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2019年5月11日 (土)

バンドとしての貫禄を感じる19年ぶりの新作

Title:9999
Musician:THE YELLOW MONKEY

1996年に大ヒットしたシングル「JAM」をはじめ1990年代後半に一世を風靡したロックバンド、THE YELLOW MONEY。しかしその後、2001年の活動休止を経て2004年に解散を発表します。その後、メンバーそれぞれソロとして活動を続けていたのですが、徐々に再結成の機運も高まり2016年についに再結成。その年の紅白に初出場を果たしました。

その後、セルフカバーによるベスト盤などもリリースされたものの、この手の再結成でありがちなのですが、シングルはリリースされるもののアルバムはなかなか発売されず、ファンをやきもきさせていたものの、今年、ついに待望となるニューアルバムがリリース。約19年ぶりのニューアルバムとなる本作はファンにとってもまさに待ちに待った1作といった感じではないでしょうか。

さて、そんな久々となるTHE YELLOW MONKEYの新作なのですが、アルバムを通じてまずは感じた感想としては、THE YELLOW MONKEYのバンドとしてのある種の貫録を感じさせる傑作になっていた、という点でした。アルバム自体は、実にイエモンらしい楽曲が並ぶアルバムになっていたと思います。1曲目の「この恋のかけら」は、ウォール・オブ・サウンドか??とすら思うような分厚いサウンドからスタートし、少々ビックリしたのですが、やがてイエモンらしいメロディーがあらわれてきます。続く先行シングル「天道虫」はヘビーなギターリフが主導されるバンドサウンドを前に出した、よりロック色が強いナンバー。さらに「Love Homme」「Stars」とバンドサウンドでロックな側面を強調した曲が並び、まずはロックなイエモンを前に押し出したスタートとなっていました。

ただ中盤以降は「Breaking The Hide」では妖艶な雰囲気が楽曲の中で醸し出しており、ここらへんからいわばイエモンのコアな部分が表に出てきた感じ。さらに真骨頂とも言えるのは8曲目に収録されている再結成後初となるシングル「砂の塔」で歌謡曲テイストの強いメロディーラインにストリングスを入れた哀愁感あるサウンドは、まさに歌謡曲とロックを融合させたイエモンらしいナンバー。続く「Balloon Balloon」も疾走感あるサウンドの歌謡ロックとして仕上がっており、ある種のバンドとしての円熟味も感じられる楽曲が並んでいました。

後半も「Titta Titta」など軽快なロックンロールチューンを挟みつつ、ラストを締めくくる「I don't know」も切なさを感じるメロディーラインが歌謡曲テイストを含みつつインパクト大のナンバーで、ほどよい余韻を残しつつアルバムが締めくくられていました。

THE YELLOW MONKEYといえば歌謡曲からの影響を色濃く受けたメロディーラインと洋楽テイストも強いロックなサウンドのバランスが実に絶妙なバンドなのですが、久々となるアルバムはそんな彼らの方向性をさらに推し進め、さらにバンドとして円熟された感を覚えるようないい意味での安定感を覚える傑作に仕上がっていたと思います。

思えばTHE YELLOW MONKEYが以前活躍していた90年代後半は彼らのような歌謡ロックに対する評価が非常に低かったように思います。まだ80年代以前の歌謡曲の記憶が色濃く残っていた時代ですし、クレイジーケンバンドのような「昭和歌謡」を前に出したようなバンドもまだいませんでした。実際デビュー当初からしばらく彼らはヒットに恵まれませんでしたし、ブレイク後も第1回目となるフジロックフェスティバルに出演した際も、客層のメインだった洋楽ファン層からの反応は芳しくなく、ほかのバンドのライブの時も最前列で場所取りをする一部のイエモンファンの悪評ばかりが音楽シーンに残ってしまう散々たる結果となりました。

しかしそれから20年以上の月日が経過してシーンの様子は大きく変わりました。特に歌謡曲に対するイメージも大きく変わり、いまや歌謡曲からの影響を公言するミュージシャンやロックバンドも少なくありません。そんな中、吉井和哉も歌謡曲のカバーアルバムをリリースするなど、ソロ活動を通じて自らの原点を見つめ直してきました。

