屋久島の音を取り込む
Title:YAKUSHIMA TREASURE
Musician:水曜日のカンパネラ&オオルタイチ
ほぼ毎年新作をリリースし、積極的な活動を続けている水曜日のカンパネラ。昨年6月にリリースされた「ガラパゴス」以来となる新作は6曲入りのEPとなっています。しかし、今回のアルバムはちょっと異色的な作品。もともとYou Tubeで配信されているドキュメンタリー番組「Re:SET」の企画において屋久島とコラボレーションを行うことになった水曜日のカンパネラのコムアイが、屋久島に何度も足を運び、現地に溶け込みながらフィールドレコーディングを行い、EPとしてまとめていった作品だそうです。また今回、水曜日のカンパネラの楽曲を手掛けているオオルタイチも屋久島に同行。全編、彼がプロデュースした作品にまとまっています。
そのため今回の作品はリズミカルなエレクトロサウンドにコムアイのユーモラスなリリックのラップがのるいつもの水カンのスタイルとはかなり異なった作風になっています。全編、屋久島の自然の音が楽曲に組み込まれ、どこか幻想的な雰囲気が漂う作品に仕上がっていました。まず1曲目「地下の祭儀」から、ドリーミーで分厚いエレクトロサウンドに呪術的なスキャットのようなボーカルが流れる作品。続く「島巡り」では三味線のような音とエレクトロなサウンドにのせて、現地の人たちの声や歌がおさめられている、まさにタイトル通り、屋久島を巡って現地の「声」を集めたような作品になっています。
続く「殯舟」はコムアイが歌う民謡のような歌を静かに聴かせる作品。かと思えば、後半は雰囲気が一転。強烈なノイズが重なる、ある種の暴力的にすら感じる作品に。「東」はトライバルなリズムとサイケなエレクトロサウンドが特徴的な作品。こちらもコムアイのトライバルな不思議な歌声が大きなインパクトに。さらに「海に消えたあなた」では静かなエレクトロサウンドにコムアイのうねるようなハミングで、非常に不思議な雰囲気の呪術的な作風に仕上がっていました。
そんな訳で全体的に屋久島の自然をエレクトロやサイケのサウンドの中に体現化させようとした、意欲作ともいえる作品になっています。水曜日のカンパネラといえばアルバムをリリースする毎にそのスタイルを大きく変えてきましたが、そんな中でも今回のアルバムはかなり異色作。正直なところポップというにはほど遠く、そういう意味では賛否が分かれる内容になっていたように感じます。
また正直なところ、屋久島の自然をエレクトロサウンドで表現するというスタイルという方向性が真新しいか、と言われると若干微妙な部分があり、パッと思いついただけで高木正勝のアルバム「かがやき」なども京都の自然を楽曲に取り入れた作品があったりして、よくあるといえばよくあるようにも感じてしまいます。ただ、コムアイのハイトーンボイスはなにげに今回のアルバムで表現しようとしている自然観にもピッタリマッチしており、幻想的なエレクトロサウンドも心地よく聴こえます。そういう意味では純粋に屋久島の自然の幻想的な雰囲気を気持ちよい音楽という形で楽しむことの出来るアルバムだったと思います。
最後に収録されている「屋久の日月節」はアルバム唯一の歌モノですが、心臓の鼓動ようなリズムをバックにコムアイが静かでやさしく歌う幻想的な歌がとても美しく、心に残ります。この曲は間違いなく水曜日のカンパネラの曲として広くお勧めできそうな1曲に仕上がっていました。
そんな訳で賛否わかれそうな作品ですし、純粋に水カンの新作としてお勧めしがたい部分もあるのですが・・・ただ、同じフィールドに留まらない彼女たちの意欲にも敬意を表して以下の評価で。この作品が次のアルバムにどのような影響を与えてくるのか・・・いろいろな意味で要注目です。
評価:★★★★★
水曜日のカンパネラ 過去の作品
私を鬼ヶ島へ連れてって
ジパング
UMA
SUPERMAN
ガラパゴス
猫は抱くもの(オリジナル・サウンドトラック)
ほかに聴いたアルバム
BLUEHARLEM/Yogee New Waves
オリジナルアルバムとしては1年10ヶ月ぶりとなるシティポップバンド、Yogee New Wavesの新作。ちょっとフォーキーな雰囲気のポップといった感じで、気だるい雰囲気が印象的。サニーデイ・サービスにも近いような感じもするのですが、どこか都会を醒めた視点から見ている感じもするのが今時といった感じでしょうか。時折エレクトロサウンドなども取り入れているサウンドもなかなかユニーク。もうちょっとインパクトがあった方がおもしろいかな、と思ったりもするのですが、以前から課題だったYogee New Wavesらしさが徐々に出てきているようにも感じた新作でした。
評価:★★★★
Yogee New Waves 過去の作品
WAVE
SPRING CAVE e.p.
RYOTA FUJIMAKI Acoustic Recordings 2000-2010/藤巻亮太
現在活動休止中のロックバンド、レミオロメンのボーカリスト、藤巻亮太のソロ最新作はレミオロメンの名曲をアコースティックアレンジで収録したセルフカバーアルバム。レミオロメンといえばもともとシンプルなサウンドで日常を描写した歌詞が魅力的なバンドでしたが、それだけにアコースティックアレンジもピッタリマッチ。レミオロメンの名曲がよみがえってきたアルバムになっていました・・・・・・と言いたいところなのですが、確かにアコースティックなアレンジの楽曲も少なかった反面、普通にバンドサウンドによるセルフカバーも多く、大味に感じられた後期レミオロメンの悪い部分も残ってしまっていた感も。アコースティックというコンセプトになぜ一本化しなかったのかかなり疑問に感じる部分も多々あり、構成的に疑問に感じてしまった部分も少なくないアルバムでした。
もっとも、比較的シンプルにまとめあげられたアレンジでレミオロメンの楽曲の良さはきちんと出ていたので、純粋に曲の良さで言えば文句なしに★5つだと思うのですが・・・。構成的に疑問が残るという意味で★1つマイナスで。
評価:★★★★
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