナクションは・・・というよりも山口一郎は、かなり「意識高い系」のミュージシャンになっているような印象を強く受けます。例えば「NF」という新しい表現を目指す音楽イベントを立ち上げたり、また8月にもあいちトリエンナーレで「暗闇-KURAYAMI-」という実験的要素の強いパフォーマンスを予定しています。さらに各種メディアなどで音楽の現状とその中での自分の考えを積極的に語っている記事を何度も読みましたし、彼自身が今の音楽シーンに対して問題意識を抱き、サカナクションとしてその中でどのようにシーンを切り開いていくか、しっかりと考えているという印象を強く受けます。

そんな中リリースされた約6年ぶりのニューアルバムである本作に関しても、非常に力が入っているように感じます。実際、当初は4月リリース予定だったのが、歌詞に納得がいかないから、という理由で6月に延期された事実からでも、その力の入れようがよくわかります。そしてリリースされたアルバムは2枚組というボリューム。かつ、アルバムの構成としてもかなりコンセプチュアルな内容に仕上がっていました。

まず今回の2枚ですが、Disc1は外に向けて発信することを意図した「東京」をイメージしたアルバム。Disc2は自分たちのために作ろうと考えた、彼らが活動を開始した「札幌」をイメージしたアルバムであり、今回のアルバムタイトル「834.194」はその東京と札幌の距離をあらわしているそうです。

そして外へ向けて発信することを意図した1枚目のアルバムに関しては、一言で言うと、「昨今のシティポップムーブメントに対するサカナクションからの回答」といったところでしょうか。さらにとてもユニークなのが、ここ最近のシティポップの流れは楽曲の「洋楽性」を強調するような流れになっているのに対して、サカナクションは日本のポップスシーンの歴史の中での「シティポップ」をあえて強調した楽曲に仕上げてきています。

特に典型的なのはMVも話題になった「忘れられないの」でしょうが、それ以外でもシングルの「新宝島」では「ドリフ大爆笑」をはじめ、昭和の歌番組をモチーフにしたMVが大きな話題となりましたし、「マッチとピーナッツ」などもエレクトロダンスチューンながらもウェットな雰囲気に歌謡曲的な要素を強く感じます。全体的にエレクトロサウンドを取り入れて、耳なじみやすくコーティングされた和風なシティポップというイメージで統一されており、コンセプシャルな構成に仕上がっていました。

一方、Disc2については、「自分たちのために作る」というコンセプト通り、非常に自由度の高い内容に仕上がっていました。サイケ風アレンジの「グッドバイ」をはじめ、エレクトロサウンドでドリーミーに仕上げた「ナイロンの糸」やダイナミックなバンドサウンドが耳を惹く「ワンダーランド」など、アルバムを通じての統一感はなく、ポップな作風もあればタイトルチューンの「834.194」のような実験的なテイストが強い曲もあり、まさに彼らが好き勝手に曲を作り上げた結果という内容に仕上がっていました。

あえて「外」を意識したDisc1と、あえて「外」を全く意識しなかったDisc2をセットでアルバムにするあたりも、彼らの挑戦心を感じさせますし、また、その反応からサカナクションがどう捉えられているか、彼らなりの実験のようにも感じられます。またその結果としても、「外」を意識したDisc1はいい意味でインパクトのある耳に残る楽曲に仕上がっており、Disc2もアルバムとしてのまとまりは薄いものの、サカナクションの魅力と実力をしっかりと感じさせる曲が並ぶ完成度の高い傑作アルバムに仕上がっていたと思います。今の時点でのサカナクションの集大成とも言える作品。またバンドとしての意識の高さが、このアルバムに上手く傑作として結合されたように感じます。バンドとしてさらなる成長を感じさせる、今年を代表する作品でした。

評価:★★★★★

サカナクション 過去の作品
シンシロ
kikUUiki
DocumentaLy
sakanaction
懐かしい月は新しい月~Coupling&Remix works~
魚図鑑


ほかに聴いたアルバム

BLACK MIRROR : SMITHEREENS ORIGINAL SOUND TRACK/坂本龍一

Netflixのドラマシリーズ「ブラック・ミラー」の最新シリーズ「ブラック・ミラー: 待つ男(原題:Black Mirror: Smithereens)」の音楽を手掛けた坂本龍一によるサントラ盤。ダークでメタリック色の強いエレクトロサウンドがメインの全18曲。ドリーミーな曲もありバリエーションも。全体的にもメロディアスで比較的聴きやすく、ドラマを見ていなくても楽しめる内容になっていました。

評価:★★★★

坂本龍一 過去の作品
out of noise
UTAU(大貫妙子&坂本龍一)
flumina(fennesz+sakamoto)
playing the piano usa 2010/korea 2011-ustream viewers selection-
THREE
Playing The Orchestra 2013
Year Book 2005-2014
The Best of 'Playing the Orchestra 2014'
Year Book 1971-1979
async
Year Book 1980-1984

ASYNC-REMODELS
Year Book 1985-1989
「天命の城」オリジナル・サウンドトラック
BTTB-20th Anniversary Edition-

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