大正時代の庶民の本音
Title:大正滑稽はやり唄 -書生節と小唄による風刺・モダン・生活-
戦前のSP盤をCDに復刻し、多くの興味深いオムニバス盤をリリースし続けるレーベル、ぐらもくらぶ。このサイトでも何度も同レーベルのアルバムを紹介していますが、今回紹介するアルバムはタイトル通り、大正期のノベルティーソングを集めたオムニバスアルバムです。
大正時代といえば、わずか15年という短命もさることながら、文明開化の明治と激動の昭和に挟まれて、どうしても「影が薄い」という印象を受けてしまう時代。ただ一方で、「大正デモクラシー」という言葉に代表されるように、徐々に近代文明や民主主義といった西洋先進国の価値観が日本にも定着しはじめ、なおかつ後の戦争の影はまだ少々先というこの時代は、庶民が力をつけてきて明るい時代というイメージもあります。
さらに「ぐらもくらぶ」のアルバムの紹介でも何度か言及しているのですが、ノベルティーソングというのは、普通の流行歌ではなかなか歌われないような庶民の「本音」が顔を覗かせ、むしろ当時のヒット曲以上にその時代時代の世相風俗を直接的に反映した曲が少なくありません。そういう意味でも、この大正期のノベルティーソングを集めた今回のアルバム、大正時代に生きた人々の本音が垣間見れる曲の数々に興味深く最後まで聴くことが出来るアルバムになっていました。
例えば今回収録されている曲の中でも「ハイカラ節」や「学生節」、またそのものズバリ「当時東京の流行物」などは当時の流行物がそのまま登場しており、歌詞も興味深く楽しむことが出来ます。固有名詞も多いため、固有名詞の解説なんかもあるとうれしかったのですが・・・そうすると歌詞カードのページ数がとんでもないことになるのかな?また、当時の庶民の本音としては「のんき節」や「のんきな父さん」あたりがそうでしょうか。どちらも貧乏ながらもたくましく生きる庶民の本音が垣間見れる歌詞になっています。
さらには「デモクラシー節」はタイトル通りの社会派な歌詞が印象的ですし、関東大震災の後に歌われた「復興節」は震災から立ち直ろうとしている庶民の強さを感じます。さらに「金恋し」は戦前の大ヒット曲「君恋し」のパロディー。あまりにそのまんまのパロディーなのですが、この手のパロディーは時代を越えて今でも通用しそう。また、このオムニバスの中で特に珍曲と言えるのが「ヂンヂロゲーとチャイナマイ」。全編意味不明な言葉が続く楽曲で、言葉の響きだけで楽しませようとする楽曲。後に昭和30年代に森山加代子がカバーしてヒットを記録しているそうですが、純粋に言葉の響きだけで笑いを取ろうとする内容だなけに、時代を越えたある種の普遍性のあるコミックソングになっています。
また興味深いといえば「平和節 ジョーヂャソング(東京節)」で、こちらでは全国各地の名所名産品などが歌われているのですが、今でもおなじみの名物もあれば、逆に完全に忘れ去られているようなものもあったりして興味深く歌詞を楽しむことが出来ます。ここでは我らが名古屋も題材にあがっていて
「名古屋は日本の中京で、熱田まで電車が敷いてある、
自転車にシャチホコ、糸絞り、大根漬、味噌漬、八丁味噌、
三味三味は腕くらべ、お能の狂言元祖にて
別嬪さんの多いのが日本一」
なんて歌われています。八丁味噌やシャチホコはいまでもおなじみ。糸絞りは有松・鳴海絞でしょうか?自転車が有名だったというのは意外ですが、著名な自転車メーカーだったツノダは名古屋の会社ですね。大根漬というのは全国的な知名度は高くないかもしれませんが、守口漬という大根漬の名古屋名産はいまでも健在です。一番意外だったのは「別嬪さんが多いのが日本一」というフレーズ。ともすれば「ブスの産地」など馬鹿にされることが少なくないのですが、戦前は逆に美人の産地として有名だったことが伺われ、名古屋に対する見方が180度変化していることが非常に興味深く感じます。
そんな訳で時代を反映した歌詞を読み解くだけでもとても楽しめるコンピレーションアルバム。全体的にはまだ戦争が本格化していないこともあり、暗さがあまり感じなく、全体を通じて明るさを感じる点も大きな特徴となっています。歴史的な観点からも価値あるコンピ盤。今の視点からでも十分楽しめる1枚でした。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
プライニクル/柴田淳
前作から1年1ヶ月というスパンでリリースされた柴田淳のニューアルバム。もともと悲しい失恋の歌がメインだった彼女ですが、本作ではその傾向がさらに純化。全編、心が締め付けられそうな悲しい恋の歌が並んでいます。もともとコミカルな内容だった「拝啓、王子様」シリーズは前作で終わりかと思いきや、本作でも登場。ただ内容は良くも悪くも他の曲と同じような悲しい恋の歌になっています。前作同様、目新しさはありませんが、ファンなら安心して聴けるようなアルバムになっていました。
評価:★★★★
柴田淳 過去の作品
親愛なる君へ
ゴーストライター
僕たちの未来
COVER 70's
あなたと見た夢 君のいない朝
Billborda Live 2013
The Early Days Selection
バビルサの牙
All Time Request BEST~しばづくし~
私は幸せ
BOY/OKAMOTO'S
今年、デビューから10周年を迎えるOKAMOTO'Sのニューアルバム。「BOY」というタイトルの通り、OKAMOTO'Sとしての「少年時代」に戻ったかのようなルーツ志向のロックンロールナンバーが楽しめるアルバムに。打ち込みやホーンセッションの入る曲もありますが、基本的にはギターリフを聴かせるシンプルなバンドサウンドで構成された、いい意味でちょっとオールドスタイルなロックナンバーが並ぶアルバムになっています。バラエティー富んだ作風が特徴的だった前作「NO MORE MUSIC」と対照的ながらも、これはこれで非常にOKAMOTO'Sらしい1枚に仕上がっていました。
評価:★★★★★
OKAMOTO'S 過去の作品
10'S
オカモトズに夢中
欲望
OKAMOTO'S
Let It V
VXV
OPERA
BL-EP
NO MORE MUSIC
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