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2019年6月15日 (土)

アルバム1枚 13,000円也(!)

Title:The KING
Musician:Anarchy

日本の「下流社会」の様子をリアルに描いたリリックが注目を集め、人気を博しているラッパー、Anarchyの新作。今回の新作は、なんといってもその売り方が大きな話題となっています。なんと、CDの販売価格が13,000円(!)。今回の価格設定について本人は「一度でいいから自分が作ったものに自分で値段をつけてみたい」と語っていましますが、ダウンロードやストリーミングなどで簡単に曲が聴ける今だからこそ、あえてCDに価値を見出し、一般的な価格から大きくかけ離れた高値を付けるという試みは非常におもしろいと思います。

ただ、今回、結果としてAmazonのレビューでも荒れてしまったようにその売り方に大きな問題を抱えてしまいました。それは、CDの限定生産を公言し予約を促したのですが、実際はCDだけではなくストリーミングやダウンロード販売も行われた点。もっとも、CD販売に価値を見出さず、どういう形でも曲さえ聴ければいいというリスナーも少なくなく、またその姿勢も決して否定できません。そのため、CDをあえて高値で販売した一方、その試みを良しとしないリスナーのためにもストリーミングやダウンロード販売を行うこと自体については問題ありません。問題は、ストリーミングやダウンロード販売を行うことを当初のCD販売の告知時に公表しなかったこと。その結果、CD自体に13,000円という価値を見出していなくても、他に聴く手段がないから、と考えたファンが泣く泣く大枚をはたいたようなケースが出てしまい、そういうファンにとっては、今回の売り方が一種の詐欺まがいのように感じられる結果になってしまっています。このやり方については事実上、ファンを騙すような恰好になってしまい、非常に残念に感じます。

さて、そんなちょっと「ケチ」がつくことになってしまった今回のアルバムですが、まず大きな特徴としてAnarchyをはじめとする13人のラッパーが参加。ソロ曲1曲の他はすべて他のラッパーとのコラボ作となっている作品になっていました。その唯一のソロ作はタイトル曲であり1曲目を飾る「The KING」。彼とHIP HOPとの出会い、そしてHIP HOPへの愛情と決意を綴ったリリックが印象的。本作は彼のソロ作ですが、数多くのラッパーの名前が登場し、リリックの中で様々なラッパーとのコラボが行われた作品になっています。

リリックが印象的といえば続くMIYACHIとコラボした「Run It Up」が印象的。今風なトラップのサウンドが耳に残る作品なのですが、「いくらいくらいくら?俺の価値はいくら?」というリリックに今回、13,000円という価格設定を行った彼の考えが反映されています。また、コラボという面で一番印象に残ったのが般若とのコラボ「Kill Me」。一発で般若とわかるその声が印象的ですし、またユニークなライムが耳に残りますし、さすがは「ラスボス」と思わせる般若の実力が反映されたコラボになっていました。

アルバム全体としては今風のトラップ風のリズムが目立つダークな雰囲気のトラックが印象的。ただ、正直言うと、13人とのラッパーとのコラボということなのですが、そのコラボがあまり上手くいかされていなかったようにも感じます。その理由として全体的にAnarchyの個性を強く押し出しすぎてしまい、ラッパーの個性がさほど生かされていなかったように感じた点。逆に言うと、それほどAnarchyの個性が強かったということも言えるのでしょうが、もうちょっとゲストの個性を前に出してもよかったのでは?もっとも、般若なんかは十分彼の個性を発揮していただけに、コラボしたラッパーの多くがAnarchyに負けてしまっているというだけのことかもしれませんが・・・。

また、いままでアンダーグラウンドを押し出したリリックが多かった彼でしたが、どうも今回のアルバムではリリックが丸くなった、というよりも若干型にはまったようなリリックが多くなってしまって、「アンダーグラウンド風」のみを醸し出しているだけで、インディーズ時代の「ヤバさ」がなくなってしまっている感を覚えます。もっともこの傾向はメジャーデビュー以降のアルバムに共通する問題点。ただ、そんな中でも今回のアルバムのラストを締めくくる「Lucky13」では、そんな彼の原点とも言える貧乏時代の思い出と感謝をリリックにしており、胸をうつ内容に仕上がっていました。

とりあえず売り方という点はともかくとして純粋にアルバムの内容としては下のような評価で。正直言って、アルバムの内容として13,000円か、と言われると、熱心なファンじゃなければ「うーん」と思ってしまうような感じかもしれません。よほどのファンじゃなければストリーミングか、(ストリーミングは権利の関係か1曲、未配信となっていますので)ダウンロードで十分かと。ちなみにレンタルも解禁されているので、そちらもありかも。試みとしてはおもしろいとは思います。ただその告知方法が残念に感じるアルバムでした。

評価:★★★★

Anarchy 過去の作品
Dream and Drama
Diggin' Anarchy
DGKA(DIRTY GHETTO KING ANARCHY)
NEW YANKEE
BLKFLG


ほかに聴いたアルバム

Sanctuary/中田裕二

ソロとして早くも8枚目となるニューアルバム。相変わらずの歌謡曲路線にはある種の安定感も覚えるのですが、ただ、全体的にはちょっとマンネリ気味。ラップを取り入れた曲もあったり、今回は打ち込みを取り入れた作品も多かったのですが、肝心の歌自体に関してはインパクト不足で、正直なところ、最後の方は飽きてしまいました。そろそろ新機軸を見せてくれるか、もうちょっとメロディーか歌詞にインパクトが欲しいところ。

評価:★★★

中田裕二 過去の作品
ecole de romantisme
SONG COMPOSITE
BACK TO MELLOW
LIBERTY
thickness
NOBODY KNOWS

CHANGES/NAMBA69

ご存じ、Hi-STANDARDのフロントマン、難波章浩率いるNAMBA69のニューアルバム。ko-hey加入後、フルアルバムとしては本作が初となりますが、以前に比べて音がかなり分厚くなり、パンクロックというよりもハードコア的な様相が強くなってきたアルバムになっています。ただし、分厚いサウンドになってもメロディアスでポップなメロは相変わらず。むしろサウンドが分厚くなったため、ポップのキュートさがより際立ったようにも感じられるアルバムでした。

評価:★★★★

NAMBA69 過去の作品
21st CENTURY DREAMS
LET IT ROCK
Ken Yokoyama VS NAMBA69(Ken Yokoyama/NAMBA69)

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アルバムレビュー(邦楽)2019年」カテゴリの記事

コメント

アルバムジャケットの画像が出ていないんですが・・・大丈夫ですか?

投稿: ひかりびっと | 2019年6月16日 (日) 21時52分

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