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2019年5月18日 (土)

厳しい現実と日常を描写

Title:Ride On Time
Musician:田我流

山梨県一宮町(現笛吹市)出身のメンバーを集めたHIP HOPクルー、stillichimiyaのMCとしても活躍しているラッパー、田我流。2014年にstillichimiyaとしてのアルバムを、また2015年には田我流とカイザーソゼ名義によるバンドプロジェクトでのアルバムをリリースしていますが、純粋にソロ名義でのHIP HOPアルバムとしては2012年の「B級映画のように2」以来となる、久々のニューアルバムがリリースされました。

その前作「B級映画のように2」ではリリースが福島原発事故の直後ということもあり、反原発を前に押し出した社会派な色合いが強いナンバーに。またトラックとしてもヘヴィーなトラックを聴かせてくれており、社会への不安をテーマに載せたアルバムに仕上げていました。今回のアルバムも「Broiler」というある種の監視社会となる現代社会への警告をテーマとした社会派な曲が序盤に入っており、また「Vaporwave」も現在の無機質で寂しい郊外の模様を描写するなど、社会派的なメッセージを感じさせる曲がまずは目立ちます。

ただ、一方では今回のアルバムは現実の日常を描写した歌詞が目立ったように思います。特に印象的なのは「Deep Soul」で、家族を持った父親が、いかに家族を守るかというテーマ性を持った厳しい現実を描写したリリックになっており、暗い雰囲気のトラックと相成り、非常に印象的なラップに仕上げられています。思えばstillichimiyaというHIP HOPクルーも地元一宮町の合併反対という社会派的なテーマ性を持ちながら、あくまでも「地元」という日常に立脚するスタイルを取っています。それと同様、前作では社会派なテーマ性をかかげた田我流ですが、今回のアルバムではあくまでも日々の日常に立脚したスタイルがメイン。社会派な歌詞も、そんな日常の延長線上にある、ととらえているのかもしれません。

また、サウンド的には今回、前作から大きく変化しています。ハードコアとまではいかずとも比較的ヘヴィーな作風が目立った前作に比べると、今回のアルバムは「Back In The Day 2」やタイトルチューンの「Ride On Time」などトラップからの影響を強く感じるサウンドの曲が並びます。さらには「Simple Man」「Changes」などエレクトロサウンドを入れつつメロウにまとめているトラックも目立ち、ヘヴィーというよりもダークだけども哀愁を感じるトラックが多いように感じます。トラップからの影響というのは、ある意味、今の時代にアップデートした結果といった感じなのでしょうが、全体的には歌詞のテーマ性も含めて、ヘヴィーなトラックでゴリゴリと主張する前作に比べると、サウンドからは等身大的なスタイルを感じました。

そんな日常の現状を描写しつつ、実質上のラストチューンとなる「Anywhere」はメロウな女性ボーカルによる歌を取り入れ、スチールパンを取り入れ、少々カリブ風なサウンドも含めさわやかな雰囲気に。また、歌詞には力強く前向きなメッセージ性も感じられ、最後は明るい雰囲気を感じさせます。

ただし、そんな明るい雰囲気のラストに対して気になるのが今回のアウトロ。今回、1曲目とラストはそれぞれイントロとアウトロと位置づけられているのですが、忘れ物をみつけ、約束に間に合わず、田我流が車に飛び乗って急いで出発しようとしている、ある種のあせりを感じるイントロに対して、アウトロの最後は田我流が奥さんと子供と一緒に車に乗って出発しようとする明るい家族の日常で終了。アウトロとイントロはループするような構成になっているのも印象的。これに関してはいろいろな解釈ができそうですが・・・。明るい雰囲気の終盤と暗い雰囲気の序盤をループさせ、明るい日常も突然、変わっていくということを示唆しているのかもしれません。

前作からするとアルバムの印象が少々変化した今回のアルバムですが、今回も田我流のメッセージを感じさせる、ついつい何度も聴きたくなる傑作アルバム。今回のアルバムも必聴です。

評価:★★★★★

田我流 過去の作品
B級映画のように2


ほかに聴いたアルバム

"TWO OF US"Acoutsic Session Recording at VICTOR STUDIO 302/LOVE PSYCHEDELICO

LOVE PSYCHEDELICOが、自身初となるアコースティックライブツアー「LOVE PSYCHEDELICO Premium Acoustic Live “TWO OF US” Tour 2019」に先立ち、3月6日にビクタースタジオで行ったセッションライブの模様を収録したアルバム。映像作品がリリースされるのと同時に、配信限定でアルバムもリリースされました。ライブの趣旨の通り、アコースティックなセッションとなっている本作。全編アコースティックギターの音色が効果的に用いられており、これがまたLOVE PSYCHEDELICOのロッキンな作風とピッタリマッチ。ある意味、彼女たちの楽曲のコアな部分がむき出しになったような演奏が繰り広げられており、非常にカッコいいセッションになっていました。これはこのアレンジでのアルバムリリースも期待したいほど。ゾクゾクっとするカッコよさを感じさせる作品です。

評価:★★★★★

LOVE PSYCHEDELICO 過去の作品
This Is LOVE PSYCHEDELICO~U.S.Best
ABBOT KINNEY
IN THIS BEAUTIFUL WORLD
LOVE PSYCHEDELICO THE BEST I
LOVE PSYCHEDELICO THE BEST Ⅱ

15th ANNIVERSARY TOUR-THE BEST-LIVE
LOVE YOUR LOVE
LOVE PSYCHEDELICO Live Tour 2017 LOVE YOUR LOVE at THE NAKANO SUNPLAZA

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