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2019年4月29日 (月)

伝説のグループの曲をあのミュージシャンが選曲・監修した決定的ベスト盤

Title:クレイジーキャッツスーパーデラックス平成無責任増補盤
Musician:クレイジーキャッツ

主に60年代、国民的グループとして一世を風靡したクレイジーキャッツ。お笑いタレントとして人気を博した彼らですが、メンバーそれぞれが一流のジャズミュージシャンとしての顔を持っており、音楽の質の高さにも定評があるグループです。本作はそんな彼らの代表曲を集めたベスト盤。かの大滝詠一選曲・監修によるアルバムなのですが、もともと1986年に結成30周年を記念して発売された作品。その後、2000年に結成45周年にあわせてリニューアル。さらに今回、植木等の13回忌の命日にあたる3月27日に最新リマスタリングにより再発売。平成にギリギリ間に合った「平成無責任増補盤」として再リリースされました。

クレイジーキャッツの全盛期は私が生まれる前。そのためもともとクレイジーキャッツにはさほど深い思い入れはありませんでした。そんな中、彼らに興味を持ったきっかけがクレイジーキャッツの歴史を音楽的な観点からまとめた「クレイジー音楽大全」。以前、ここでも紹介しましたが、もともとは日本のポップスの歴史を知るためにはクレイジーキャッツははずせないという思いから手に取った本なのですが、一気に気になるグループとなりました。

そんな訳で今回、ベスト盤のリマスターがリリースされるということで聴いてみた訳ですが、もっとも、クレイジーに関してはその後、植木等の曲を集めた「植木等伝説」、クレイジー名義の曲を集めた「クレイジー伝説」に、谷啓の曲を集めた「ガチョーン伝説」を聴いており、基本的にこのベスト盤に収録されている曲はその過程で聴いたことある曲ばかりでした。ただし、「クレイジー伝説」は既に廃盤になっており中古で入手できるのですが、プレミアがついているため仕方なくレンタルで聴きました。そのためCDでも所有したいという思いもあり、本作をあらためて購入してみた、という経緯があります。

さてそんなクレイジーキャッツの曲、最初のイメージとしてはさすがに50年以上前の曲なだけに、今の感覚で聴くと古臭く感じるのではないか、というのが彼らの曲を聴く前に漠然と感じていた印象でした。ただ実際に聴いてみると、音楽的な側面でも笑いのネタとしても、今の感覚で聴いても十分楽しめる・・・どころか今でも十分その魅力を感じることが出来るポップソングばかりでした。

特に音楽的な側面においては彼らもジャズ畑出身ですし、彼らの曲を主に作曲していた萩原哲晶もジャズ畑の出身。そのため楽曲は比較的ジャズ的なバタ臭い雰囲気があり、モダンさを感じます。そういう点が洋楽由来のポップソングに慣れ親しんだ耳にも比較的抵抗感なく聴ける大きな要因だったように感じます。

お笑いの側面でも、これは個人的な好みの問題もあるのですが、「勢い」ではなくきちんと「ネタ」を転がして笑いを取ろうとするスタンスはある種の落語的な時代を超えて引き継がれる普遍性を感じます。また内容的にはサラリーマンの日常のような話が多く、そういう意味でも現在社会ともまだまだ共通項の多いネタのように感じます。

さらに「ハイ それまでョ」のようなムード歌謡から途中でコミカルに一転する構成で笑いを取るスタイルは今でも十分有効ですし、「ウンジャラゲ」のような言葉の語感で笑いを取る、不条理的な笑いの要素はむしろ現代的ですらあります。むしろこの曲はアラフォー世代にとっては志村けんと田代まさしによるカバーで知られており、しっかりと後の世代にも引き継がれていたりします。(もっとも、この語感で笑いを取るスタイルは大正期に「ヂンヂロゲーとチャイナマイ」というヒット曲があったりして、むしろ歴史ある笑いのスタイルだったりするのですが)

ただ一方では今の時代では厳しいだろうなぁ、という面も彼らの曲からは感じることが出来ます。「こつこつやる奴ァ ごくろうさん」と歌う「無責任一代男」やもて自慢の「どうしてこんなにもてるんだろう」「サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ」と歌う「ドント節」などは今だったら「炎上」しそうだな、という印象も受けます。それだけ当時はいろいろな意味で寛容だったし、またいい時代だったんだな、ということも感じます・・・・・・・・・と言いたいところなのですが、今の時代がネットを通じて容易に「負の感情」が共有されやすいという側面があり、ひょっとしたら彼らが活躍した昭和30年代にネットがあったら、今のように「炎上」してしまったのかもしれませんが・・・。

ちなみに今回の「平成無責任増補盤」では2000年のリニューアル時に追加されたボーナスCDももちろん収録。こちらでは1986年にリリースされた「新五万節」のレコーディング風景を収録。リハーサルテイクも収録されており、曲がどのように完成していくのかがわかり興味深く感じますし、今となっては非常に貴重な録音となっています。また、厚家羅漢こと大滝詠一による楽曲解説も収録。こちらは大滝詠一のポップ史観も垣間見れる興味深い解説に。ただ、正直、ちょっとクレイジーを誉めすぎなように感じてしまうのですが(苦笑)。

ちなみにクレイジーキャッツといえば今をときめく星野源もその影響を公言しているなど、間違いなく今の時代でも音楽的にも大きな痕跡を残しています。そういう意味でも今の時代でも音楽的に聴かれるべきミュージシャンですし、その魅力は今でも十二分に味わえることが出来ます。そんな彼らを音楽的な側面から知るには最適なベスト盤。彼らのベスト盤はいろいろとリリースされていますが、廃盤になってしまったのも多く、また事実上CD1枚に収録されている本作はちょうどよいお手軽なボリューム感もあります。リアルタイムで聴いていた世代はもちろん、アラフォー世代より下の世代にも十分にお勧めできるアルバムです。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

S8102/Sauce81&Shing02

Shing02の最新作はDJ/プロデューサーとして活躍しているSauce81とのコラボアルバム。「SFサウンドトラックアルバム」というコンセプトのようで、そのコンセプトに沿ったスペーシーな雰囲気の作品も見受けられます。ただアルバム全体としてはベタなSFイメージに陥ることなく、全体的な雰囲気としてはむしろジャズ、ソウルなどの要素を取り入れたメロウな雰囲気のトラックにShing02のラップが重なるスタイルの楽曲が目立ち、そこにほどよい「近未来感」が加わる心地よいアルバムに仕上がっています。Shing02とSauce81の良さがそれぞれ上手く重なり合ったコラボアルバムでした。

評価:★★★★★

Shing02 過去の作品
歪曲
SURDOS SESSIONS: Nike+ Training Run
1200Ways(Shing02+DJ $HIN)

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