あえてバンドサウンドで
Title:成長の記録 ~全曲バンドで録り直し~
Musician:KREVA
今年、ソロデビュー15周年を迎えたKREVA。そんな記念すべき年に年初から、9月連続リリースとしてシングルなどをリリースし続けています。本作はそんな記念リリースの第6弾となるアルバム。彼のソロの代表曲を集めたベストアルバムになるのですが、今回のアルバムでユニークなのはタイトルそのままとなるのですが、全曲、バンドによって録り直しが行われているということ。HIP HOPというとサウンドはいわばサンプリングやら打ちこみやらがメインとなるケースが多く、トラックがバンドサウンドというケースは珍しいのですが、そんな中であえてバンドサウンドで録り直しが行われているという点に非常にユニークなものを感じます。
今回のアルバムリリースに先立つインタビューにおいて、彼は「ここ5年くらい、音楽をやりたい気持ちはあるが言いたいことがない」という旨の発言をしています。言いたいことはあるものの、わざわざ曲にするようなものではないという気持ちになるケースが増えているそうで、そんな中でだからこそ本作では彼の曲の「音楽」という側面にあえて着目したアルバムということになるのでしょうか。
そんな中であらためて本作を聴くとKREVAの曲はポップであるがゆえにサラッと聴けてしまうのですが、一方では確かに彼の言いたいことがつまったメッセージ性の強い楽曲が多いということを、いまさらながら再認識させられます。「存在感はある でも でも、決定打が出ていない気がした」と綴る「存在感」は、ブレイク後でも襲われる彼の焦りにようなものがリスナーにも伝わってきますし、現状に満足して成長することをやめてしまった人に対して鼓舞するメッセージを発している「かも」なども、ふと日々の日常に押しつぶされそうな時に聴くと、非常に心に響いてくるものがあります。
ただ、今回、こういう彼のラップを通じてのメッセージがより強く伝わってきている要因として、バンドサウンドによる録り直しが行われたから、という点が非常に大きいように感じます。基本的に今回の録り直しについては原曲のイメージそのままであり、大きな変更はありません。しかし生音を入れることにより、例えば「I Wanna Know You」はよりメロウさが増したように感じますし、「成功」もよりジャジーな雰囲気が強まり、楽曲の雰囲気がよりムーディーになったように感じます。特に「アグレッシ部」では今回、ストリングスの音が原曲以上に楽曲を盛り上げており、メッセージがさらに心に響いてきたように感じました。
「成長の記録」というアルバムタイトル通り、バンドサウンドによって録り直すことにより、楽曲がいずれも原曲よりもさらに成長を遂げたような印象を受ける、そんなアルバムになっていたと思います。ベスト盤は5年前にリリースしたばかりで、これが3作目になるのですが、楽曲が生まれ変わっており、非常に意義のあるアルバムだったと思います。
ちなみに、「言いたいことがない」と言いつつ、9月には待望のニューアルバムがリリースされるKREVA。KICK THE CAN CREWとしてもライブを中心に活動を続けており、なんだかんだ言っても積極的な音楽活動が目立ちます。ソロデビュー15年でまだまだ成長を続ける彼だけに、今後の活動も楽しみです。
評価:★★★★★
KREVA 過去の作品
心臓
OASYS
GO
BEST OF MIXCD NO.2
SPACE
SPACE TOUR
KX
嘘と煩悩
存在感
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