歌詞が強く印象に残る
Title:阿部真央ベスト
Musician:阿部真央
今年メジャーデビュー10周年を迎える女性シンガーソングライター阿部真央。10周年を迎えた彼女がひとつの区切りとしてリリースしたのが今回のベストアルバムです。全2枚組となる今回のベストアルバムはデビューアルバムの1曲目に収録された「ふりぃ」からスタート。純粋な発表順ではないようですが、ほぼ彼女の活動に沿った形での曲順になっており、彼女のミュージシャンとしての歩みがわかる構成となっています。
さて彼女はいまから10年前、まだ19歳という若さでデビューを果たしました。この頃の彼女の書く歌詞は19歳という彼女の年齢をそのまま反映した「大人と子どもの狭間で悩む10代の本音」を描くスタイル。本作に収録されている「17歳の唄」がまさに典型的なのですが、まさにそんな微妙な年ごろのティーンエイジャーの心境を描く歌詞が大きな特徴となっています。
この微妙な年ごろのティーンエイジャーの本音を描く、と言うと一人思い出されるミュージシャンがいます。それは渡辺美里。彼女のデビュー当初の歌詞のテーマも、まさに大人と子どもの狭間で悩む10代の本音。ポップ寄りのロックという音楽のスタイルも似ていますし、デビュー当初の阿部真央のスタイルは何気に渡辺美里と被る部分が多いことにいまさらながら気が付かされました。
ただ、その後比較的すんなりポップス路線にシフトした渡辺美里と比べると阿部真央の場合はその後、その方向性に悩んだように感じます。特にデビュー2枚目のアルバムとなる「ポっぷ」はこのベスト盤に収録されている「モンロー」のようないきなりきゃりーぱみゅぱみゅか?と思うようなアイドル風のエレクトロポップが登場するなど、あきらかに方向性の迷いが見えます。私はこの「ポっぷ」というアルバムではじめて彼女のアルバムを聴いたのですが、あまりにもバラバラな方向性を当時酷評しました。ただいまから考えると、10代から20代になって大人になった彼女の音楽性の迷いが反映されていたアルバムだったんだな、ということにこのベスト盤で気が付きました。
しかしその後の彼女については、ギター主体のシンプルなポップスロックというスタイルを軸に女の子の本音をわかりやすい言葉で歌うというスタイルをしっかりと確立したように感じます。異性のおもわせぶりな行動に勘違いして恋してしまった人の切ない心境を描く「じゃあ、何故」は女性ならずとも男性にも歌詞が胸に迫ってきますし、恋人を思う気持ちを歌う「天使はいたんだ」は恋が成就した歌詞なのですが、彼女の思う気持ちに切なさを感じてしまう表現が見事。また、「Believe in youself」など力強い前向きのメッセージソングも目立ちます。
一方では「ストーカーの唄~3丁目、貴方の家~」のようなストーカーじみた行動を描くちょっと怖い曲もあったり、「クソメンクソガールの唄」のような言葉は悪くても自分に自信がなく自分なんてと思っているような人たちに対して力強く応援するような優しさを感じさせる曲もあったりとテーマ性を含めてインパクトのある楽曲も少なくありません。
楽曲面では比較的シンプルなギターロックがメインなのですが、シンプルなだけに歌と歌詞がしっかりと心に届いてくるような曲が多いのが魅力的。デビュー直後はいろいろと方向性に悩んでいたような彼女でしたが、今はしっかりと阿部真央のスタイルを確立したように感じます。
ただちょっと気になるのは、来年30歳になる彼女。さらに大人な女性となっていくわけですが、そんな中、彼女の歌詞のスタイルがどのように変化していくのか気になります。渡辺美里の場合、20代は見事な大成功をおさめましたが、30代以降、「大人の女性」へのシフトに完全に失敗し、人気的にも音楽的にも失速してしまいました。彼女の場合は本作でも「母である為に」のような子どもに対する母としてのメッセージソングがあったりと、それなりに大人の女性へのシフトを果たしていますが、ただ全体的には20代らしい若々しさを感じる歌詞がメイン。30代となり上手く年齢なりのスタイルにシフトできるのか・・・これから10年は彼女にとってさらなる勝負が待ち構えていると言えるかもしれません。
そんな訳で、いままで10年を振り返ると同時に、来年30歳を迎える彼女にとっては間違いなくひとつの区切りの時期である今だからこそリリースされたベスト盤と言えるかもしれません。これからの彼女がどのように進んでいくのか不安もありますが楽しみでもあります。これからも彼女の活動には要注目と言えるでしょう。
評価:★★★★★
阿部真央 過去の作品
ポっぷ
シングルコレクション19-24
おっぱじめ
Babe.
