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2019年6月18日 (火)

ポップ路線へシフト

Title:IGOR
Musician:Tyler,The Creator

HIP HOP集団Odd Futureのリーダーとしても活躍しているアメリカのラッパー、Tyler,The Creator。デビュー作「GOBLIN」ではそのグロテスクなPVが話題になり、日本でも大きな評判を呼びました。その衝撃的だった「GOBLIN」から早8年。正直言うと、デビュー当初に比べると、日本ではメディアなどで取り上げられる機会が少なくなってきたような印象を受けます。

しかし本国アメリカではむしろ逆。本作ではちょっと意外なことに初となるビルボードアルバムチャート1位を記録。イギリスのナショナルチャートでも自己最高位の4位を記録するなど、世界的に見たらむしろ人気は上り調子といった印象を受けます。

その人気のひとつの要因として考えられるのが、楽曲の方向性としてポップにシフトした、という点ではないでしょうか。デビュー作はある種の狂気を感じさせるようなヤバイ雰囲気が漂うアルバムでしたが、3枚目のアルバム「CHERRY BOMB」からポップ路線にシフト。そして5枚目となる本作は、その路線のひとつの到達点のような印象を受けました。

特に前半では「EARFQUAKE」でメロウな男性ボーカルの歌モノを聴かせたかと思うと、「I THINK」は陽気で楽しいダンサナブルなナンバーに。中盤の「NEW MAGIC WAND」はちょっとヤバげな雰囲気を漂わせるHIP HOPナンバーとなりますが、その後の「A BOY IS A GUN」「PUPPET」は胸にキュンとなるようなメロウなトラックが強く印象に残る楽曲となっています。

さらに、今回のアルバム、日本人として注目したいのは、なんと「GONE,GONE/THANK YOU」では山下達郎の「Fragile」をサンプリングしていることで大きな話題となっています。実は彼は以前ポットキャストの番組で山下達郎の曲を流したことがあり、山下達郎のファンということは知る人ぞ知る的な事実だったとか。それだけに今回、山下達郎の曲をサンプリングするのは自然な流れといったところなのでしょう。また今回のアルバムの流れの中でも山下達郎の曲がピッタリとマッチしていたように思います。

最後を締めくくる「ARE WE STILL FRIENDS?」もストリングスでメロウに聴かせるトラックをバックとした歌モノ。最後の最後まで非常に心地よさを感じるアルバムに仕上がっていました。

今回のアルバム、サウンド的にはHIP HOPのアルバムであることは間違いないのですが、ラップの要素は薄く、全体的に歌モノという印象を強く受けるメロウでポップな作品に仕上がっていました。デビュー当初の彼から考えると、かなり遠くまで来てしまったなぁ、という印象も受けます。ただ、間違いなくポップな作品としては逸品とも言える出来。エレクトロサウンドを取り入れたり、今風なトラップ的な要素を感じる曲もあったり、かと思えばダイナミックなギターサウンドを取り入れた曲もあったりとサウンドのバリエーションも豊かで最後まで飽きさせません。昨今の人気も納得の、満足感のあるアルバムでした。

評価:★★★★★

TYLER,THE CREATOR 過去の作品
Goblin
Wolf
CHERRY BOMB
Flower Boy

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