バブル期の空気を伝えつつ、彼女たちのこだわりも感じるカバーアルバム
Title:Endless Bubble~Cover Songs vol.1~
Musician:ベッド・イン
以前、当サイトでも紹介したこともある地下セクシーアイドルユニットを自称するベッド・イン。80年代~90年代のバブルの空気を今に、をテーマにアラフォー世代以上にとっては懐かしさを感じられるバブル期のスタイルを表に出した楽曲が大きな特徴となっています。そんな彼女たちの最新作は、バブル期のヒット曲を取り上げたカバーアルバム。昨年、荻野目洋子の「ダンシング・ヒーロー」のリバイバルヒットが話題になりましたが、バブル期にはその時代を反映させたヒット曲が数多く登場しました(まあ、ヒット曲がその時代を反映するのはバブル期に限った話ではないのですが)。まさに今回のアルバムは、そんなバブル期を彷彿とさせるヒット曲を取り上げることであの時代を懐かしむ、そんなアルバムになっています。
・・・と言いたいのですが、選曲を見ると、おそらくは単純にバブル期のヒット曲を取り上げただけ、というカバーアルバムとはちょっと異なる、彼女たちのこだわりを感じます。確かに「CHA-CHA-CHA」のような、バブルを代表するようなヒット曲もカバーされています。ただ、全体的には女性の強さを歌ったような曲が多かったように感じました。「嵐の素顔」も歌詞として女性の素顔をテーマとしていますし、「目を閉じておいでよ」も男女間のインモラルな恋愛の駆け引きを歌っています。
その典型的なのは久宝留理子の「『男』」のカバーでしょう。実はこの曲自体は1993年のヒット曲でバブル期というよりもむしろバブル崩壊まっただ中での楽曲。バブルの時代の女性といえば、「アッシーくん」だとか「ミツグくん」だとか、男性をあごで使うような態度を取りながらも、その実、そのアイデンティティーはあくまでも男性あってのものだったのに対して、久宝留理子の「『男』」はあきらかに男性に頼らない女性の自立を歌っており、楽曲としてはむしろアンチ・バブルの色合いが濃い楽曲になっています。この曲をあえて選んでいるあたりに、単純にバブルを後追いするだけではない彼女たちの一種のこだわりを感じさせます。
また彼女たちのこだわりはそのサウンドにも感じさせます。まず全体的にロックなナンバーが多い点が特徴的。「あゝ無情」も「嵐の素顔」もかなりハードロックなテイストの強いアレンジになっていますし、ラストを飾る「限界LOVERS」はまさにバリバリのメタルチューン。へヴィーなバンドサウンドをこれでもかというほど聴かせてくれます。そしてそれ以上にこだわりを感じさせるのが、どの曲もバブル時代の空気を感じさせるような、いかにも80年代後半から90年代前半あたりに流行ったような音が使われているという点。ここらへんはあの時代の空気感をサウンドを通じて伝えようとする彼女たちのこだわりを感じさせます。
これもあきらかに「嵐の素顔」ではいかにも90年代的なハードロックのアレンジがほどこされていますし、こちらも典型的だったのが「『男』」のカバーで、原曲はどちらかというと今につながるいかにも90年代J-POPなアレンジなのですが、本作のカバーでは出だしのシンセの音といい、むしろ80年代後半あたりのアレンジがほどこされています。基本的に原曲に忠実なアレンジが多い中でさりげなくバブル時代の雰囲気を強調するようなアレンジになっており、ここらへんにも彼女たちのこだわりを感じました。
そんなこだわりを感じさせる楽曲はいずれもアラフォー以上の世代にとってはとても懐かしさを感じる楽曲ばかり。ほどよくロッキンで、あの頃を思い起こさせるサウンドもとても心地よく、素直にはまれるカバーアルバムだったと思います。そういう意味ではベッド・インというバンドのテーマに合わせつつ、彼女たちの主張も感じされ、かつポップのアルバムとして素直に楽しめる、実によく出来たカバーアルバムだったと思います。タイトル通り、第2弾以降も予定されているのでしょうか。これは次回作も期待したいところ。楽しみです。
評価:★★★★★
ベッド・イン 過去の作品
TOKYO
ほかに聴いたアルバム
続 B面画報/Plastic Tree
タイトル通り、シングルのカップリングだけを集めたいわゆるカップリング集。2007年に前作「B面画報」をリリースしていますので、その後にリリースされた作品だけを収録した2枚組のアルバムとなります。
Plastic Treeといえばヴィジュアル系バンドとしては珍しく、メタル、ハードロック方面ではなく、オルタナ系からの影響が強いバンドなのですが、カップリング曲ではその趣味性がよりはっきりとあらわれる形になっています。さらにエレクトロサウンドを取り入れたり、ハードコア色が強い曲があったりと、全体的にオリジナルアルバムよりも自由度の高い内容に。個人的にはオリジナルアルバムよりも楽しめたかも。
評価:★★★★
Plastic Tree 過去の作品
B面画報
ウツセミ
ゲシュタルト崩壊
ドナドナ
ALL TIME THE BEST
アンモナイト
インク
echo
剥離
doorAdore
フレデリズム2/フレデリック
オリジナルフルアルバムとしては約2年4ヶ月ぶりとなるフレデリックの新作。歌謡曲の要素すら感じられる哀愁感あるメロディーラインにダンサナブルなエレクトロサウンドをバンドサウンドと組み合わせるというスタイルは以前から大きな変化はありません。それなりにインパクトもあってライブは楽しそうだな、という印象は受けますし、昨今、フェス仕様のバンドが増える中では彼らなりの個性は感じさせます。個人的には楽曲にもうちょっとバラエティーがあった方がより面白いとは思うのですが・・・。
評価:★★★★
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2019年」カテゴリの記事
- 彼女の幅広い音楽性を感じる(2019.12.26)
- 80年代に一世を風靡した女性ロックシンガー(2019.12.28)
- 2つの異なるスタイルで(2019.12.14)
- ミュージシャンとしての矜持を感じる(2019.12.17)
- 2019年最大の注目盤(2019.12.13)
コメント
ベッド・インのカバー・アルバムは彼女たちのラディカルな部分が聴いていて伝わってきたのが良かったですね。
投稿: ひかりびっと | 2019年5月17日 (金) 18時34分