そして今、まさにミュージックシーンがようやくイエモンに追いついたかのような状況になっている中での再結成と、実に19年ぶりとなる新作は、バンドとしてのその音楽性に対するゆるぎない自信と、ベテランとしてのある種の余裕を感じさせる内容になっていました。だからこそ最初に書いたようなバンドとしての貫禄を感じさせる新譜になっていたのでしょう。作品としてはまさにTHE YELLOW MONKEYらしい作品が並んだアルバムになっているのですが、楽曲の内容は19年前と比べて一段も二段も高みに到達したような傑作アルバムになっていたと思います。

待ちに待ったファンにとっては満足いく傑作だったでしょうし、シーンの中においてもイエモン、ここにありを強調できた作品だったと思います。ただ、ちょっと気になるのは今後もコンスタントに活動を続けていくのかどうか、という点。本作をリリースするまで再結成後3年も経ってしまいましたし、出来れば今後も活動をフェイドアウトさせずにコンスタントに続けて行ってほしいのですが・・・。

評価:★★★★★

THE YELLOW MONKEY 過去の作品
COMPLETE SICKS
イエモン-FAN'S BEST SELECTION-
砂の塔
THE YELLOW MONKEY IS HERE.NEW BEST


ほかに聴いたアルバム

世界でいちばんいけない男~近田春夫ベスト/近田春夫

最近はすっかり音楽評論家としての活動が目立つ近田春夫。ただもともとは日本のポピュラーミュージック史に名前を残すミュージシャンであり、特にHIP HOPのシーンにおいて日本で最も早い段階でラップを取り入れた一人としても知られています。本作はそんな彼のベストアルバム。ただ、縦横無尽に活躍した彼の曲の中で本作はポップやロックな曲に焦点をあてたアルバム。これがニューウェーブからロック、歌謡曲、ロカビリー、ラテン、フュージョンなど様々な作風を取り入れており、まさに彼の音楽的な素養と興味の広さを感じます。正直、ちょっと時代を感じさせる曲もあるのですが、それだけ彼の曲が時代に寄り添った、その時代時代の新しい音を取り入れてきたという証拠。肝心のHIP HOP系の曲は収録されていないのですが、近田春夫というミュージシャンを知る最初の一歩としては最適な1枚でしょう。

評価:★★★★

リラックマとカオルさん オリジナル・サウンドトラック/岸田繁

先日、「交響曲第二番・初演」のCDをリリースしたばかりのくるりの岸田繁ですが、そんな彼の最新作は動画サイト「Netflix」で配信されているオリジナル・ストップモーションアニメ「リラックマとカオルさん」のサントラ盤。いままで何作かサントラ盤を手掛けてきた岸田繁ですが、正直、いままでのサントラ盤はアイディアの断片といった感じで対象となる映像作品を見ていないと楽しめない作品でした。しかし、今回のサントラに関しては、まさに「リラックマ」というイメージがピッタリ来るような、ほっこりとした暖かみを感じる作品が並んでおり、音楽だけで「リラックマとカオルさん」のアニメの魅力が伝わってくるよう。後半は比較的アイディアの断片的な楽曲が並んでしまっているのですが、それでもくるりの新作「SAMPO」を聴くだけでもファン必聴のアルバムだったと思います。リラックマのイメージ通り、だらりんと楽しめるアルバムでした。

評価:★★★★

岸田繁 過去の作品
まほろ駅前多田便利軒 ORIGINAL SOUNDTRACK
岸田 繁のまほろ劇伴音楽全集
岸田繁「交響曲第一番」初演(指揮 広上純一 演奏 京都市交響楽団)
岸田繁「交響曲第二番」初演(指揮 広上純一 演奏 京都市交響楽団)
岸田繁「フォークロア・プレイリスト I」(指揮 広上純一 演奏 京都市交響楽団)

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