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2019年6月22日 (土)

変わりゆく音楽性の軌跡をたどるシングル集

Title:MAXIMUM ROCK ‘N’ ROLL: THE SINGLES
Musician:Primal Scream

1982年に結成し、30年以上に渡りイギリスのロックシーンを走り続けるロックバンド、Primal Scream。日本でも高い人気を誇る彼らですが、彼らの過去のシングル曲がリマスターされ、アルバムとしてまとめられました。1986年にリリースされた「Velocity Girl」から、2016年にリリースされた「100% or Nothing」まで、全31曲が発売順に並ぶ構成になっています。

そしてPrimal Screamというバンドの大きな特徴としては、デビュー時から現在に至るまで、アルバム毎に音楽性を大きく変え続けているという点があげられます。今回のこのシングル集は、まさにそんなPrimal Screamの変わりゆく音楽性の軌跡をたどれるアルバムになっており、あらためてその音楽性の変化のすさまじさを感じることが出来るアルバムになっていました。

まずデビュー直後の彼らはいわば平凡なインディーギターロックバンド。「Velocity Girl」や「Gentle Tuesday」はまさに80年代のギターポップな楽曲で、良くも悪くもよくありがち、といった印象を受けます。もっともポップでインパクトがあり人懐っこさを感じさせるメロディーラインはデビュー直後から健在。この時期から後のPrimal Screamらしさに繋がる要素はきちんと感じられます。

そんな彼らの大きな契機になったのが言わずと知れた1990年のヒット曲「Loaded」。ギターロックバンドがアシッドハウスを取り入れた曲として大きな注目を集め、Primal Screamというバンドの知名度と評価を一気に引き上げることになりました。今聴いても、続く「Come Together」「Higher Than the Sun」などのグルーヴィーなサウンドは実に魅力的。これらの曲がPrimal Screamの評価を大きく上げたと言われても、今でも納得できる名曲がこの時期には並んでいます。

しかし、この路線を続けるかと思えば、今でもライブの定番になっている「Rocks」では再びギターロックに回帰。これ以降、しばらくのシングルはロック路線に走ったかと思えば、アシッドハウス路線に回帰したような曲もあったりして、若干迷走気味に感じられる部分もあります。そしてそんな中、彼らの評価を決定づけたのは間違いなく1999年にリリースされた「Swastika Eyes」でしょう。ギターロックに大胆にエレクトロサウンドを取り入れたこの曲は当時非常に大きな話題となったことを今でも覚えています。特にこの曲や同曲を収録したアルバム「XTRMNTR」は、ロックバンドがエレクトロサウンドを取り入れてもいいんだ、ということを多くのロックバンドに気づかせ、これ以降、多くのバンドがギターロックに行き詰まるとエレクトロサウンドを取り入れるというシフトチェンジを図るなど、特に日本のバンドに大きな影響を与えました。

その後はさすがに「Loaded」や「Swastika Eyes」のような大胆な音楽性のチェンジはありませんでしたが、フォーキーな要素を取り入れた「Sometimes I Feel So Lonely」やホーンを取り入れてグルーヴィーにまとめた「2013」などバラエティー豊富な音楽性はその後も今に続いています。今回のアルバムはそんな彼らの音楽遍歴をたどることが出来る作品になっていました。

そんな音楽的に挑戦を続けている彼らですが、しかし、それにも関わらず彼らの音楽からは決して小難しさを感じません。それは彼らの音楽がいい意味でポップでわかりやすいからではないでしょうか。彼らの曲はどの曲もはっきりとわかりやすいメロディーラインが流れており、またインパクトあるフックの効いたフレーズも散りばめられています。ある種のベタさを感じるメロディーラインが流れており、彼らの音楽がまずはポップスとして機能しているからこそ、様々な音楽的な挑戦を続けても、彼らの楽曲が小難しくならないのではないでしょうか。

さらにこの絶え間ない音楽的な挑戦が、彼らの楽曲に緊張感を与え、その結果、キャリア30年以上を誇るベテランバンドでありながらも、彼らは大物然とした雰囲気は薄く、いまだに若手バンドのような生き生きとした雰囲気を感じさせます。それがまたPrimal Screamというバンドの大きな魅力に感じました。

そんな訳で、彼らの音楽の軌跡をたどるには最適ともいるシングル集。あらためてPrimal Screamというバンドの魅力を強く感じることが出来た作品でした。そろそろ待望のニューアルバムのリリースを期待したいところなのですが・・・これから彼らがどんな音楽を聴かせてくれるのか、今から楽しみです。

評価:★★★★★

primal scream 過去の作品
Beautiful Future
Screamadelica 20th Anniversary Edition
More Light
Chaosmosis
Give Out But Don't Give Up:The Original Memphis Recordings


ほかに聴いたアルバム

DRIFT Episode3 "HEART"/Underworld

昨年11月にスタートしているUnderworldの新プロジェクト、DRIFT。様々なジャンルの友人たちと組み、毎週木曜日に新曲をアップしていくプロジェクトで、エピソードを締めくくるたびに配信でEP盤をリリースしているのですが、このたびEpisode3が終了。Episode3の曲をまとめたEPが配信限定でリリースされました。

Episode3の曲はミディアムテンポのチルアウト系のナンバーがメイン。ゆっくりとしたテンポで淡々とダウナーに聴かせる曲が主となっています。ただ、そんな中でも美しいサウンドを聴かせてくれたり、しっかりとしたメロディーラインが流れていたり、またダウナーな作風でありつつもしっかりとしたリズムがテンポよく流れていたりと、なにげに耳を惹く楽曲が多く、飽きさせない内容になっています。アゲアゲな彼らを求めたとしたら物足りなさを感じるかもしれませんが、純粋にポップソングとしては魅力的な楽曲が並ぶ作品に。現在、Episode4が進行中のようですが、こちらも楽しみです。

評価:★★★★★

UNDERWORLD 過去の作品
Oblivion with Bells
The Bells!The Bells!
Barking
LIVE FROM THE ROUNDHOUSE
1992-2012 The Anthology
A Collection
Barbara Barbara, we face a shining future
Teatime Dub Encounters(Underworld&Iggy Pop)
DRIFT Episode1 "DUST"
DRIFT Episode2 "ATOM"

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