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2019年6月23日 (日)

ウェールズの匂い漂うポップス

Title:Reward
Musician:Cate le Bon

イギリスはウェールズ出身の女性シンガーソングライター、Cate le Bon(「ケイト・ル・ボン」と読みます)のニューアルバム。2007年にSuper Furry Animalsのグリフ・リースのUKツアーのサポートを行い注目を浴び、その後もSt.VincentやPerfume Geniusなどのツアーに参加するなど、高い評価を受けています。本作はそんな彼女の5枚目となるアルバムとなります。

楽曲は基本的にフォーキーなサウンドに、ちょっと気だるさも感じられる熱量の低いボーカルが大きな特徴となっています。本作では序盤、「Miami」は静かなホーンが入り、どこか幻想的な雰囲気な曲からスタートするものの、続く「Daylight Matters」「Home To You」とフォーキーなメロを彼女の美しい歌声で聴かせるメロディアスなポップチューンになっており、まずはその美しいメロディーと歌声に大きく惹きつけられます。

そんな雰囲気が少々変わるのが続く「Mother's Mother's Magazines」。ホーンセッションも入って軽快なリズムのナンバーなのですが、どこかアバンギャルドな要素も強く入ったサウンドが不思議な雰囲気を醸し出しています。あくまでもイメージなのですが、ちょっと怪しげなイギリスのファンタジーの世界を彷彿とさせるような・・・。後半の「Magnificent Gestures」もそのようなアバンギャルドなテイストを加味したポップスが耳を惹く楽曲になっていました。

もちろん全体的な楽曲の雰囲気としてはフォーキーなメロを聴かせるポップチューンがメイン。中盤から後半にかけてもちょっとジャジーな要素が入った「Sad Nudes」や、フォーキーなメロを聴かせる「You Don't Love Me」など歌モノがメインになっています。ただ、これらの曲にも共通するのですが、楽曲の中でどこか感じる牧歌的でかつファンタジックな要素が魅力的。彼女の出身、ウェールズといえばケルト文化で知られていますが、まさにそんなケルト文化やケルト音楽の要素の影響を強く感じるポップチューンに仕上げていました。

最後を締めくくる「Meet The Man」もピアノをバックに静かに歌声を聴かせつつ、どこか感じるファンタジックな要素が魅力的。また、この曲に限らず、アルバム全体として適度に入ってくるホーンの音がまたよい味わいとなっているのですが、このホーンのサウンドもケルティッシュな雰囲気を楽曲に漂わせていました。

そんなウェールズの匂いを漂わせるフォーキーなポップチューンが大きな魅力の傑作。日本でファンタジックというと、とにかく音を詰め込んでダイナミックに聴かせるという楽曲が多いのですが、彼女の場合は、そのボーカルもそうなのですが、音も最低限で熱量が低いのが特徴的。ただ、だからこそその向こうにある世界をいろいろと想像できる余地も大きいと言えます。ポップで聴きやすいアルバムですが、その向こうには広大な世界が広がっている、そんなことも感じさせる作品でした。

評価:★★★★★

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