アフリカン・アメリカンにバンジョーを取り戻す
Title:Songs Of Our Native Daughters
Musician:Our Native Daughters
グラミー賞でベスト・トラディッショナル・フォーク・アルバムを受賞したアメリカン・ルーツ・ミュージック・グループ、キャロライナ・チョコレート・ドロップスのメンバーで、バンジョー、フィドル、ギターなど様々な楽器を手掛けるマルチインストゥルメンタリスト、リアノン・ギデンズを中心として黒人女性4人により結成されたバンド、Our Native Daughters。上のジャケット写真ではバンジョーを抱えた4人の女性が写っています。バンジョーというとカントリーウエスタンの楽器として日本人にもイメージされやすい楽器ですが、もともとはアフリカがルーツの楽器。このOur Native Daughtersというバンドはアフリカン・アメリカンがバンジョーを取り戻すというひとつの意義を抱えて活動を行っているそうです。
このバンジョーを取り戻すというコンセプトもそうなのですが、今回のアルバムは黒人差別や女性差別などを真正面から取り上げた作品に仕上がっています。黒人だからこそ経験する差別について歌い上げる「Black Myself」からスタートし、「Quasheba,Quasheba」はガーナ人の女性奴隷の過酷な運命を描いた歌、「Mama's Cryin' Long」もシンプルな手拍子のみをバックにアカペラで歌われるコール&レスポンスの歌ながらも、曲中の「Mama's dress is red」という歌詞は「ママのドレスが血で染まっている」という内容だそうで、過酷な奴隷労働を描写した歌詞となっているそうです。
そんなある意味、非常にヘヴィーなテーマを抱えたコンセプチャルなアルバムになっているのですが、楽曲を聴いた印象としては決して重苦しいという印象はありません。むしろバンジョーの明るく軽快な音色がインパクトとなって、ある種の爽快さすら感じられるナンバーが並んでいます。例えば「Moon Meets the Sun」はフォーキーで美しい演奏に伸びやかなボーカルが歌を切なく聴かせる爽やかなポップチューン。「Better Git Yer Learnin'」もフォーキーで軽快な明るさを感じる楽曲に仕上げています。「Music and Joy」もタイトル通りの楽しさを感じさせるバンジョーの音色が軽快な明るいポップチューンに仕上げており、純粋にポップなアルバムとして楽しめる作品に仕上がっています。
またユニークなのはバンジョーという楽器はフォークやカントリーというイメージが強いのですが、アフリカン・アメリカンの手に取り戻すというコンセプトに従ったためでしょうか、むしろブルースやソウルの要素を強く感じる曲が目立つのも強い印象を受けました。冒頭にも取り上げた1曲目「Black Myself」も力強いボーカルで、ジャンル的にはブルースにカテゴライズされそうなナンバーですし、ボブ・マーリーのカバー「Slave Driver」もブルージーなカバーに仕上げています。ここらへんの曲調についてはまさにアフリカン・アメリカンの魂的なものを感じさせる作風と言えるのかもしれません。
そんな重いテーマを取り上げつつ、ラストは「You're Not Alone」と、タイトル通り、みんなの背中を押すような曲を最後に配しているのも彼女たちの強いメッセージを感じさせます。ラスト前の曲も「Music and Joy」とまさに喜びを感じさせるような曲になっていましたし、聴き終わった後は希望をもって明るく前を向けるようなそんな構成になっていました。重いテーマを投げかけるだけではなく、その向こうにある希望もしっかりと歌っている点も素晴らしい構成のアルバムだったと思います。
バンドとしてメッセージ性を持ちつつ、一方ではしっかりエンタテイメント性も両立させていた心地よい傑作アルバム。ただ、彼女たちが歌っている歌詞のテーマはいまでも重く、私たちにのしかかっていることを忘れてはいけません。特にアメリカのみならず世界各地で排外主義がはびこりつつある現状において、このアルバムが提示するメッセージは残念ながら今の社会において私たちの大きな課題となっています。残念ながら英語で、かつ背景にある文化を知らなくては読み取りにくいメッセージも多いためストレートに伝わってこない部分も多々あるのですが・・・いろいろな意味で非常に強い印象を私たちリスナーに与えてくれるアルバムでした。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
Wait And Return EP/Noel Gallagher's High Flying Birds
元oasisのお兄ちゃん、ノエル・ギャラガー率いるNoel Gallagher's High Flying Birdsの新作は配信限定3曲入りのEP盤。前作「Who Built the Moon?」でもoasisのイメージを変えるような挑戦的な作風の曲が目立ちましたが、本作は、その「Who Built the Moon?」に収録されている3曲のリミックスアルバム。3曲が3曲ともイメージの違う作風になっており、ノエルのあくなき挑戦心を感じさせます。oasis再結成の要望も非常に強い状況ですが、ノエル・ギャラガーのソロもまだまだ今後の活動が楽しみになってくるEPでした。
評価:★★★★★
NOEL GALLAGHER'S HIGH FLYING BIRDS 過去の作品
NOEL GALLAGHER'S HIGH FLYING BIRDS
CHASING YESTERDAY
Who Built the Moon?
History/Youssou N'Dour
セネガル出身、アフリカ音楽界を代表するミュージシャン、Youssou N'Dourの新作。基本的に欧米向けのアルバムということでトライバルな要素はちょっと薄め。哀愁感あるメロディーラインでのびやかに聴かせる垢ぬけたポップスが続きます。特に「Hello」は実に今どきのR&Bといった感じで、最初、聴くアルバムを間違えたか?と思ったくらい・・・。個人的にはやはりもうちょっとトライバル色が強いアルバムが好みなのですが、純粋にポップスアルバムとしては完成度の高い作品に仕上がっていました。
評価:★★★★
Youssou N'dour 過去の作品
AFRICA REKK
Seeni Valeurs
| 固定リンク
「アルバムレビュー(洋楽)2019年」カテゴリの記事
- 圧巻のステージ(2019.12.29)
- 前作と同じレコーディングで生まれた作品(2019.12.24)
- ゴスペル色が強い新作(2019.12.23)
- バラエティー富んだエレクトロサウンド(2019.12.22)
- 待望の続編!(2019.12.20)
コメント