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2019年5月21日 (火)

買って応援

今年3月、あるニュースに衝撃が走りました。ピエール瀧逮捕。最近では役者としての活躍も目立った彼の薬物犯罪での逮捕というニュースは連日、ワイドショーを中心に大きく取り上げられました。そんなニュースを受け、電気グルーヴの所属するソニーレコードでは電気グルーヴの過去のCDの回収・出荷停止を決定。さらにサブスプの配信も停止されたことから大きな衝撃が広がりました。ただ、これについては音楽という作品と、それを作った本人の犯罪とは別物という当然の議論が巻き起こり、出荷停止に抗議する署名活動も起きたほか、著名人からこのレコード会社の行動に対する疑問の意見も相次ぎました。

実は今回の電気グルーヴのCD回収・出荷停止騒ぎの中であまり指摘されていない事実があります。それは、電気グルーヴに関する書籍については回収・出荷停止という事態は全く起こっていないということ。例えば今回紹介する今年2月に発売された「電気グルーヴのメロン牧場ー死神は花嫁<6>」も現在、普通にAmazonでも取り扱いがされていますし、書店で購入することもできます。

邦楽専門誌「ROCKIN'ON JAPAN」に長年連載を続けている電気グルーヴの対談集を一冊にまとめた単行本のこれが6冊目。ちなみに回収・出荷停止にしていないというのは明らかに意図的で、ピエール瀧逮捕直後の「JAPAN」誌の中でもはっきりと「好評発売中」と宣伝されていました。ちなみにこういう方針なのはロッキン・オンだけではなく、誠文堂新光社が5年前に発刊した「電気グルーヴ×アイデア―電気グルーヴ、石野卓球とその周辺。」も問題なくAmazonで取り扱いがありますし、それこそピエール瀧本人名義の「ピエール瀧の23区23時」すら、問題なくKindleで配信されています。

これは思うに、単純に「CDに比べて目立たないから」とかではなく、おそらく自ら言論・表現の自由を担っているという自負が出版社にはあり、簡単に自らの出版物を回収したり出荷停止にしたりはしないとい、出版社としての矜持があるからはないでしょうか。そう考えると、レコード会社が簡単にCDを回収・出荷停止してしまうというのは同じく表現の自由を担わなければいけない立場であるはずなのに、あまりにも情けなく感じてしまいます。

私が今回、本書を買った最大の理由はそんな出版社の心意気に対して買って応援したいと思ったから。電気グルーヴのCDやDVDをいままでいろいろ買ってきた私ですが、正直、トークをまとめただけの内容に1,400円はちょっと高いかなぁと思っており、発売当初は手が出ませんでした。そんな経緯がありつつ今回、購入してみた訳ですが・・・これが予想していたよりおもしろかった!いやぁ、十分1,400円+消費税という価値のある満足度の高い一冊でした。

身の回りの日常ネタにサブカルネタや下ネタなどを交えた毒のあるトークが終始冴えわたっていて、特に今回、単行本として読んでみると、トークの主導権を握っているのはあくまでも石野卓球ということに気が付きます。ただ一方、様々なサブカルネタなどを入れつつ飛びまくっている石野卓球のトークをしっかりと受け取っているピエール瀧との相性の良さも抜群。本書の中でも「うちらは、一緒になってからアイデンティティを得てるから、そこがブレない」(p358)と語っていますが、そんな2人の仲の良さが会話の節々から伝わってきます。

また、そんな中でも世の中の常識・良識に対して疑いの目を向け、時としてそんな常識のうすっぺらさをおちょくっているやり取りも印象に残ります。「ファン」を否定して「結局世の中は、客か、客じゃないか!(笑)」(p62)なんて衝撃的な発言があったり、「結婚式とかやる奴、信用できないんだよ、誰ひとりとして(笑)」(p268)と結婚式(というよりは披露宴?)の無意味さを指摘したり、「変な奴とかが楽屋挨拶に来たりするじゃん。どうでもいいのにさあ。」(p29)と芸能界のしきたり的なものに疑問を呈したり、デビュー当初からの「世の中の良識をおちょくる」というスタイルは、2人とも50歳を超えた今でも一切変わりません。

そして今回、今となってこの本を読むと、2人の・・・というよりも石野卓球のスタイルがピエール瀧逮捕という衝撃的なニュースを経ても全く変わっていないことに驚かされます。特にTwitterでの飄々とした発言は一部のメディアに批判されつつも多くのファン(客?)にとってはそのぶれない姿勢を絶賛されています。そんな中でも石野卓球本人にからんでくるイタイ発言に対して、彼はスルーすることなく反論しているのですが、本書の中に石野卓球のこんな発言が登場します。

「SNSとか放っときゃいいっていうけど、そうはいかないぜ?放っとけないやつもあるし、追い詰めたほうがいいやつもあるんだよ。俺、追い詰めるから(笑)。だって追い詰めないとさ、これOKなんだっていうふうになるから。自由な校風になると学級崩壊っていうか」(p299)

まさに今の彼のTwitterでの姿勢はこの発言そのものですし、瀧逮捕のニュースでおかしな奴が大量に集まるようになってもスタンスを全く変えない彼の姿勢には素晴らしいものがあります。また、この発言もそうなのですが、電気の2人は一見すると飄々とした態度を取りながら、実はしっかりとした考えの下で行動を起こしており、今回、メディアなどで話題となったTwitterでの石野卓球の発言も、しっかりとその影響を考えての上なんだろうなぁ、と実感しました(と思っていたら最新のROCKIN'ON JAPAN6月号の「メロン牧場」でちゃんとTwitterの発言の趣旨を語っていましたね)。

ただ、2人が、というか特に卓球自身がどちらかというと論理的に語るというよりは感情的に語っている部分が多いため、読んでいて若干わかりにくくなる部分もなきにしもあらずなのですが(笑)、それもある種の味として、本当に楽しくって、過去の書籍も遡って読んだみたくなりました。どうも「メロン牧場」自体も事件に関係なく今後も連載が続くようですし、まだまだ彼らのトークは楽しめそう。ピエール瀧はしっかりと罪を償って、そして電気グルーヴとして活動を再開することを、ファンとして待っています!

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