日本をテーマに
Title:246911
Musician:SPIN MASTER A-1&Shing02
ラッパーのShing02が、彼のツアーDJを務めたこともあるDJ、SPIN MASTER A-1と組んでリリースしたニューアルバム。今回のアルバムはShing02にとって2008年にリリースした「歪曲」以来の日本語詞によるアルバムとなります。今回のアルバム、タイトルとなる「246911」はおそらく日本人なら誰もが知っている小の月の語呂合わせ「西向く侍」から取られたもの。Shing02は現在、アメリカ在住なのですが、そんな彼だからこそ「日本人らしさとは何か」ということをよく感じるそうで、今回のアルバムはそんな「和」をテーマとしたアルバムになっていました。
そのため、今回のアルバムで大きな特徴となっているのはトラックに和楽器を多く取り入れている点。1曲目「Mirage/蜃気楼」からまずは美しい琴の音と太鼓のリズムを取り入れたサウンドで楽曲はスタートします。「Kane/鐘」でも琴の音をミニマル・ミュージック的に取り入れているのが印象的ですし、「Gensou/幻想」のように和風な音と今風なトラップ風のリズムを見事融合させているサウンドも見事。「Zantetsu/斬鉄」のような、太鼓や笛の音を用いつつ、ドリーミーに聴かせるトラックも印象に残ります。
またそんなサウンド以上に印象に残ったのがShing02のリリックでした。日本を舞台とした物語的な歌詞が非常にユニークで、「Tanuki/狸」は日本の民話のような、狸とウサギの物語となっていますし、アルバムの中の一つの核となっているのが「Shigurui/死狂い」。本人はインタビューで「八百屋お七の話をサンプリングした」と語っているように、江戸をテーマとした物語に。さらに話はそのまま「Sanzu/三途」へとつながり、ストーリーテラーとしての実力を感じる連作となっています。
和楽器をサンプリングさせたサウンドに日本を舞台にした時代劇的なストーリーが繰り広げられ、まさに「日本らしさ」を体現したアルバムになっていた本作。ただ、和楽器を取り入れれるとベタな和風になってしまう部分が多いのですが、一方では今どきのサウンドも巧みに取り入れることにより、しっかりと今のHIP HOPシーンにキャッチアップされているため、決して「ベタ」には陥っていません。リリックも物語的なリリックが多いため、この手のアルバムにありがちな単純な日本賛美に陥っていない点も聴いていて違和感なくすんなりとその世界観を楽しめた大きな要因だったように思います。
ただ一方、この手の企画にありがちなのですが、自分の理想像を歴史の中に無理やり反映させたフィクション的な歴史観が登場している部分があり、その点は非常に残念でした。具体的に言えば「Jin/陣」。この中で、Shing02は武士を孤高の求道者として描いていますが、その描き方にはかなりの違和感があります。この中で「商人にだまされ 町人に笑われ 農民にたかられ」という表現が出てくるのですが、江戸時代の武士といえば絶対的な権力者。例えば古典落語の世界でも武士は町人たちにいばりまくっていて怖い存在として描かれているように、影でとやかくいわれるのはともかく、面と向かってバカにできる存在ではありません。どうもここ最近、武士やら侍やらを必要以上に美化するような傾向があり、変な理想像に違和感を覚えることが多いのですが、この曲に関しても残念ながら強い違和感を覚えました。
そんなマイナス点はありつつも、ただ全体としては日本というテーマを変に排外主義的な要素と結びつけることなく、うまくHIP HOPの世界に落とし込めていた傑作だったと思います。物語性強い歌詞は多くのリスナー層が楽しめそう。サウンド面でもリリック面でも彼らの実力がよく反映されたアルバムに仕上がっていた作品でした。
評価:★★★★★
Shing02 過去の作品
歪曲
SURDOS SESSIONS: Nike+ Training Run
1200Ways(Shing02+DJ $HIN)
S8102(Sauce81&Shing02)
ほかに聴いたアルバム
KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 25<26 〜これからもヨロチクビーチク〜 Live at 日本武道館 2018.09.07/斉藤和義
ライブツアー毎の毎度おなじみ感の強い斉藤和義のライブアルバム。ただ今回はタイトル通り25周年の記念ライブ、それも昨年9月に実施した日本武道館のライブの演奏曲をすべて収録という内容になっており、選曲もベスト盤的な内容。まさに彼のライブの集大成的な作品となっており、聴き応え十分。彼のライブの魅力はもちろん、楽曲の魅力も十分感じられるアルバムになっていました。
評価:★★★★★
斉藤和義 過去の作品
I (LOVE) ME
歌うたい15 SINGLES BEST 1993~2007
Collection "B" 1993~2007
月が昇れば
斉藤“弾き語り”和義 ライブツアー2009≫2010 十二月 in 大阪城ホール ~月が昇れば 弾き語る~
ARE YOU READY?
45 STONES
ONE NIGHT ACOUSTIC RECORDING SESSION at NHK CR-509 Studio
斉藤
和義
Kazuyoshi Saito 20th Anniversary Live 1993-2013 “20<21" ~これからもヨロチクビ~ at 神戸ワールド記念ホール2013.8.25
KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2014"RUMBLE HORSES"Live at ZEPP TOKYO 2014.12.12
風の果てまで
KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016“風の果てまで” Live at 日本武道館 2016.5.22
斉藤和義 弾き語りツアー2017 雨に歌えば Live at 中野サンプラザ 2017.06.21
Toys Blood Music
歌うたい25 SINGLES BEST 2008~2017
Kazuyoshi Saito LIVE TOUR 2018 Toys Blood Music Live at 山梨コラニー文化ホール2018.06.02
HOMETOWN MUSIC LIFE/坂本サトル
ロックバンドJIGGER'S SONのボーカルで、1999年にはソロでリリースした「天使達の歌」がスマッシュヒットを記録し話題となったシンガーソングライター坂本サトルのニューアルバム。2枚組の作品で、1枚目はリクオや加藤いづみ、松本英子などとのコラボ曲を収録。2枚目はサッカーチームのサポーターや福祉作業所の方、故郷の小中学生に東日本大震災の被災者の方と一緒に作り上げた楽曲を収録。「みんなで作り上げた」という意味で暖かみを感じさせるアルバムになっていました。
楽曲の方は比較的シンプルなポップスがメイン。ただ、今回のアルバムで一番良かったのはリクオと組んだ「タビガラス」で、彼のしゃがれたボーカルはこの曲のようなブルース調の曲に合っているように思います。個人的にはもっとブルース寄りの曲を聴いてみたいなぁ、とも思ってしまいました。また椎名林檎の「ギブス」のカバーも彼の歌声が妙にマッチしていて味わいのあるカバーに仕上がっていました。2014年に故郷青森に拠点を移し、これがその第1弾アルバムだとか。そんなふるさとでの活動開始にピッタリな、温かさを感じるアルバムでした。
評価:★★★★
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