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2019年3月 9日 (土)

30年目の彼ら

Title:30
Musician:電気グルーヴ

今年、結成30周年を迎えた電気グルーヴ。ちょうど10年前に20周年記念のアルバム「20」をリリースして以降、5年毎に結成からの年数を冠した「記念アルバム」をリリースしています。「20」「25」と来て3作目となるのが本作。
この5年毎にリリースしている記念アルバム、どちらかというとファンズアイテムの企画盤的な要素が強く、通常のオリジナルアルバムと比べると、いい意味で肩の力が抜けた、良くも悪くもファンの期待に応えたような作品に仕上がっていました。

記念アルバム3作目となる本作も、既発表曲のリメイクも多く、良くも悪くも企画盤的なアルバムと思い、とはいえ彼らだからこそ傑作アルバムを期待しつつ、ただ一方でオリジナルアルバムに比べると期待度はさほど高くありませんでした。しかし、これがそんな予想をはるかに超えるオリジナルアルバムに負けずとも劣らずの傑作アルバムに仕上がっていていました。

まずアルバムの1曲目は「電気グルーヴ10周年の歌 2019」という新曲(!)からスタート。ここらへんの人を食ったようなユニークさが電気らしいのですが、石野卓球とピエール瀧改めウルトラの瀧(今年1年限定で、彼の名前はこのように改名されたそうです・・・)の淡々としたユニゾンのボーカルがユーモラスを演出する中、リズミカルなミニマルテクノが心地よいビートを刻む、ユーモラスさだけではない名曲に仕上げてきています。

さらにこれに続くのが1997年にリリースされ、彼ら最大のヒット曲となった「Shangri-La」のリメイク。ベルリンのユニット、2raumwohnungの女性ボーカリスト、インガ・フンペが参加しているのですが、彼女のボーカルが加わることにより楽曲のメロウさが増し、楽曲の印象も変わります。

その後も「電気グルーヴ30周年の唄」や、テンポを速くしてトランス感が増した、ライブではおなじみ「富士山」のリミックスなど彼らのシュールなコミカルさを前面に出した曲がありつつ、ライブ盤の収録はあったものの、オリジナル音源は初収録となる「いちご娘はひとりっ子」「Slow Motion」など前半は電気グルーヴのポップな側面が前に出した構成になっています。

一方中盤以降はミニマルテクノチューンの「Flight to Shang-Hai(It's a such a super flight)」、ディスコチューンの「Flashback Disco(is Back!)」など彼らのテクノミュージシャンとしての側面により強いスポットをあてたインストチューンが並びます。彼らのミュージシャンとしてのコアな部分がより前に出た構成といってもいいかもしれません。

そういった意味で今回のアルバム、電気グルーヴの多面性にスポットがあたったような構成となっており、そういう意味でも非常に優れた構成のアルバムになっていたと思います。また同時に今回のアルバム、30周年を迎えた彼らが彼らのいままでの活動を、2019年という今の視点から振り返った作品のようにも感じました。

実際今回のアルバム、彼らの活動にとってキーとなるような曲が多く収録されています。「Shangri-La」やライブの定番曲「富士山」は言うまでもありませんし、「Flashback Disco(is Back!)」の元曲となる「Flashback Disco」はまりん脱退後、2人組となった電気グルーヴの初の作品。「Flight to Shang-Hai(It's a such a super flight)」は石野卓球ソロ曲をわざわざ収録していますし、また「wire,wireless」をリメイクした「WIRE WIRED,WIRELESS」は、彼らが主催していたレイヴイベント「WIRE」を完全に完結させるという意味合いを持たせたそうで、彼らの活動の中でもひとつの大きな区切りの作品ともいえるかもしれません。

基本的にそれらの過去の彼らの活動の中でキーとなるような曲を、原曲の雰囲気を維持しつつも今の視点からリメイクしている今回のアルバム。電気グルーヴの集大成的な要素も強く、ある意味ベスト盤的な傑作アルバムに仕上がっていました。そういう意味ではリメイクが多いということでもし敬遠している方がいたら非常にもったいないアルバムで、間違いなく今回のアルバムは電気グルーヴのオリジナルアルバムといえるだけの内容に仕上がっていたと思います。そして個人的には2019年を代表する傑作の1枚だったとすら思いました。おそらく今後も彼らは活動を続け、さらに「35」「40」とリリースしていくのでしょうが、これから先の彼らの活動が待ち遠しくなる作品でした。

