メロディーセンスの良さが光る2枚組
途中もコンスタントにライブを実施したり、毎年紅白に出演したり、新曲を発表していたりしていたのでちょっと意外にも感じられるのですが、SEKAI NO OWARIのニューアルバム、なんと約4年ぶりのリリースとなりました。そしてアルバムリリース間隔が空いたためストックが様々とたまった影響でしょうか、なんと2枚同時のリリースとなりました。それが「Lip」「Eye」。それぞれ13曲入りのフルアルバムとなっています。
Title:Lip
Musician:SEKAI NO OWARI
Title:Eye
Musician:SEKAI NO OWARI
ただ、初動売上24万7千枚を記録した前作「Tree」から比べると、新作の初動売上は「Lip」が7万7千枚、「Eye」が7万5千枚と大きくダウン。かなり厳しい結果になっています。もともとSEKAI NO OWARIというと小中学生のファンが多いバンドで歌詞の内容も正直、若干低年齢層に受けそうなファンタジックな内容が多かっただけに4年の間に「卒業」してしまったファンが多かったようです。
そんな状況の中で今回、2枚同時にリリースされたアルバムですが、その2枚の方向性には明確な違いがあり「Lip」はポップな曲調でいわばSEKAI NO OWARIらしい楽曲が多く収録されているのに対して、「Eye」の方は彼らにとって音楽的にあらたな方向性を模索するような挑戦的な曲が収録されています。
もっともバンドにとってもこの4年で環境がガラリと変わり、特にメンバー4人のうち3人までが結婚。Saoriは1児の母になるなど特にプライベートにおいて彼らをめぐる環境も大きく変わったようです。その影響はアルバムの中でも顕著に感じられ、いままでのような中2病的な歌詞は大幅に減ったように感じます。「Lip」の1曲目などはいきなり「YOKOHAMA blues」などタイトルからして大人びた雰囲気を感じさせるようなムーディーなナンバーからスタートしていますし、ちょっと大人になった彼らの姿を感じることが出来ます(・・・って、メンバー全員30歳をとっくに超えているいい大人なんですけどね(苦笑))。
ただ、セカオワらしい曲を集めた「Lip」の方はやはり彼ららしいファンタジックなナンバーが多く、「千夜一夜物語」や「Error」などはまさにSEKAI NO OWARIらしいファンタジックな世界観をベースとした作品に仕上がっており、ここらへんは以前からのファンにとっては期待通りといった感じでしょうし、そうでないのならちょっと苦笑いしてしまうような雰囲気の曲になっています。もっとも彼らの問題点はこのような中2病的な世界観ではなく、歌詞の中で心境をほとんど説明してしまう情報過多で行間を読ませることをしない、という点であって、残念ながら今回のアルバムにもそんな曲はチラホラ。例えば「サザンカ」の歌詞は「いつだって物語の主人公は笑われる方だ 人を笑う方じゃないと僕は思うんだよ」という歌詞が登場しますが、「人を笑う方~」以降の歌詞が完全に蛇足。「~笑われる方だ」で終わった方が余韻が残っていいように思います。
しかし、彼らの大きな利点であるメロディーの良さは今回のアルバムで遺憾なく発揮されていたと思います。特に「Lip」の前半は哀愁感あるメロがインパクトの「YOKOHAMA blues」からスタートし、切ない雰囲気が胸に迫るようなナンバーが並び、グッとくるものがあります。後半は正直いかにも彼ららしいファンタジックなメロや「Error」のようなちょっとチープに思えるような世界観に鼻白んでしまったのですが、彼らの魅力が十二分に発揮されていたように思います。
また今回の2枚組のうち、興味深く聴くことが出来たのが「Eye」の方で、ちょっとジャジーな「ANTI-HERO」や和風なサウンドに挑戦した「夜桜」、スウィングのリズムを取り入れた「Monsoon Night」など様々な作風の曲が並び、彼らの音楽的な強い意欲を感じさせます。さらに「Food」「Re:set」「Witch」などエレクトロサウンドを取り入れた楽曲も並び、最後はビックビート風の「スターゲイザー」はちょっとサウンド的にベタさも感じるもののロックとエレクトロサウンドを融合させたダイナミックな作風は個人的にも壺。サウンド的な面でかなり楽しむことが出来ました。
またいろいろな作風に挑戦しつつアルバム全体としてきちんとセカオワの作品として仕上がっているのはやはり彼ららしいしっかりと聴かせるメロディーラインがどの曲にも入っている点が大きいと思います。メロディーという土台がしっかりしているからこそ、その上で好きなことをやれるのでしょうし、そして今回の「Eye」はまさに美しいメロディーの上で好き勝手に曲を仕上げてきたアルバムになっていました。
まさに彼らの書く美しいメロディーラインがしっかりと作品を支えた2枚のアルバム。また曲の世界観もいままでに比べてちょっと大人の階段を上ったようにも感じました。正直、彼らの環境も変わり、作る音楽にも今後さらに変化が生まれてきそうな予感もします。大人になったセカオワがどのような音楽を作っていくのか、心配な部分もありますが、今後の彼らにも注目です。
評価:
Lip ★★★★
Eye ★★★★★
SEKAI NO OWARI 過去の作品
EARTH
ENTERTAINMENT
Tree
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