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2019年6月 7日 (金)

雅楽を取り入れた独特なアンビエント

Title:Anoyo
Musician:Tim Hecker

カナダ人のアンビエントミュージシャン、Tim Heckerの最新作。非常に高い評価を得た前作「Konoyo」は日本を代表する民間雅楽団体である東京楽所と共に、東京練馬の観蔵院というお寺で録音された音源を使用し、雅楽とアンビエントを融合させた独特のサウンドを展開。各種メディア等において高い評価を得た傑作アルバムでした。タイトルの「Konoyo」も日本語の「この世」から取られたように、日本とつながりの深いアルバムになっていました。

それに続く新作「Anoyo」も前作で使用した東京楽所の演奏の音源を使用したアルバム。「Anoyo」ももちろん日本語の「あの世」から取られており、いわば前作とは姉妹盤とも言えるアルバムになっています。また、そのため今回のアルバムも非常に日本とつながりの深いアルバムに仕上がっていました。

今回は全6曲入りのアルバムになっていたのですが、特にサウンドについては前作以上に雅楽の音を深く取り入れた作品に仕上がっていたように感じます。アルバムの冒頭「That World」は最初、琴の音から静かにスタート。その琴の音を奏でられた一番最初に、わずかに小鳥の声も入っており、まさに日本の自然の中で奏でられた、優雅な雰囲気を感じさせるはじまりとなっています。

続く「Is but a simulated blur」も笙と太鼓の音からスタート。この雅楽の音にエレクトロサウンドが重なり、中盤からダイナミックなサウンドに展開されます。笙と太鼓の音は終始鳴り響いているのですが、このダイナミズムさは雅楽のイメージからすると少々異なる雰囲気となっているのがおもしろいところ。雅楽の音は取り込みつつも、日本人が思い描く神聖なイメージとはちょっと異なった音作りをしている点が非常にユニークに感じさせます。

そしてそんな中でも特に雅楽器を前に押し出したのが5曲目の「Not alone」でしょう。静かな琴の音をバックに力強い太鼓のリズムが全編で展開されるナンバー。静かなアンビエント調のエレクトロサウンドと動的な太鼓のリズムの対比が見事な作品になっており、雅楽というよりはむしろ和太鼓の印象を強く抱く楽曲なのですが、そのダイナミックな演奏が強く印象づけられる作品になっています。

さて、雅楽の要素を前作以上に押し出されたアルバムになっていた本作ですが、ただおもしろいのが雅楽器を前に押し出しておきながら、一般的に日本人が想像するような雅楽的な雰囲気とはちょっと異なる感触となっていた点でした。特に前述の「Not alone」などダイナミックな太鼓を聴かせる部分などは優雅さがイメージされる雅楽とは真逆の雰囲気。こういう雅楽器の使い方は、ある意味日本人ではおそらく思いつかないようなサウンドだったのではないでしょうか。

かといって逆に外国人が日本といって想像するような、いかにも陳腐な日本イメージとも無縁。そういう意味では「日本」というイメージから作品を作り上げたというよりも、純粋に雅楽器の音色に惹かれた結果、制作された作品といったイメージが強く、雅楽器をそのままTim Hekerのアンビエントの世界に取り入れたアルバムになっていたように感じました。

ただとはいっても日本人にとってはどこか馴染みやすさを感じるアンビエントのアルバム。日本では前作同様、残念ながらさほど大きく取り上げられていないように感じますが、日本人なら是非聴いておいてほしいアルバムだと思います。アンビエントなサウンドもとても心地よい傑作アルバムでした。

評価:★★★★★

Tim Hecker 過去の作品
Konoyo

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