評価:★★★★★

電気グルーヴ 過去の作品
J-POP
YELLOW
20
ゴールデンヒッツ~Due To Contract
人間と動物
25
DENKI GROOVE THE MOVIE?-THE MUSIC SELECTION-
TROPICAL LOVE
DENKI GROOVE DECADE 2008~2017
TROPICAL LOVE LIGHTS

TROPICAL LOVE TOUR 2017
クラーケン鷹2018

クラーケン鷹


ほかに聴いたアルバム

ジャガーさんがベスト!/ジャガー

千葉のローカルタレント、ジャガーさん。最近はマツコ・デラックスの番組に出演したり、サザンのMVに登場したりと知名度も全国的になってきたようで、今回のベストアルバムにちょっと興味を抱き聴いてみました。楽曲はヘヴィーメタル然としたスタイルとは裏腹なフォークロックやムード歌謡な楽曲が並びます。バックの打ち込みのサウンドがかなりチープでB級感があるのですが、楽曲自体は意外としっかりした内容になっています。ただ、エフェクトかけまくりのボーカルは正直ちょっと聞き取りにくく癖があり、ジャガーさんというキャラに思い入れがなければさほど楽しめないかも。ジャガーさんというキャラクターのファンならば、是非。

評価:★★★

Sympa/King Gnu

おそらく、今、最も注目されているロックバンド、King Gnuのニューアルバム。本作もいきなりチャートでベスト10入りしてきて大きな話題となりました。ロックを軸にソウルやジャズ、ファンクなどを取り込んだ音楽・・・ということでタイプ的には先にブレイクしたSuchmosやNulbarichと同系列といったイメージがあります。ただ、先のバンドと比べると、メロディーラインはより歌謡曲、というよりもJ-POP色が強く、良くも悪くも「ベタさ」を感じさせる部分も。個人的には今の時点ではそこまで大絶賛するほどは、という印象も否めず、彼らに対する評価はこのアルバムを聴く限りにおいては絶賛もマイナス評価も出来ない「保留」といったもの。ハイプか評判通りの実力派か、次のアルバムをまずは聴いてみたいところです。

評価:★★★★

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アルバムレビュー(邦楽)2019年」カテゴリの記事

コメント

ご無沙汰しております。

本日ピエール瀧のニュースを見てショックでした。
ミュージシャンとしてだけじゃなく俳優、
タレントとしても好きでしたので。
何故コカインなんかに手を出してしまったのか…
アナ雪にも出てたので子供達にはどう説明するのかという点も…
せっかく電グルは30周年だというのに。
初犯ですからしっかり罪を償って
依存からも抜けきったらもう一度姿を見たいです。

ただ音源は既に販売中止が決まったようで
そこは過去の作品に罪はないので
その分は許可してほしかったなあ。
もちろんいろいろ意見はあると思いますが。

投稿: Toshi | 2019年3月13日 (水) 22時15分

先にコメントされたToshiさん同様に私も本日のニュースには大きな衝撃を受けました。

瀧氏は電気グルーヴとしてのミュージシャンとしてはもとよりも、今や俳優やタレントにとマルチに活躍しており、それこそどこかしらで目にする機会があるというイメージでしたので、薬物絡みで躓いてしまった事は何とも言いようがありません。
今年の大河ドラマである『いだてん』でも瀧氏は物語上重要なキャラとして登場しており、報道によれば3ヶ月先まで収録済みとの事ですが、出演場面は編集でカットするのかそれとも代役を立てるのか気になる所だったりします。ドラマではなかなか好演していたのでそれを「なかったこと」のようにしてしまうのは勿体ない所なのですが、『いだてん』に関しては扱っている時代が近現代でテーマがオリンピックと大河ドラマとしては異色過ぎて世間的な受けが悪いのか視聴率低迷のニュースばかりが続いている中でこんな事件が起きてしまったとなるとこちらもショックは大きいのではないかと思わざるをえません。個人的には当ドラマはかなり面白く観ているのですが。
電気グルーヴに関しては、今年結成30周年と節目な年だけに今後の活躍に期待したい所だっただけにこちらのダメージも大きいように思えてなりません。ゆういち様が2019年を代表する傑作の1枚になるのかもしれないとおっしゃられた矢先にこんな事になってしまうとは・・・・・。

