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2019年5月31日 (金)

感慨も深い30周年のベスト盤

Title:カーネーション
Musician:辛島美登里

1990年にシングル「サイレント・イヴ」が大ヒットを記録し、一躍人気シンガーの仲間入りを果たした女性シンガーソングライター、辛島先生のデビュー30周年を記念してリリースされたベストアルバム。ちなみにこの「デビュー30周年」というのは1989年にリリースされた「時間旅行」から起算されたもので、実はこの前に何枚かシングルをリリースしており、厳密なデビュー作は1984年の「雨の日」というシングルだそうです。ただ、本格的な歌手活動のスタートという意味で公式的には「時間旅行」が「デビュー作」と謳われているようです。

しかし彼女ももうデビューから30周年かぁ・・・と個人的には感慨深いものがあります。私的な話となりますが、高校時代の友人に辛島美登里の熱烈なファンだった奴がおり、彼につれられて彼女のライブ(正式にはラジオの公開収録)に足を運んだことがあるのが今となってはいい思い出。また、自分にとっても1991年にリリースされた彼女のアルバム「GREEN」は、私がポピュラーミュージックを聴き始めた直後に聴いたアルバムの1枚という意味でも印象深い作品。そういう意味でも自分にとって中高生の頃の思い出が強いシンガーのひとりであって、そんな彼女がもうデビュー30周年という事実に時の流れを感じてしまいます。

もっとも最近は彼女の活動もスローペース。20周年の時もベスト盤「オールタイム・ベスト」をリリースしており、その後にリリースされたアルバムは3枚のみ。さらにその3枚のうち2枚までがカバーアルバムであって、そういう意味では「ベスト盤出しすぎじゃない?」という印象も受けてしまいます。

ただ、その10年前にリリースした「オールタイム・ベスト」は全17曲入りでCD1枚のみという彼女のキャリアを考えればかなり凝縮した構成。本作も同じくCD1枚に17曲のみ収録という凝縮した内容になっており、そのため、前作とはかぶらない曲が多く、「オールタイム・ベスト」を聴いていたとしても今回のアルバムも十分楽しめる構成になっていました。今回のアルバムでも彼女のヒット曲「サイレント・イヴ」「あなたは知らない」「愛すること」などはきちんと押さえられているのですが、「サイレント・イヴ」は今回のアルバムのための再録。「あなたは知らない」は2014年にリリースされたアルバム「colorful」で再録されたバージョンとなっています。「サイレント・イヴ」はここ最近、毎作にように再録がアルバムに収録されており、そろそろ「サイレント・イヴ」のバージョン違いだけを収録したアルバムが1枚出来ちゃうんじゃないか、と思っちゃうんですが(苦笑)。

その他もブレイク前の1990年にリリースしたシングル「ツバメ」やデビュー前に永井真理子に楽曲提供し、彼女が注目されるきっかけとなった曲のセルフカバー「瞳・元気~都会のひまわり~」、シングル「愛すること」のカップリングで知る人ぞ知る的な名曲「明日へのターン」など、前作に収録されていない注目曲も数多く収録されており、そういう意味ではファンにとってもうれしい1枚となっています。

そしてその肝心な内容の方ですが、こちらは言うまでもありません。まさに辛島「先生」という愛称の通りの恋愛に対する大人のレッスンが受けられるような女性心理をしっかりと読み込みつつ、女性に対しての後押しになるような前向きなラブソングの連続。特に彼女の楽曲のスタイルは、デビュー前に楽曲提供された「瞳・元気」から既に確立されており、あらためて彼女の実力を感じさせます。ここ最近は残念ながらあまりヒット曲もなく(というよりも楽曲自体あまりリリースされておらず)、おそらく若い方にとっては辛島先生の名前を知らない方も多いかと思いますが、そんな方にこそ是非とも聴いてほしい名曲が詰まったベスト盤になっています。

ちなみに今回、ラストにアルバムのタイトルチューンでもある新曲「カーネーション」が収録。伸びやかに聴かせるAORに仕上がっているのですが、その歌詞もメロディーも全盛期に比べて全く衰えておらず、ボーカルも今でも澄んだボーカルが魅力的。また積極的に音楽活動を開始すれば、以前のようなヒット曲がリリースできるのでは?と思うほどの出来栄えとなっています。

そんな訳で初心者の方でも文句なく薦められるベストアルバム。ただ一方、そろそろオリジナルアルバムも聴きたいなぁ、とも思えてしまいます。特に新曲が魅力的だっただけに、こんな曲をまたたくさん聴きたい!まだまだこれからのご活躍も期待しています!

評価:★★★★★

辛島美登里 過去の作品
オールタイムベスト
辛島美登里 パーフェクトベスト
colorful
Cashmere


ほかに聴いたアルバム

東京スカパラダイスオーケストラトリビュート集 楽園十三景

スカパラのデビュー30周年を記念してリリースされた、13人のミュージシャンたちがスカパラの曲をカバーしたトリビュートアルバム。うーん、正直言うと、まあ無難なカバーではあるのですが、スカパラの曲をうわべだけでとりあえずカバーしてみましたといった感じの内容がほとんど。まさかのインストカバーに仕上げた氣志團の「砂の丘~Shadow on the Hill~」は良かったのですが、それ以外はいまひとつ、スカパラをトリビュートしているとは感じられない、平凡なカバーの曲が並んでいました。

評価:★★★

Chime/sumika

ストリングスやピアノを取り入れた爽快なポップチューンが魅力的なロックバンド、sumikaの最新作。底抜けに明るいポップチューンが大きな魅力で、楽曲によってはちょっと星野源っぽいかも?と思わせる部分も。メロディーのインパクトも増してきて、人気が高まるとともに脂ものってきているように感じます。ただ一方、悪い意味でルーツレスなJ-POPバンドらしい音楽的な底の浅さもちらほら。ニューオリンズ風の曲なんかもあって彼らの進みたいベクトルはわかるのですが、ソウルやブルースなどの要素が皆無のため楽曲としてどうも薄っぺらさも感じてしまいます。そこらへんは開き直ってメロディーラインの圧倒的なインパクトで突き進むという手もあるのですが、そのほどのグッドメロディーを書けているかというとそれは微妙といった感じ。今後の成長次第といった感じはするのですが・・・。

評価:★★★★

sumika 過去の作品
Familia

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