がんばれ!メロディー
Title:がんばれ!メロディー
Musician:柴田聡子
柴田聡子のニューアルバムについて、まずそのタイトルの良さが目につきます。「がんばれ!メロディー」。ポップソングのアルバムタイトルとしてとてもかわいらしさを感じますし、また「メロディー」というポップソングの本質のような部分へのエールをタイトルにするあたり、ポップミュージシャンとしてのある種の意気込みを感じさせます。
個人的に柴田聡子のアルバムを聴くのはこれが3枚目となるのですが、いままでの彼女の曲はポップソングではあるものの、いまひとつポピュラリティーに欠けている内向きな雰囲気があり、その話題性とは反していまひとつピンと来ませんでした。しかし、今回の作品はそんないままでの作風から一変、非常にポップでキュートなメロディーラインが続く、誰が聴いても楽しめるようなポピュラリティーあるアルバムに仕上がっていました。
1曲目からしてタイトルからして明るく多幸感のある「結婚しました」から、明るい雰囲気のサマーポップに仕上がっていますし、続く「ラッキーカラー」もどこか切ないキュートなメロディーが強い印象に残るフォーキーな美メロが印象的。その後もギターアルペジオでフォーキーに聴かせる切ない「いい人」や暖かい雰囲気のサウンドにメロディーラインが心に残る「心の中の猫」などシンプルで、しっかりとメロディーラインを聴かせるポップチューンが並びます。まさに「がんばれ!メロディー」というタイトル通り、アルバムの中でなによりもメロディーががんばっているポップな歌モノのアルバムに仕上がっています。
一方、歌詞についても日常風景を描写した身近な題材がテーマの曲が多く、そういう観点からもポピュラリティーを感じさせるアルバムになっています。「結婚しました」などはまさにタイトル通り、「結婚」をテーマとした歌詞ですし、「ジョイフル・コメリ・ホーマック」とホームセンターの名前を並べたような、まさに日常をテーマとした曲もあります。
もっともそんな中でも楽曲にはバラエティーがあり、ピコピコポップチューンの「ワンコロメーター」なんていうユニークな曲が登場。こちらも犬が迷子になったという歌詞のネタもユニーク。また「セパタクローの奥義」というこれまたユニークなタイトルの曲はエキゾチックな雰囲気のサウンドが大きな魅力となっていますし、ラストの「捧げます」は爽やかながらもメロディーラインがどこかひねくれており、彼女の音楽的な奥行を感じさせるポップスとなっています。
歌詞にしても日常をテーマとする一方で「いい人」などは内省的な歌詞の中にどこか影を感じさせる作品。ここらへんもJ-POP的な単純な明るさとは一線を画しているように感じられました。
ただ間違いなく言えるのは今回のアルバムでポップスとしての強度が格段に増し、シンガーソングライターとして階段を一歩昇った、大きな成長を感じさせる傑作アルバムだったということでしょう。気持ちよい間口の広いポップアルバムですが、奥行の深さも感じます。シンガーとしてこれからがますます楽しみになってくる1枚でした。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
坂本龍一 選 耳の記憶 前編 Ryuichi Sakamoto Selections / Recollections of the Ear
坂本龍一 選 耳の記憶 後編 Ryuichi Sakamoto Selections / Recollections of the Ear
坂本龍一が2011年から2015年にかけて「婦人画報」誌で掲載していたコラム「耳の記憶(12の調べが奏でる音楽の贈りもの)」で紹介した曲をまとめたオムニバスアルバム。彼が各回1曲ずつ紹介し、それにまつわる幼少期の思い出を綴ったコラムで、要するに音楽家坂本龍一の原点とも言える楽曲をまとめたアルバム。そういう意味ではファンにはたまらなそうですし、そうでなくても坂本龍一がどのような音楽体験を経てきていたのかを知れるというのは、興味深く感じます。収録されている曲は基本的にクラシック。比較的ピアノ曲が多いのは、やはり彼の音楽的原点はピアノからスタートしているということなのでしょうか。ただ、クラシックを聴く耳で聴き進めると、いきなりビル・エヴァンスのジャズの名曲「マイ・フーリッシュ・ハート」が登場してくるあたりはちょっと驚いてしまいます。
全体的には有名な作曲家の曲が多いのですが、必ずしも「よく知られているフレーズの登場する曲」が選ばれている訳でもなく、純粋にクラシックのオムニバスとして楽しめるのですが、クラシックの入門的な感覚で聴くとちょっと違うかもしれません。ただ、坂本龍一とは関係なく、手軽に聴けるクラシックのオムニバスとしても楽しめる1枚でした。
評価:どちらも★★★★
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