YOU
ほかに聴いたアルバム
誰もが勇気を忘れちゃいけない~大事なことはすべて阿久悠が教えてくれた~
名実ともに日本歌謡界を代表する作詞家として知られる阿久悠。本作は彼の膨大な仕事の中からアニメソング、特撮ソング、キッズソングなどを収録したオムニバスアルバム。「ウルトラマンタロウ」や「宇宙戦艦ヤマト」などリアルタイムで聴いていない世代でも知っているような有名曲も収録されていますが、大半はリアルタイム世代以外にはなじみのない曲が並びます。ただ、アニソンにしろ特撮ソングにしろ、番組を見ていなければわからないような固有名詞や番組の内容に沿った歌詞が並ぶ曲が多く、最近のアニソンとの違うは感じます。表現にしても今となっては微妙な表現も少なくなく、「昭和」という時代を感じる内容に。そんな中にこのオムニバスアルバムのタイトルのような子どもたちへのメッセージも巧みに織り込まれており、作詞家としての力量を感じさせます。ジャケットは最近話題の漫画「王様ランキング」から取られているようで、若い世代が惹きつけられそうですが、内容的にはむしろ50代、60代あたりが懐かしく感じる内容かも。
評価:★★★★
CENTER OF THE EARTH/a flood of circle
ギターにアオキテツが正式メンバーとして加わった後に制作された初となるアルバム。いままでのアルバムに比べてかなりポップス色が強いアルバムで、「Youth」などは歌詞も含めて一時期流行った青春パンクか?と思うような内容に。ボーカルの佐々木亮介は声が端整なため、ポップ色に走ると途端に悪い意味での平凡なJ-POP的な作風に陥ってしまう危険性が大きいのですが、ガレージ色が薄くなってしまった本作は残念ながらその傾向が強くなってしまった印象も。疾走感ある「ハイテンションソング」などカッコいいナンバーもあるのですが・・・。
評価:★★★
a flood of circle 過去の作品
泥水のメロディー
BUFFALO SOUL
PARADOX PARADE
ZOOMANITY
LOVE IS LIKE A ROCK'N'ROLL
FUCK FOREVER
I'M FREE
GOLDEN TIME
ベストライド
"THE BLUE"-AFOC 2006-2015-
NEW TRIBE
a flood of circle
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コメント
こんにちわ。いつも楽しく拝見しております。
「ポっぷ」のレビューを拝見しましたが、
阿部真央の場合、アルバムの曲・歌詞のバラエティ・雑多性がそのまま阿部真央のオリジナリティだと思ってます。
あまりギターロックっぽい曲ばかり出しても他のアーティストとの差別がはかれないというか。
今後、阿部真央には30代なりの音楽を期待するブログ主様ですが、
私としてはこれまで通りのバラエティを期待しています。
投稿: 愛読者 | 2019年4月18日 (木) 11時53分
>愛読者さん
ご意見ありがとうございます。確かに楽曲のバラエティー、雑多性は彼女の魅力だと思います。ただ「ポッぷ」はその雑多性があまりにも暴走してしまったように感じました。ただ、最近の彼女はギターロックを主軸にしつつ、いい感じでバラエティーを出しており、そういう意味ではいい形に彼女の個性が出せているのかな、と思っています。これからも楽しみなミュージシャンです。
投稿: ゆういち | 2019年4月19日 (金) 00時14分