圧巻な音世界は健在
Title:weak
Musician:WRENCH
今回紹介するバンドについては、個人的にはまずは懐かしい名前だな、という感覚が先に立ちます。1994年にインディーズでセルフタイトルのミニアルバム「WRENCH」でデビュー。デビュー当初はラウドロックの流れに乗り、大きな話題を集め、1998年と2000年のAIR JAMにも出演するなどして一気に注目を集めました。その後もフジロックやサマソニに出演するなど大きな注目を集めたものの、メンバーの脱退などもあり徐々に名前を聞く機会が減ってきました。
そんな中、久々にその名前を聴いたのがこのニューアルバム。なんと前作から11年ぶりとなる新作だそうで、まだまだ彼らはその活動を続けていたと久しぶりに知ることが出来てちょっとうれしくなりました。そしてそんな久々となる新作なのですが、かつてライブを中心に多くの音楽リスナーを魅了したWRENCHがいまなお健在であるということを実感させられるアルバムに仕上がっていました。
さてWRENCHというとハードコアの文脈でデビューしてきたバンドでしたが、デビュー当初からエレクトロサウンドやダブ、サイケロックなどの要素を取り入れてきており、ともすれば「暴れること」一辺倒になりがちなシーンの中においてある種のクレバーさを感じさせるバンドでした。そんな方向性は本作でも健在。まず1曲目「KIRAWAREMONO」では強いドラミングにリバーブのかかったダビーなボーカルが乗り、さらには分厚いバンドサウンドがこれにからむサイケな要素の強いナンバー。続く「NOCHINOI」もまずエレクトロビートからスタートし、そこに迫力あるバンドサウンドがのっかかる疾走感ある楽曲に仕上がっています。
とにかく向こうから激しい音が攻めてくるような楽曲はその後も続きます。「Nothing」はへヴィーなギターリフがからむ、よりメタリックな要素の強い楽曲。さらに「New World」でもヘヴィーなギターに力強いドラムでこれでもかというほどハードなサウンドを展開。ここらへんは彼らのハードコアな側面がより前に押し出されたナンバーになっています。
後半も「ヘルノポリス」でエレクトロサウンドに疾走感あるバンドサウンドをからませたサウンドを聴かせたかと思えば、続く「公然スペース罪」では凶器とも思えるエレクトロノイズが耳に襲い掛かります。さらに続く「tORA」もノイズミュージック的な要素の強いナンバーに、そして「Sound Wave」ではドラマの音声をサンプリングした出だしから不気味なノイズが展開される楽曲に。この終盤はノイジーなサウンドに圧巻される楽曲展開となっています。
そしてラストの「Future Now?」はリズミカルなトラックにシンセも取り入れた分厚いバンドサウンド。リズミカルなラップも加わりこのアルバムの集大成ともいえるサイケロックで締めくくられます。全10曲55分。その音の世界に終始圧倒させられるアルバムになっていました。
最初にも書いた通り、もともとエレクトロやサイケなどの要素を加えたバンドでしたが、久々となるアルバムではその方向性がよりクリアになり、そしてその方向にさらに突き進んだアルバムになっていたと思います。そのため、最初から最後まである種の迷いのないフルスロットルなサウンドで終始圧巻。また、以前のアルバムではある種のマッチョイムズ的な要素を強く感じられ、それが個人的にはマイナス要素だったのですが、今回のアルバムではそのような要素をあまり感じませんでした。
デビューから25年が経つ、まさにベテランバンドの彼ら。ただ残念ながらその長い活動に反してここ最近、あまり話題にのぼることが少ないように思います。しかし、今回のアルバムを聴く限りでは、彼らの実力は以前と比べて全く衰えていません。今回、この紹介文で彼らのことをはじめて知った方にも是非とも聴いてほしい1枚。その音の世界に圧倒されてください。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
REIWA/清竜人
ミュージカル色の強いステージで観客の度肝を抜いたかと思えば、いきなりアイドルグループ清竜人25を結成。その後はライブの参加者全員がメンバーというTOWNというプロジェクトを実施するなど、次々とその活動のスタイルを変化させるシンガーソングライター清竜人。次の一手はどう来るかな?と思ったら、なんと正統派歌謡曲路線に挑戦。それも令和最初の日にリリースされた本作に「REIWA」と名付けるなど、時代を意識したような作品に仕上がっています。
そんな彼の「歌謡曲」なのですが、「天才」という評判も高い彼だけにそのメロディーラインは文句なしなものの、楽曲全体の出来としては残念ながらいまひとつ。ひとつの原因が彼の声で、その声質も歌い方もちょっと歌謡曲にマッチしていないように感じます。歌詞も「歌謡曲らしい」フレーズを使っているのですが、いまひとつパンチ不足。歌謡曲として一番重要な「インパクト」に欠けていたように感じました。
もちろん最低限のレベルには到達しており悪いアルバムではないのですが、ちょっと合わなかったかな。評価は彼のその挑戦心を加味して下の評価に。さて、彼の次の一手は何だ?
評価:★★★★
清竜人 過去の作品
WORLD
MUSIC
WORK
BEST
WIFE(清竜人25)
TOWN(清竜人TOWN)
ANTI/HYDE
L'Arc~en~Cielのボーカル、HYDEによるソロアルバム。全英語詞でハードコアや疾走感あるグランジ系のギターロックの要素を取り入れたサウンドは洋楽的指向が強い反面、耽美的なボーカルやヘヴィーな曲でもサビになるといきなりポップになるメロディーラインは完全にJ-POP。サウンド的にもメロディー的にも良くも悪くもベタな感じはするのですが、そこらへんは洋楽的な部分とJ-POP的な部分をよくバランスを保ちつつ展開している印象。方向性はONE OK ROCKと似ている印象も受けるのですが、洋楽方面に走りすぎて最新アルバムでは底の浅さが露呈してしまったONE OK ROCKと比べると、しっかりと自分の立ち位置を認識している部分、さすがラルクとして長い間、音楽シーンのトップを走り続けてきただけはあるな、と感じるアルバムでした。
評価:★★★★
HYDE 過去の作品
HYDE
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