まだ日本では無名ですが・・・
Title:Nothing Great About Britain
Musician:slowthai
今日紹介するのは現在、24歳のイギリスのラッパーによるデビューアルバム。イギリスの新人ミュージシャンの登竜門である「BBC Sound of 2019」に4位でランクイン。ほかにYou Tube Musicが選定する「今見るべきYou Tuberミュージシャンベスト10」の6位に選ばれるなど、まさに今、最も注目を集めているラッパーの一人といって間違いないでしょう。デビューアルバムである本作もイギリスのナショナルチャートで9位にランクインされるなどいきなりのブレイク。日本では残念ながらまだほとんど無名のミュージシャンといった感じなのですが、今後、徐々に人気が注目を集めてくること間違いなしかと思います。
私が彼のことを今後日本でも注目を集めそうという大きな理由のひとつとしては、彼の楽曲がいい意味でわかりやすくポップにまとまっている、という点があげられます。サウンド的にはトラップ風の刻むようなリズムとダークな雰囲気のサウンドでいわば今風。まあ、ここまでは割とここ最近、よくあるタイプのラッパーと言えるかもしれません。
ただ一方で、彼の楽曲全体としてバリエーションもありポップでわかりやすく、どこかユーモラスなセンスがある、という点が大きな魅力に感じられました。例えばアルバムの冒頭を飾るタイトルチューンである「Nothing Great About Britain」は力強くダークなリズムにのる彼のラップからは、どこか焦燥感のよなものが感じられて、歌詞の内容がわからなくても、どこか危機感が迫るようなラップとサウンドがマッチしており、非常に耳に残るような楽曲になっています。さらにインパクトがあるのが続く「Doorman」。テンポよい打ち込みのリズムで疾走感あるトラックは、ロックテイストも強く、テンポよいポップチューンとしておそらくHIP HOPリスナー以外でも十分に楽しめるポップチューンに仕上がっています。
また、「Dead Leaves」や「Inglorious」などはサウンドの側面ではダークという印象が強いものの、そのラップにはどこかコミカルでユーモア感すら漂っています。このようにその表現から感じられるコミカルさが、楽曲にいい意味でのわかりやすさをより与えているような印象を受けました。
もっともそのラップは決してコミカルなだけではありません。例えば「Toaster」ではしっかりと言葉を噛みしめながら語るようなラップが印象に残りますし、「Grow Up」では哀愁感をラップから漂わせています。また「Missing」ではとても悲しげなラップを聴かせてくれるなど、コミカルという以上に非常に表現力豊かなラップが大きな魅力となっています。
このように、彼のラップが表現力豊かだからこそ、言葉がダイレクトに伝わらない私たち日本人にとっても、彼のラップからはどこか伝わるものがあるのではないでしょうか。だからこそ、個人的には彼が今後、もっともっと日本での知名度があがってもいいのでは、と思う大きな要因だったりします。
ちなみにサウンドのタイプ的には全く異なるのですが、彼を聴いていると、どこかEMINEMを思い起こす部分がありました。よくよく考えるとEMINEMもそのラップに喜怒哀楽をはっきりと表してくるミュージシャン。そんなスタイルがslowthaiにも通じる部分があるのかもしれません。そういう意味でもEMINEMが日本でブレイクしたのと同様、彼も今後、十分日本でのブレイクの可能性もあるのでは?いい意味でわかりやすいラップが魅力的な、今、最も注目したいラッパーの傑作です。
評価:★★★★★
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