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2019年4月 8日 (月)

小説とリンクしたコンセプチャルなアルバム

Title:流星コーリング
Musician:WEAVER

本作は、同バンドのドラマーで、ほぼすべての曲の作詞を手掛けている河邉徹の小説「流星コーリング」のサントラ的な作品としてリリースされたアルバム。実はこのアルバムのレビューを書こうと思い、いろいろ調べている最中にはじめて知ったのですが、河邉徹は作家としてデビューしており、「流星コーリング」が第2弾となるんですね。古くは町田康や辻仁成、最近ではクリープハイプの尾崎世界観やSEKAI NO OWARIの藤崎彩織などミュージシャンが作家デビューをするケースは少なくありません。また、個人的には音楽アルバムと小説を結び付けた形でのリリースといえば、なんといっても木根尚登の小説にリンクされる形でリリースされたTM NETWORKの「Carol」を思い出してしまいます。

ちなみに小説の方は紹介文を抜粋すると・・・

「2020年に現実に流されるという人工流星をテーマに、その舞台となる広島で繰り広げられる青春SFストーリー。広島県廿日市中央高校の天文部に所属するりょう。人工流星の話を聞き、当日見に行くのだが…。その日を境に、りょうは、“明日”に進むことができなくなる。これは、“人工流星”という自然に逆らった事柄のせいなのか。なぜ時空がずれたのか、何度も訪れる同じ日の中で、りょうは、その理由を探し続ける。そして、物語は衝撃のラストへと進む…。」

と、ジュブナイルテイストのSF小説。今回のアルバムは基本的にこの小説の世界観に沿った歌詞の内容となっており、そのため全体的にはかなり統一感のあるコンセプチャルなアルバムに仕上がっていました。

まあただ上の紹介文を読んだだけなのですが、それでも感じてしまうのは小説の内容としてはかなりベタさを感じる内容。いや、正直この「ベタ」さは個人的には嫌いではないのですが、さすがにお金を払ってまで読みたいと思うほどの食指は動かされません・・・。そして、この小説の世界観に沿った本作の歌詞もかなりベタという印象を受けてしまいます。「星」をテーマとした一貫性のある歌詞になっているのですが、ラブソングも未来に向けたような前向きな歌詞も、目新しい展開や表現も見当たらず、良く言えばわかりやすい、悪く言えばありふれた内容に終始しています。

メロやサウンドに関しても、これは本作に限らずいつものWEAVERの路線と同じなのですが、ピアノをベースとしたサウンドに爽やかなメロディーラインが載ったスタイル。メロディーもボーカルのスタイルも一言で言えば端整で、いかにもJ-POP的。HYの仲宗根泉をゲストに迎えたピアノバラードの「栞」やトランシーなサウンドにちょっと悲しげなメロが印象に残る「Loop the night」のようなそれなりにバリエーションを持たせインパクトのある曲もあるのですが、楽曲自体に関しても良くも悪くもベタという印象を受ける楽曲が多くなってしまっています。

小説家デビューできるほどの文才がある割りには、歌詞に関してはひねりもなく、これといったフックの効いたフレーズもない、というのは気にかかるところですし、またちょっと残念。いままでのWEAVERの曲からも感じる点ではあるのですが、まとまりすぎで優等生すぎ。個人的にはピアノをメインとしたサウンドが好きで、アルバムは一通りチェックしているのですが、もう一歩、乗り越えてほしい壁を感じてしまうアルバムでした。

評価:★★★

で、そんな彼らが本作と同時にリリースしたベストアルバムがこちら。

Title:ID2
Musician:WEAVER

2014年にリリースされたベストアルバム「ID」以降にリリースされた曲から抜粋した彼らのベストアルバム第2弾・・・・・・ってさすがにベスト盤をリリースするタイミングが短すぎるだろう(苦笑)。ただ、このベストアルバムの間にEP2枚がリリースされており、同EPに収録されているオリジナル曲をすべて収録している形になっているため、この2枚のEPをあらためてアルバムの形にまとめる、という点が主目的になっているように感じます。

こちらも上の「流星コーリング」の感想と同じく、基本的にWEAVERのスタイルであるピアノを中心とした爽快なポップチューンがメイン。端整なボーカルとメロディーラインは良くも悪くもいかにもJ-POP的な感じが印象的で、あまりにもうまくまとまりすぎているため、聴いている最中は楽しめるものの、後に残る印象の弱さを感じてしまいます。一時期、それなりにブレイクしたものの、その後の人気は下落傾向にあるのは、この後味の弱さが大きな要因のようにも感じます。

もっとも、ベストアルバムであるだけにそれなりにインパクトある曲も多く、最後まで楽しめるアルバムであることは間違いないかと思います。難しいこと抜きにして素直なポップソングの楽しめるアルバム、と言えるでしょう。

評価:★★★★

WEAVER 過去の作品
Tapestry

新世界創造記・前編
新世界創造記・後編

ジュビレーション
Handmade
ID
Night Rainbow


ほかに聴いたアルバム

moonriders Final Banquet 2016 ~最後の饗宴~/ムーンライダーズ

1975年に結成し、その後長く活動を続け、名実ともに日本を代表するバンドのひとつだったムーンライダーズ。2011年に無期限の活動休止を宣言するものの、40周年となる2016年に「活動休止の休止」を宣言し、一時的に活動を再開。その中で行われた12月15日に中野サンプラザで行われたライブの模様を収録したライブ盤が本作です。バンドとして久々の活動でありつつもメンバーの息はピッタリ。いい意味で肩の力の抜けた余裕のあるライブパフォーマンスが特徴的で、正直、なんでここまで息があっていてバンド活動を休止するんだ?と不思議になるほど。まあ、ひょっとしたらだからこそバンドとしての刺激に欠け、これ以上の進歩がないように感じたのかもしれませんが・・・。

評価:★★★★

ムーンライダーズ 過去の作品
Ciao!

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