天狗を忘れるな
Title:Glory
Musician:SEAMO
ご存知名古屋出身のラッパー、SEAMOのニューアルバム。SEAMOといえば2006年にシングル「マタアイマショウ」が大ヒットし一躍人気ラッパーの仲間入り。その年の紅白歌合戦にも出場し、その名を広く知らしめました。ただ、残念ながらその後の人気は徐々に下降気味。一時期ほどのヒットも飛ばせなくなり、また女性ボーカルと組んだあきらかに売り目当てのようなベタなラブソングも目立ってきました。
しかし、約4年3か月ぶり、久々のニューアルバムとなった前作「Moshi Moseamo?」は初期の彼を彷彿とさせるようなアゲアゲなナンバー連発のアルバム。ヒットこそ飛ばせませんでしたが、かつての彼の勢いが戻ってきたかのような良作に仕上がっていました。そしてそれに続く本作は、まさに前作からの勢いが続いている勢いのあるナンバーの連発。また、彼自身、原点に立ち返ったような歌詞も目立ちました。
そんな今回のアルバムを象徴するのは1曲目「天狗を忘れるな」でしょう。彼はライブで天狗のお面を股間につけた形で登場するのがお決まりなのですが、ここで言う「天狗」とはまさにそんなSEAMOのミュージシャンとしてのコアな部分を指した言葉。まさに彼のミュージシャンとしてのコアな部分を忘れるな、という決意表明の歌となっています。
ほかにもこぶしを振りかざし、何にも屈するなと歌う「KOBUSHI」や思いを強く持てと歌う「思い込みが激しい男」など、まさに自らを鼓舞するかのような前向きに進んでいこうとする楽曲が並びます。こう簡単に一文にするとまるでよくありがちな前向きJ-POPのようにも感じられますが(まあ、そういう部分もある点は否定できませんが)、ただ彼らしいユーモラスあふれる表現で綴られた歌詞のため、変な説教臭さや優等生っぽさは全く感じられません。
また、前作も目立ったのが地元名古屋ネタ。名古屋という街も彼にとっては原点と言えるでしょうが、本作でも名古屋をネタとした曲が目立ちました。特にタイトルチューンである「Glory」では名古屋を舞台に誇りをもって前に進もうとする姿を歌詞にしており、他の曲と同様に彼の決意を感じさせるナンバー。
「オールナイトロングから「おはよう」中日ビルにはグッドモーニング
若宮まで ちょっとウォーキング 朝日とホットコーヒー
俺らの100メートルあるアビーロード 急ぎ足 未来へ走ろうよ」
(「Glory」より 作詞 SEAMO・Crystal Boy・KURO・SOCKS・MsOOJA)
というフレーズでは「中日ビル」「若宮」のような名古屋人にしかわからないような固有名詞が出てきて、思わずニヤリとしてしまいます。(「中日ビル」=栄の中心にある商業ビル、「若宮」=若宮大通。名古屋を東西に走る100m道路のひとつ ちなみに「100メートルあるアビーロード」の100メートルとは言うまでもなく100m道路のこと)
さらに「AquariumRAP」はそのままズバリ、名古屋を代表する水族館、名古屋港水族館をテーマとした歌詞。水族館にいる魚を歌詞に入れているほか、名古屋港水族館への行き方までラップしています(笑)。
ラストには最近のアルバムではおなじみ、シーモネーター名義での楽曲「熱中SHOW」も収録。本作でラブソングは「テノヒラ」1曲のみという構成になっており、まさに1曲目のタイトルに象徴されるような、「天狗を忘れるな」とSEAMOが自らに鼓舞するようなアルバムに仕上がっていました。
サウンドの方も基本的にアップテンポなエレクトロナンバーが並ぶEDM風のサウンドとなっています。まさにアゲアゲなパーティーチューンの連続で、SEAMOらしい楽しいダンスチューンの連続で心が躍るナンバーが続きます。サウンド的には決して「今風」ではありませんし、目新しい挑戦をしているものでもないのですが、SEAMOらしさがはっきりと出ているような楽曲になっており、サウンドの面でも原点回帰、彼なりの「天狗を忘れない」スタイルを貫いた形になっていました。
ここに来て息を吹き返したように傑作をリリースし続ける彼。まさに原点回帰が大成功をおさめ、再び勢いを取り戻してきたように感じます。これからの活動が楽しみになってくる新作。また、名古屋人としてはやはり名古屋ネタに思わずうれしくなってくる1枚でした。
評価:★★★★★
SEAMO 過去の作品
Round About
Stock Delivery
SCRAP&BUILD
Best of SEAMO
5WOMEN
MESSENGER
ONE LIFE
コラボ伝説
REVOLUTION
TO THE FUTURE
LOVE SONG COLLECTION
THE SAME AS YOU(SEAMO&AZU)
ON&恩&音
続・ON&恩&音
Moshi Moseamo?
ほかに聴いたアルバム
誰より好きなのに~25th anniversary BEST~/古内東子
タイトル通り、デビュー25周年を迎えた彼女による、レコード会社の枠組みを超えて代表曲を収録したオールタイムベスト。発売順に3枚のCDに収録されており、彼女のミュージシャンとしての歩みを網羅的に把握できるベスト盤になっています。基本的にメロウなAORに載せて歌うのは、失恋または片想いの歌がメイン。ただそんな恋愛を歌いつつも同時に女性への応援歌となっているのが彼女の曲の大きな魅力に感じます。ただ、最近の曲を収録したDisc3についてはさすがにマンネリ路線になりつつあるような印象も・・・良くも悪くも大いなるマンネリと言えないことはないのですが・・・。
評価:★★★★★
古内東子 過去の作品
IN LOVE AGAIN
The Singles Sony Music Years 1993~2002
Purple
透明
夢の続き
and then...~20th anniversary BEST~
Toko Furuuchi with 10 legends
After The Rain
FRESH/高田漣
主にマルチ楽器奏者として活躍している高田漣のニューアルバム。ロックンロール、フォーク、ジャズからハワイアンや民謡、ファンクなど幅広い音楽性を取り入れた楽曲が特徴的。全体的にははっぴいえんどや細野晴臣、あるいは大滝詠一サウンドからの影響を色濃く感じさせ、大人のポップというイメージがピッタリくるような落ち着いた作品に。古き良き日本のポップスの正統な後継者という印象を受ける反面、良くも悪くも器用貧乏な印象も。もうちょっと高田漣の色を出した方がおもしろいような印象も受けるのですが。
評価:★★★★
高田漣 過去の作品
コーヒーブルース~高田渡を歌う~
ナイトライダーズ・ブルース
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コメント
実はSEAMOはフル・アルバムに関しては初めて聴いたクチですが、結構楽しめました。
投稿: ひかりびっと | 2019年4月13日 (土) 22時04分