« ロックバンド演じるポップなカバー | トップページ | 大正時代の庶民の本音 »

2019年3月 3日 (日)

悲しい歌モノが強いインパクトに

Title:SKINS
Musician:XXXTENTACION

昨年6月、強盗に襲われわずか20歳という若さでこの世を去った悲劇のラッパー、XXXTENTACION。昨年リリースされた「?」も大きな話題となりましたが、なんとこのたび、彼が生前に録音した音源をまとめたニューアルバムがリリースされました。

前作「?」もわずか18分という短いアルバムで、メロディアスな歌モノのテイストが強い、ラップリスナー以外にも聴きやすさを感じさせるアルバムでしたが、今回のアルバムに関しても基本的にその前作の方向性を踏襲しています。全10曲入りの「フルアルバム」なのですが、1曲あたり1、2分という短い曲が並んでおり、全部あわせても20分弱という短さ。さらに全体的にメロディアスな「歌」の要素が強い曲が並んでいます。

イントロに続く「Guardian angel」はHIP HOP的なループするエレクトロトラックが流れる中、悲しげなメロディーの流れるエモーショナルなナンバー。続く「Train food」も街の音がサンプリングされる中、静かなピアノとラップが悲しく鳴り響く楽曲に。さらに「whoa(mind in awe)」ではメロディアスながらも悲しいマリンバのようなエレクトロサウンドが印象的なナンバーになっています。

さらに今回のアルバムで大きな特徴となっていたのは中盤、ロック的な曲が並んでいるという点。「STARING AT THE SKY」などは最初、静かでアコースティックなサウンドからスタートするのですが、後半はデス声からダイナミックなバンドサウンドが入ってきており、完全に「ロック」なナンバー。さらに続く「One Minute」はKanye Westが参加していることで大きな話題となったのですが、カニエのラップはヘヴィーなギターリフを奏でるバンドサウンドをバックとしており、完全なミクスチャーロックのナンバーになっています。

そんなロック的なダイナミズムを心地よく感じていると今度は後半、一転して悲しく聴かせるポップチューンに。ただ、同じ悲しげなメロでもエモーショナルだった前半と比べると、静かに歌声を聴かせる楽曲に。特にラストの「what are you so afraid of」はアコースティックテイストのサウンドをバックに静かで悲しい歌声が心に響いてくる歌モノ。最後のナンバーということもあり、とても悲しい後味を抱えつつ、アルバムは幕を下ろします。

このようにわずか20分弱の内容ながらもバラエティー富んだ展開が楽しめる今回のアルバム。特にメロディアスな歌モノやダイナミックなロックチューンも多く、HIP HOPリスナー以外も楽しめるアルバムになっていました。基本的にはおそらく前作と同時期に作っていた楽曲なだけに前作の延長線上にある作風なのでしょう。そういう意味では正直、目新しさみたいなものはありませんでしたが、メロディーセンスの良さと楽曲のバラエティーの豊かさ、そしてなんといってもアルバムの短さもあり、最初から最後までダレることなく楽しめる傑作アルバムだったと思います。

ミュージシャンの死後、第三者によって勝手にアルバムという形でまとめられるのは少々賛否はありそうですが(よくありがちな話ではありますが)ただ、この出来の良さを考えると、きっと天国のXXXTENTACIONも納得してくれる・・・はず(?)。前作に負けず劣らずの傑作アルバムでした。

評価:★★★★★

XXXTENTACION 過去の作品


ほかに聴いたアルバム

DIMENSIONAL PEOPLE/Mouse On Mars

今回も2018年各種メディアのベストアルバムの後追いで聴いたアルバム。こちらはMusic Magazine誌ロック(ヨーロッパ)部門で1位を獲得した作品で、ドイツ出身のエレクトロドゥオによる約6年ぶりのニューアルバム。3パートからなる表題曲からスタート。細かいビートに薄くムーディーなサックスが入るユニークなインストナンバーにまずは惹かれます。その後もトライバルなサウンドを入れてきたり、ノイズの要素が入ったり、かといえばアコギで聴かせるメロディアスなナンバーがあったりと最後までバラエティー豊富で耳が離せないナンバー。最初から最後まで飽きさせない展開のおもしろい傑作アルバムになっていました。

評価:★★★★★

A Matter of Time/Protoje

こちらもベストアルバムの後追いで聴いたアルバム。こちらもMusic Magazine誌で、こちらはレゲエ(海外)部門で1位を獲得したアルバム。基本的に哀愁感たっぷりの歌を聴かせるレゲエのアルバム。あくまでも「歌」が主眼のアルバムとなっているため、目新しさみたいなものや、ダイナミックなビートみたいなものはないのですが、レゲエリスナー層以外にも波及しそうなメロディアスな歌が魅力的なアルバムになっていました。

評価:★★★★

|

« ロックバンド演じるポップなカバー | トップページ | 大正時代の庶民の本音 »

アルバムレビュー(洋楽)2019年」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 悲しい歌モノが強いインパクトに:

« ロックバンド演じるポップなカバー | トップページ | 大正時代の庶民の本音 »