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2019年3月 5日 (火)

国民的スター待望の新作

Title:POP VIRUS
Musician:星野源

おそらく今、最も人気を集め、かつ注目を集めているミュージシャンといえば間違いなく星野源でしょう。特に2016年にリリースした「恋」はドラマの話題性も相まって国民的ヒットとも言えるほど大ブレイク。星野源自体も「アイドル的」な人気を博しており、押しも押されぬ大スターとなっています。

そんな大ブレイクの最中、約3年ぶりにリリースされたのが今回のアルバム。もちろん大ヒットした「恋」も収録されているほか、2017年にリリースし、これまた大ヒットとなった「Family Song」も収録。ただ、昨年リリースされた「ドラえもん」は残念ながら未収録。やはりタイアップ色が強すぎたためアルバムに入れるとバランスが悪いと判断されたのでしょうか・・・。

言わば世間の注目が集まる中でリリースされたのが今回のアルバム。前作「YELLOW DANCER」も大傑作だっただけにかなり高い期待の下にリリースされましたが、その結果を一言でいえば、きちんとその期待に見合った傑作をリリースしてきたな、という印象を受けます。

前作「YELLOW DANCER」では、それまでのアコースティックメインでカントリー色が強かった作風から一転、ブラックミュージックの要素が強い作風になりましたが、今回のアルバムも基本的にその方向性が続く作風となっています。特に1曲目でタイトルチューンでもある「Pop Virus」はソウル風のグルーヴィーなサウンドがまずは耳に残るポップソング。ちょっとダウナーな雰囲気からスタートしつつ、おなじみの大ヒットチューン「恋」へ切り替わる序盤の展開はちょっとした鳥肌モノです。

続く「Get a Feel」もジャクソン5あたりを彷彿とさせるモータウン風の軽快なポップチューン。こちらもポップなメロの一方、後ろでなっている軽快なギターと重いリズムを刻むベースラインが非常に黒く、気持ちよさを感じます。

その後も「Dead Leaf」ではソウル風のバラードナンバー(コーラスにはあの山下達郎も参加(!))を聴かせてくれたり、ご存じ大ヒット曲「Family Song」ではゴスペルの要素を入れてきたり、「Nothing」ではメロウなメロディーラインを聴かせてくれたりと終始ブラックミュージックからの要素を強く感じます。ポップなメロの中に感じられるブラックミュージックらしいグルーヴ感がとても心地よい作品に仕上がっていました。

また一方では「Pair Dancer」では静かなメロのバックに流れるエレクトロサウンドにポストロック的な要素を感じたり、「Nothing」で聴ける細かいスネアのリズムが最近のHIP HOPからの影響を感じたりと、今時の音をしっかりと取り入れた挑戦的な側面も垣間見れたりして、ミュージシャンとしての志の高さもうかがえます。

今回もそんな星野源のミュージシャンとしての実力の高さを見せつけた完成度の高い傑作アルバムとなっているのですが、ただ一方で気になった部分もありました。それはいままでのアルバムで感じた自由度や遊び的な要素が薄かったという点。もともと星野源のアルバムはどこか遊びの要素を感じた肩の力の抜けた作品が多かったように感じます。例えばソロデビュー作からして「ばかのうた」なんてタイトルがついていますし、前作「Yellow Dancer」でも敬愛するクレイジーキャッツに捧げる「Crazy Crazy」のような遊び心のあるポップチューンがありました。

ただ今回のアルバムではそういった肩の力が抜けたような部分はありません。むしろアルバム全体として世間の期待に応えなくては、というプレッシャーのような部分が垣間見れてしまいました。実際「Family Song」はどこか「恋」に続くようなタイプの曲になってしまっていますし、基本的には「恋」の路線を引き継いだような曲も少なくありません。今回のアルバム、ひとつの特徴としてどこかダウナーな感のある曲が多く、突き抜けて明るいポップというタイプの曲がほとんどありませんでした。ひょっとしたらそれは彼自身の心を反映したのかもしれません。

サザンやユーミンあたりのレベルになれば、売れる期待がありつつも自分の自由に曲作りができるのかもしれませんが、残念ながら星野源はまだそのクラスには至っておらず、どうしても周りのプレッシャーが今回のアルバムに関しては強かったのかもしれません。それにも関わらずこれだけの傑作をリリースしてきたのはさすがですが、ただ一方ではその結果、期待を超えるだけの傑作には至らなかったように思います。国民的スターとなった彼なだけに、これからもさらにプレッシャーは高まりそう。それをここで乗り越えられるかどうか・・・ある意味正念場なのかもしれません。でも彼ならきっと・・・次回作、要注目です。

評価:★★★★★

星野源 過去の作品
ばかのうた
エピソード
Stranger
YELLOW DANCER


ほかに聴いたアルバム

Naked/MANNISH BOYS

斉藤和義と中村達也によるユニット、MANNISH BOYSの2年3が月ぶりとなるEP盤。原点回帰が大きな特徴となっており、ゴリゴリのガレージロックのサウンドを前面に押し出した構成になっています。インストチューンも多く、そういう点でも「歌」ではなく「バンドサウンド」を主軸に押し出した作品に。さらにタイトルからして年齢がわかる「硝子の50代」では同世代だとかなり笑えそうなコミカルなナンバーに。ただサウンドはバリバリのエルモア・ジェイムスばりのギターを押し出したブルースロックとなっており、おやじのカッコよさを押し出した曲になっています。前作「麗しのフラスカ」ではバンドとしての一体感を感じさせたアルバムですが、本作でもMANNISH BOYSとしての一体感を強く感じるかっこいいロックアルバムになっていました。

評価:★★★★★

MANNISH BOYS 過去の作品
Ma!Ma!Ma!MANNISH BOYS!!!
Mu? Mu? Mu? MANNISH BOYS!!!
麗しのフラスカ

Dreams Never End/Spangle call Lilli line

約3年2ヶ月ぶりとなるSpangle call Lilli lineの久々のニューアルバム。基本的にいつもと同様、透き通ったようなボーカルに静かでドリーミーなエレクトロサウンド、それに薄くギターのノイズも加わる幻想的なエレクトロロックを聴かせてくれます。全体的にインパクトが薄くかった前作に比べると、比較的サウンドの美しさを楽しむことが出来るアルバムに仕上がっていたように思います。ただ、良くも悪くもスタイルは以前から変わらないという印象が強いのですが。

評価:★★★★

Spangle Call Lilli Line 過去の作品
VIEW
forest at the head of a river

New Season
Piano Lesson
SINCE2
ghost is dead

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コメント

個人的にKIDSが素朴でクセになる感じで意外と一番好きでした。
確かに凄く良いアルバムと思いますが、シングルのB面既発曲も多く、アルバムの真新しさが若干薄くて予想の範囲内な気もしました。
いっそ恋を外して、思いっきり暗いアルバムに走るかソウルを突き詰めるかにして欲しかったようにも思います。
とは言っても星野源には今後も期待したいです

投稿: kozy | 2019年3月 7日 (木) 23時01分

>kozyさん
確かに思いっきり突き詰める方向もあったと思いますが、今の彼の人気からすると難しかったのかもしれません。あれだけの人気を得てしまった以上、これからの活動がどうなっていくのか、いろいろな意味で気にかかります。

投稿: ゆういち | 2019年3月 9日 (土) 23時28分

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