伝説のバンドによる伝説のステージ
Title:三田祭 1972
Musician:村八分
1969年から1973年の4年間のみ活動し、その激しいパフォーマンスで「伝説的なバンド」として今でも名高い村八分。本作は1972年11月23日に、慶応義塾大学三田祭の前夜祭でのライブの模様を収録したライブアルバム。もともとこのライブの模様は2000年に「Live'72-三田祭-」として発表されていましたが、今回は新たに発見されたコピーテープを使用。ゆらゆら帝国などでおなじみのエンジニア、中村宗一郎によるリマスタリングが施され、新たにリリースされました。
そんなリマスタリングが施されたアルバムなのですが、それにも関わらず正直言って音はかなり悪いです。曲によってはボーカルのチャー坊こと柴田和志の声がほとんど聴こえないような曲もあり、その点は「リマスタリングだから」といって期待すると若干期待はずれに感じる部分があるかもしれません。もっとも、当時の機材で、かつ学園祭での演奏ということを考えれば、この音の悪さでも仕方ないのでしょうが・・・。
ただ、そんな音の悪さを差し引いても、70年代初頭にこれだけかっこいいバンドが日本に居たのか!!ということをあらためて驚かされる迫力ある演奏が実に魅力的なアルバムになっています。シャウト気味のしゃがれ声で歌うチャー坊のボーカルが非常にカッコよく、強く印象に残ります。また、迫力あるバンドサウンドも印象的。サウンド的にはローリングストーンズからの影響が顕著で、特に「あッ!!」のギターリフなどはまさにそのまんま。もっとも1972年といえば、ストーンズにとっては「メイン・ストリートのならず者」がリリースされた頃で、今から考えると、ようやくそのスタイルを確立させてきたころ。その頃に、ストーンズフォロワーとはいえ、ここまでの実力を感じさせるバンドが日本に居たということは驚きです。
なにより彼らのカッコよさを感じさせる大きな要素はそのリズム感の良さのように思います。ともすれば今ですらそう感じることが多いのですが、どうも日本人はリズム感が悪いようで、スクエアでグルーヴ感が皆無のリズムを奏でるロックバンドが今でも少なくありません。そんな中で彼らは、それこそストーンズに通じるようなブラックミュージックからの影響をしっかりと感じさせるグルーヴィーな演奏を聴かせてくれます。また、「水たまり」や「機関車25」などブルースの影響をダイレクトに感じさせるギターを聴かせてくれたりして、こちらの演奏も見事。正直、メロディーラインにはちょっと和風というか歌謡曲的な部分も垣間見れるのですが、このリズムのカッコよさが彼らの大きな魅力になっているように感じます。
時代的にはちょうどこの年の2月にあさま山荘事件が発生するなど、学園紛争の余波が残る時代。オーディエンスには政治思想を持ったグループも詰めかけるなど、かなり物々しい雰囲気だったとか。今回のライブ盤ではそんな緊迫感も演奏を通じて感じることが出来ます。逆に、これだけ緊迫感のある演奏は、こんな会場の雰囲気を反映してのことだった、と言えるかもしれません。この緊張感あふれる雰囲気もこのライブ盤の大きな魅力に感じます。
また今回のアルバムには、当日の模様をおさめたDVDも収録。ただ、こちらはねじ巻き式の8mmフィルムで撮影されたため、断片的な映像。音も入っているのですが、こちらは撮影者監修の元で、後付けで音を重ねたもの。途切れ途切れの映像であり、鑑賞用というよりは、記録的な価値の強い映像となっています。ただ、この断片的な映像なのですが、そこからはしっかりと当日のアグレッシブな彼らのステージの魅力が伝わってきます。今の目から見ても、これよりかっこいい演奏を聴かせてくれるロックバンドは今の日本でどのくらいあるんだろう・・・と考えてしまうような、魅力的なステージでした。
こんなカッコいいバンドが、今から40年以上前に日本に存在していたということにあらためて驚かされるライブ盤。音的には非常に悪いため、聴きずらさを感じる部分も少なくありませんが、それを差し引いても「名盤」と言えるライブ盤だったと思います。時代の空気も感じられるロック好き必聴のアルバムです。
評価:★★★★★
村八分 過去の作品
ぶっつぶせ!!
ほかに聴いたアルバム
Mr.cook/東野純直
最近、ラーメン屋での修行を経て、独立。人気ラーメン店の店主として成功を収めたことも話題となった東野純直。ただ、音楽活動も継続しているようで、このたび8年ぶりとなるニューアルバムがリリース。彼はデビューアルバム以来、アルバムタイトルの頭文字がAからスタートし、アルファベット順に並んでいるのですが、本作ではついに「M」まで到達。「Mr.cook(=料理人)」というタイトルはまさに今の彼を表しているタイトルという訳でしょうか。
そんな久々となったニューアルバムですが、楽曲のスタイルとしては以前と全く変わりません。ピアノをバックに歌う爽やかなポップチューンの連続。本作では分厚いバンドサウンドでダイナミックに聴かせる曲も多く、スケール感を覚える曲も少なくありません。ここらへんの音の分厚さは90年代っぽい感じもするのですが、良くも悪くも安定感のあるポップソングが楽しめる1枚でした。
評価:★★★★
東野純直 他の作品
GOLDEN☆BEST 東野純直~アーリーシングルコレクション~
Loading Myself
THE WORLD/go!go!vanillas
最近、人気上昇中のロックバンド、go!go!vanillasのニューアルバム。彼らのアルバムは今回はじめて聴いたのですが、基本的にポップで軽快なギターロックをメインに、ガレージロックな作品があったり、サマーポップ風のさわやかなナンバーがあったり、カントリー風の曲があったりとバラエティー豊富。ひとつ核となるような曲が欲しいかも、という印象も受けるのですが、そのバリエーションの多さに最後まで飽きずに楽しめるアルバムになっていました。
評価:★★★★
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2019年」カテゴリの記事
- 彼女の幅広い音楽性を感じる(2019.12.26)
- 80年代に一世を風靡した女性ロックシンガー(2019.12.28)
- 2つの異なるスタイルで(2019.12.14)
- ミュージシャンとしての矜持を感じる(2019.12.17)
- 2019年最大の注目盤(2019.12.13)
コメント