今でも魅力的な幻の名盤
Title:You're The Man
Musician:Marvin Gaye
主に60年代から70年代にかけてモータウンに所属し、数多くのヒット曲を世に送り出したソウルシンガー、マーヴィン・ゲイ。特に1971年にリリースされたアルバム「What's Going On」はその社会的なメッセージ性を含む歌詞を含めて、ソウルというジャンルを越えて音楽史上に残る名盤の誉れ高い1枚として知られています。本作はもともと、その「What's Going On」に続きリリースの予定されていたアルバム。ただ、先行シングルであったタイトルチューン「You're The Man」がビルボードのソウルチャートでは上位を記録したものの、ポップチャートで伸び悩んだためアルバムのリリースが中止となったそうで、いわば「幻のアルバム」と言える作品。今回、マーヴィンの生誕80年、モータウンの設立60周年を記念し、その「幻のアルバム」がリリースされる運びとなりました。
ただし、「幻のアルバム」といってもその収録予定曲はいままでいろいろな形で世に出ており、今回、未発表ミックスは何曲か収録されていますが、純粋な形での新曲はありません。もっとも、発表されたアルバムはボックス盤の中の1曲だったりして、熱心なファン以外にとってはやはり耳なじみのない曲が多く、また、彼が意図した形でのアルバムでのリリースはやはり非常に意義深いアルバムだと言えるでしょう。
さて、そんな曰く付きのアルバムですが、既に40年以上前のアルバムにも関わらず、今聴いても全く時代を感じさせない名曲が並んでおり、マーヴィンの魅力にあらためて強く惹かれる傑作に仕上がっていました。アルバムは先行シングルでもあるタイトルチューンの「You're The Man」からスタートするのですが、彼がハイトーンボイスで伸びやかに聴かせる中、パーカッションとギターで奏でるリズムが非常にグルーヴィーで心地よく、これがなんでポップスチャートでヒットしなかったか、今の感覚で聴くと不思議になってきます。
その後もピアノやストリングスを入れつつ、その透き通ったボイスでメロウに聴かせる楽曲が並びます。ソウルをベースにAORテイストの強い「Piece Of Clay」や「Where Are We Going?」では心に染み入るような優しい歌声を聴かせてくれたかと思えば、「Try It,You'll Like It」ではソウルフルなボーカルでパワフルに歌い上げるなど、緩急つけたそのボーカルが実に魅力的。「I'd Give My Life For You」などジャジーなサウンドで感情たっぷりにムーディーに歌い上げる楽曲もあったり、ソウルにジャズ、ファンク的な要素を加えメロウに歌い上げるそのスタイルは、現在のネオソウルに続くスタイルも彷彿とさせます。
特に中盤の「My Last Chance」は彼の優しいハイトーンボイスの歌声とメロウなメロディーラインが胸をかきむしられるほど魅力的に心に響いてくる名曲。様々な音楽性を取り入れたそのスタイルももちろん、その歌声、美しいメロディーラインには普遍的な魅力を感じさせ、今でも全く古さを感じさせない理由はそのような普遍性を本作が強く持っているからではないでしょうか。
また本作は歌詞も大きな特徴となっており、前半は社会派のメッセージ性の強い歌詞、後半はラブソングが並ぶ構成になっています。特に前半、タイトルチューン「You're The Man」ではアメリカの現状を嘆いた上にそんな時代を代えたいのなら投票に行くべきと歌う楽曲。さらに続く「The World Is Rated X」は今の世界のひどさを嘆いた上で、こんなひどい世界は子どもに見せられない、18禁にすべきだ、と歌う、ある意味皮肉たっぷりのユーモアを感じさせる歌詞が魅力的。全体的には「愛と平和」を歌う・・・と書くとちょっと陳腐に感じるかもしれませんが、そのメッセージは(残念ながら)今でも強く響いてくる内容になっています。
マーヴィン・ゲイといえば前述したアルバム「What's Going On」ももちろん、1973年にリリースされた「Let Get It On」も名盤の誉れ高く、それだけ脂ののっていた時期ということでしょう。そんな中で企画・制作された本作が悪い訳がありまえん。逆にこれだけの出来にも関わらず、リリースされなかったというのが今となっては不思議で仕方ないのですが。マーヴィンの新たな名盤が登場、そう言っても全く過言ではない傑作アルバムでした。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
Live Through the Years/Billy Joel
Billy Joelの最新作は配信限定リリースのライブ盤。以前に映像作品のみリリースされた公演のライヴ音源や「The Stranger: 30th Anniversary Legacy Edition」のiTunesおよびBest Buyエディションにのみ収録されていたライヴ音源なども収録した内容になっています。年代的に1977年のライブ音源から2006年の音源まで時代順に並んでおり、初々しさも感じさせる1977年の録音に対して、時代を経るにつれボーカルがよりパワフルに、より貫録がついてくるのがよくわかる内容になっています。もちろん、どの時代の音源もメロディアスでポップな彼の楽曲の魅力は健在。ベスト盤的にも楽しめるライブ盤になっていました。余談ですが、15曲目、1994年のドイツでのライブ音源「My Life」に、なぜか日本語で「バカヤロー」と叫んでいるように聴こえる部分があるのですが、なぜ日本語??それとも単なる「空耳」???謎です・・・。
評価:★★★★★
BILLY JOEL 過去の作品
LIVE AT SHEA STADIUM
She's Always a Woman to Me:Lovesongs
A Matter of Trust: TheBridge to Russia
The Balance/Catfish and the Bottlemen
イギリスはウェールズで結成された4人組インディーバンド。いまどき珍しいギミック抜きのストレートなロックバンド。適度にヘヴィーでダイナミックなバンドサウンドを聴かせつつ、疾走感あるオルタナ系の色合いの強いロックチューンも聴かせたりして、ロックリスナーにとっては素直に心地よいギターサウンドを聴かせてくれます。そんなバンドが前作「The Ride」では全英チャート1位を獲得し、本作も2位を獲得とブレイクしているあたり、まだまだロックの人気は根強いな、とも感じさせます。
ただ全体的に骨太のサウンドは最初は非常に心地よさを感じる反面、最後まで聴くと、若干胸やけしてしまうような感覚も。泥臭いサウンドは魅力的ではあるのですが、良くも悪くもひねりのないロックになっており、そういう意味ではちょっと保守的な印象も強く受けるアルバムでした。
評価:★★★★
| 固定リンク
「アルバムレビュー(洋楽)2019年」カテゴリの記事
- 圧巻のステージ(2019.12.29)
- 前作と同じレコーディングで生まれた作品(2019.12.24)
- ゴスペル色が強い新作(2019.12.23)
- バラエティー富んだエレクトロサウンド(2019.12.22)
- 待望の続編!(2019.12.20)
コメント