近年における薬物絡みでの有名人の逮捕となると、CHAGE&ASKAのASKA氏や元プロ野球選手の清原和博氏の件が記憶に新しい所ですが、薬物が元で有名人が逮捕される事によるダメージの大きさが喧伝されているにもかかわらず後を絶たないというのは一体どういう事なのかとさえ思いたくもなります。アーティストやクリエイターといった職業の方々だと発表したり関わったりした作品が一時期封印状態にされてしまうケースが多いだけに、そのリスクを考えると手を出さない方が遙かにマシだと思えるのですが。
私もToshiさん同様に発表した作品と本人の罪は別個のものなので、作品に対して自主規制のようなものをかけるのはいかがなものかと思う立場です。今回の瀧氏も、映画では『シン・ゴジラ』や『アナと雪の女王』等々、ドラマでは大河ドラマの『龍馬伝』や連続テレビ小説の『あまちゃん』等々の有名どころに出演しているのでこれらに規制をかけてしまうと一体何を流せばいいんだとしか言いようがありませんので。

投稿: MoTo | 2019年3月14日 (木) 01時01分

ゆういちさん、こんばんは。

ピエール瀧の逮捕についてはショックというより「何やってんだよ・・・」って感じです。電気はクラブ系でありながらも、そういった薬系の類いには無縁な存在だと思っていたので。

瀧のこれからですが、今回が初犯で罪も認めて反省しているようなので、過去の岡村ちゃんやマッキーのようにおそらく執行猶予がつくと思われますが、電気で復帰するかは卓球の判断しだいでしょうね。まあ復帰するにしてもこの世界を引退するにしても、どちらにせよまずはしっかり反省して依存から抜けださなくてはいけませんよね。せっかくこんな大傑作をリリースしたばっかりなのに・・・

投稿: 通りすがりの読者 | 2019年3月15日 (金) 01時32分

>Toshiさん
>MoToさん
>通りすがりの読者さん
書き込みありがとうございます。ピエール瀧逮捕のニュースは私にとってもかなりショッキングなニュースでした。ただ、正直な感想としては、ドラッグと密接に関わりのあるレイヴシーンの、それも海外で活動していて、さらに好奇心旺盛な彼らだから多かれ少なかれドラッグの経験はあるだろうなぁ、と思っていたので、使用していたこと自体に関しては意外性はありません。
もちろん薬物犯罪を擁護するつもりはないのですが、普段、世の中の常識や良識を斜めから見ておちょくっているようなスタイルを貫いている彼らが、ワイドショーなどで「世間の良識」の批判を多く受けている状況は個人的には何とも言えない違和感があり複雑な心境というのが正直な気持ちです。ただピエール瀧については、それだけお茶の間の人気者として進出していたということなのでしょうね。
またみなさんがご指摘されているように過去の電気の音源やピエール瀧出演作の発売停止処置についてはここ最近毎度のことながら、いかがなものかと思います。確かに放送中のテレビドラマなどはある程度仕方ないにしろ作品と作者の人格は別物という原則は貫かれるべきだと思います。ましてや薬物犯罪のように直接の被害者がいない犯罪については規制は最小限に抑えるべきだと思います。
個人的には電気の復活についてはあまり心配していません。卓球と瀧は他のユニットでは見られないほど仲の良いことで有名ですし、どこか醒めた目で世間を見ている2人ですが、ことさら音楽に関しては熱い情熱を持っています。そういう意味ではこれを機に電気が解散、ということはまずないでしょう。個人的には罪を償うという意味でも執行猶予(おそらく初犯なのでこれが付くと思いますが)期間中の活動は自粛すべきと思っていますが、罪をつぐなったら、またあのぶっとんだパフォーマンスを見せてほしいです。

投稿: ゆういち | 2019年3月25日 (月) 22時06分

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