結成10年目の最高傑作
Title:ドロン・ド・ロンド
Musician:チャラン・ポ・ランタン
今年、結成10年目を迎えた「歌とアコーディオンの姉妹ユニット」チャラン・ポ・ランタンの約1年4ヶ月ぶりとなるニューアルバム。10周年というのはかな~り意外な感がありますが・・・ただインディーズでの活動が長かったそうですね。そんな彼女たちも本作に収録されている「ガリレオ」が小学館の図鑑のCMソングに起用されたり、「ページをめくって」が映画「キスできる餃子」の主題歌に起用されたり、チャラン・ポ・ランタンの小春が楽曲提供した「ゾクゾクうんどうかい」がNHK「おかあさんといっしょ」で流れたりと、着実に活躍する場を広げていっています。
前作「ミラージュ・コラージュ」との間にインディーズ時代の楽曲をまとめたベスト盤「過去レクション」がリリースされました。そのアルバムがリリースされた後のアルバムなのでより強く思うのですが、ミュージシャンとしてどんどん成長しているな、ということを本作では強く感じられました。基本的にアコーディオンにホーンセッションを入れて、バルカン音楽やスカ、あるいはジンタなどといった音楽性を取り入れたスタンスはインディーズ時代からは大きく変わりませんし、その方向性は本作でも健在でした。
ただ、楽曲のバリエーションは本作では以前に増して広がっているように感じます。例えば「春のあお」ではダブの要素を入れてきていますし、「猛獣使いのマリー」はストリングスも入って優雅さを感じさせるアレンジになっていますし、「日が昇るまで」もアラビア風の妖艶な雰囲気が大きなインパクトとなっています。
さらにいままでの楽曲の方向性を引き継いだタイプの曲に関しても、楽曲の歌詞や方向性に応じて一本調子にならず雰囲気を変えています。例えば映画主題歌にもなった「ページをめくって」は全体的に明るい作風でバンドサウンドも前に押し出しJ-POPシーンの中でも聴きやすいようなアレンジに仕上げていますし、1曲目の「脱走」は逆にホーンセッションやアコーディオンが賑やかに鳴り響く、ある意味チャラン・ポ・ランタンらしさを前に押し出したナンバー。「100人のダディ」などは軽快なリズムのビートを前に押し出していますし、「マッドネス」はタイトルの元ネタとなったイギリスのスカバンドの作風に合わせたのでしょうか、裏打ちのビートをより強調したアレンジに仕上げています。
そこらへんの音楽性のバリエーションを一番上手く取り入れたのが「お惚気アベック」で、タイトル通り、イチャイチャしているカップルと、それを見てイライラしている人の心境が交互に語られるユニークな歌詞が特徴的なのですが、その2人の心境にあわせてアレンジもうまくチェンジ。歌詞はもちろんサウンドによって上手く1人2役の芝居を楽曲の中で成り立たせています。
そんな「お惚気アベック」のようなユニークな歌詞も登場するように、ユーモラスあふれる歌詞は本作も健在。ほかにも「麻イイ雀」ではタイトル通りに麻雀の役を歌に組み込まさせているユニークなナンバー。ちなみにサウンド的にもファンキーなサウンドを前に押し出した、いままでの彼女たちとはちょっと違った雰囲気の作品に仕上げてきています。
ほかにもサーカスの猛獣使いの女の子が主人公の「猛獣使いのマリー」などはチャラン・ポ・ランタンだからこそ使える歌詞の設定といったイメージですし、逆に少年時代のほのかな恋心をテーマとした「マッドネス」はある種、普遍的なノスタルジーあふれる歌詞の世界を作り上げており、歌詞の面でも胸に響かせる曲が並んでいます。
前作「ミラージュ・コラージュ」ではバンドとしての安定感を感じさせたのですが、今回のアルバムはそこからのさらなる成長を感じさせる傑作アルバム。バンドとしての最高傑作ですし、これはひとつの完成形のように感じます。また結成10年目にしてバンドのステージがさらに1つあがったように感じました。残念ながらいろいろな場所での活躍とは反してバンドとしてはいまひとつブレイクし切れていないのは残念ですが、これだけの傑作をリリースできれば、さらに彼女たちの活躍の場は広がりそう。これからの活躍も楽しみです。
評価:★★★★★
チャラン・ポ・ランタン 過去の作品
テアトル・テアトル
女の46分
女たちの残像
借り物協奏
トリトメモナシ
ミラージュ・コラージュ
過去レクション
ほかに聴いたアルバム
有頂天/ポルカドットスティングレイ
今年7月には初となる武道館ライブも予定されている人気上昇中のロックバンド、ポルカドットスティングレイの新作。彼女たちらしいエッジの効いたギターを聴かせる疾走感あるロックチューンを中心に、シティポップ風なナンバーやジャジーなアレンジを加えた曲なども収録されており、いままでのアルバムに比べて楽曲のバリエーションが一気に増した作品に。個人的にはメロディーラインにもうちょっとインパクトが欲しい印象もあり、惜しさも感じてしまうのですが、いままでのアルバムに比べればグッとよくなった印象も。バンドとしての大きな成長を感じるアルバムでした。
評価:★★★★
未来/NONA REEVES
今年、メジャーデビュー20周年を迎える彼らの約1年5ヶ月ぶりとなる新譜。ここ最近、彼らが奏でる80年代風のシティポップの見直しの気運が高まり、それに伴い彼らのアルバムもここ数作、いつも以上に勢いが増してきたように感じます。今回もRHYMESTERがゲストとして参加した「今夜はローリング・ストーン」をはじめ、ダンサナブルなリズムとメロウなサウンドというノーナらしい楽曲が並びます。そういう意味で純粋に楽しめたアルバムだったのは間違いありません。ただ、ここ数作に比べるとちょっと勢いは落ちてしまった感が否めず、良くも悪くも同じようなパターンの多い彼らの「マンネリ」さが少々気になってしまいました。じゃあ新機軸が必要か、と言われるとそれはそれで微妙な感じもするのですが・・・。デビュー20周年を迎えてひとつの岐路に立っている、と言えるかもしれません。これからの活動に注目したいところです。
評価:★★★★
NONA REEVES 過去の作品
GO
Choice
ChoiceII
BLACKBERRY JAM
POP'N SOUL 20~The Very Best of NONA REEVES
MISSION
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