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2019年5月24日 (金)

暖かい雰囲気に人柄の良さも感じる

Title:Not Waving,But Drowning
Musician:Loyle Carner

新人ミュージシャンの登竜門である「BBC Sound of 2016」やイギリスの最高峰の音楽賞「ブリッド・アワード」へのノミネートなどで注目を集めるイギリスの次世代ラッパー、ロイル・カーナーの2枚目となるアルバム。前作「Yesterday's Gone」ではイギリスのインディペンデンス誌の年間ランキングで1位を獲得するなど高い評価を得ています。それに続く本作も大きな注目を集め、本国イギリスのアルバムチャートでは初のベスト10入りを果たし、3位にランクインされるなど、さらなるブレイクを果たしています。

そんなイギリスの新世代ミュージシャンとして俄然注目を集める彼。本作でもトム・ミッシュやジョルジュ・スミスなどといった新進気鋭のイギリスのミュージシャンたちが多く参加しています。また、彼が綴るラップは彼の日常を綴ったり、内省的なテーマを持ったラップがメイン。さらに最後に収録されている「Dear Ben」は母親のJean Coyleの語りがサンプリングされた曲になっている一方(ちなみに「Ben」はおそらくロイルの本名、Benjamin Gerard Coyle-Larnerの愛称のことと思われます)、このラストに対応する形の1曲目「Dear Jean」もタイトルからして母親へのメッセージを綴った曲。家族へのメッセージ性の強い楽曲がアルバムのキーになっている点も彼の人柄を伺わせます。

そして彼の奏でるトラックは、全体的に彼の人柄を反映されたようなジャズやソウル的な要素を取り入れた優しい印象のトラックが心に残ります。2曲目「Angel」も軽快なドラムのリズムをメインとしつつ、エレピでジャジーなトラックに仕上がっていますし、ゲストミュージシャン、サンファの美しい歌声も胸をうつ「Desoleil」もピアノを軸としたシンプルながらも美しいサウンドが強く印象に残るナンバー。「Krispy」もピアノの美しい音色でシンプルなトラックに強く惹きつけられます。

また、前述の「Desoleil」もそうなのですが、要所要所に入っているゲストミュージシャンたちの歌がちょうどよいインパクトを曲に与えているのも印象的。「Ottolenghi」もテンポよいラップとピアノでメロウなトラックが流れる中で入るジョーダン・ラカイによるハイトーンの美しい歌声が実に心地よく響いてきますし、「Loose Ends」もジョルジャ・スミスによる伸びやかで透き通った歌声が美しく、大きなインパクトとポピュラリティーを曲に与えています。

さらになによりもロイル本人のラップが楽曲の中で大きな魅力になっているように感じました。母親へのメッセージを綴った「Dear Jean」が典型的なのですが、ゆっくりと語るようなラップが彼の特徴。日本人にとっても比較的聴き取りやすいラップになっており(・・・といっても内容がわかるほど聴き取れるわけではないのですが(^^;;)、しっかりとリスナーに対してそのメッセージを届けようとする姿勢もまた、彼の人柄を感じさせますし、なによりもゆっくりと語るようなラップにはどこか暖かみも感じられました。

そんなラップや要所要所に流れる歌、さらにジャズやソウルの要素も強いメロウなトラックが組み合わさり、アルバム全体としてはポップな要素が強く、いい意味で聴きやすいアルバムに仕上がっていた今回の作品。ある意味、トラップやマンブルラップといったアメリカのHIP HOPの傾向とは全く異なるような方向性を向いているのが、イギリス発らしいという印象も受けます。最後まで心地よく、その暖かさがとても魅力的な1枚。最初にも書いた通り、このアルバムでランキングを大きく上げて、さらなる注目を集めるようになった彼。いい意味で聴きやすい内容ですので、日本でももっと注目を集めてもよいアルバムだと思います。広い音楽リスナー層にお勧めできる傑作です。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

The Weeknd In Japan/The Weeknd

昨年、初の来日公演を果たしたカナダ出身のR&Bシンガー、The Weeknd。本作はその来日公演にあわせてリリースされた日本限定のベスト盤。メロディアスで哀愁感あってポップで良い意味でわかりやすいメロディーラインは日本人受けしそうな感じ。一方でトラックにはトラップ的な要素を入れてきて今風を感じさせます。このバランス感覚の良さが人気の秘密かも。日本での人気もまだまだ広がりそうです。

評価:★★★★★

The Weeknd 過去の作品
Kiss Land
Beauty Behind The Madness
STARBOY
My Dear Melancholy,

DANCE PARTY ALBUM/Z-FACTOR featuring JESSE SAUNDERS

今回紹介するのは1984年にリリースされた世界で最初のハウスレコード。もともとアナログ盤で500枚のみリリースされた「幻の名盤」で、今回、シカゴ・ハウスについてのドキュメント書籍「ハウス・ミュージックーその真実の物語」のリリースに合わせて世界初のCD化(+サブスプで配信)となったそうです。

いまから35年も前のアルバムということで、さすがにサウンドについては今聴くとかなりチープ。ただいい意味でシンプルといえば非常にシンプルで、純粋なエレクトロポップとして楽しめるアルバム。「Fast Cars」などは今聴くとハウスというよりもテクノポップみたいな印象を受けるのですが、どこか感じるアジアンなテイストも楽しく、何気に今聴いてもポップソングとして十分すぎるほど機能しているアルバムになっています。どちらかというとその歴史的価値から意義深いアルバムといった感じなのですが、ポップアルバムとして今でも十分楽しめる1枚でした。

評価:★★★★

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