「ふるさと」を離れて・・・
今日は先日見てきた音楽ドキュメンタリー映画の紹介です。「ナヴィの恋」などで知られる映画監督の中江裕司が3年かけて撮影したドキュメンタリー映画「盆唄」。福島第一原発の事故により、現在、町内ほぼ全域が帰還困難区域となっている福島県双葉町。そこに伝わる「双葉盆唄」について取り上げたドキュメンタリーになっています。もともと、ここ最近、盆踊りなど日本の昔からの音楽文化について興味を持つようになりましたが、そんな中で盆踊りを取り上げたドキュメンタリー映画ということで興味を持ち、映画館に足を運びました。
本作は、双葉町の「双葉盆唄」の太鼓奏者である横山久勝さんを中心として物語は進んでいきます。原発事故によりふるさとを追われた横山さん。ふるさとに伝わる双葉盆唄も消滅の危機に瀕する中、写真家の岩瀬愛さんの紹介によりハワイの日系移民の間に日本の盆踊りが受け継がれていることを知ります。そんな中で消滅の危機にある双葉盆唄をハワイの人たちに引き継いでもらおうとハワイを訪れる・・・というところからドキュメンタリーはスタートしていきます。
で、以下ネタバレありの感想。
映画の紹介文だと、上に書いた通り、双葉盆唄をハワイの人たちに引き継いでいこうという物語のように読み取れます。実際、双葉町の人々とハワイの日系移民の子孫たちの交流が前半のハイライト。物語のひとつの軸となっています。
ただ、この物語の主軸となっているのは単なる日本人とハワイ日系移民の子孫との交流、という話ではありません。メインテーマとなっているのは、ふるさとを追われ、ふるさとに帰りたいけど帰れない人たちの物語。このドキュメンタリーも盆唄を歌い継ぐというよりは、ふるさとを追われた双葉町のひとたちの話がメインとなっており、そこに同じく、明治時代に日本を離れ、ハワイでもがき苦しんだ日本人移民たちの物語を重ね合わせています。さらにそこに加えて、実は双葉町の人たちの中にも、昔、先祖が遠い金沢の地から移り住んだ人がいたことを描いており、同じくふるさとを離れざるを得なかった人たちの物語として描いています。
そしてそんな人たちとふるさとをつなぐものとして盆唄の存在を描いています。双葉町の人たちにとっては双葉盆唄がそんなふるさとの人たちを結びつけるものですし、また遠いハワイの地において日本の盆踊りを歌い継いでいる日系移民の人たちも同様。ここに音楽の力を感じることができました。
そのため一般的な「音楽ドキュメンタリー」というイメージとはちょっと違うかもしれません。ドキュメンタリーのメインテーマとなっているのはあくまでも福島原発において双葉町を離れざるを得なかった人たちにスポットをあてたものとなっています。ハワイの人たちとの交流についてもサブテーマ的な素材になっており、中盤以降はあまり描かれていません。そのため、この双葉町とハワイの日系移民の子孫との交流について、ちょっと中途半端に終わってしまっている感があるのは残念。さすがに1年だけ訪れて「歌い継いでください」だとちょっと中途半端すぎる描かれ方のような印象を受けてしまうのですが・・・その後の交流についても知りたかったです。
また、原発事故によりふるさとを追われた人たちの話なのですが、ドキュメンタリーとして反原発色はほとんどありません。実際、ドキュメンタリーの中に登場する人の中にも原子力発電所で働いている人たちや、さらには原子力発電所を建設した人たちも登場しており、双葉町の人たちにとっては、例えふるさとを追われた原因になったとはいえ、原発について単純に反対賛成を言えるような話ではなく複雑な心境を抱いているのでしょう。原発について賛成反対の姿勢を示さなかったことにより、双葉町の人たちの複雑な思いがドキュメンタリーから伝わってきました。
そんな訳で、純粋に音楽ドキュメンタリー的なものを想像するとちょっとイメージとは異なる映画かもしれませんが、ただそんな中、音楽的な側面を求める人にとっては特に圧巻だったのはドキュメンタリーのクライマックスになっているラストシーン。最後は横山さんたちが中心となり、双葉盆唄の各地域の保存会の人たちをあつめて、双葉町全地域のひとたちが一体となる盆踊り大会を開催します。
最後はこの盆踊り大会での双葉町各地域の演奏が続いていくわけですが、これが非常にカッコいい!映画館の大画面と大音量で響いてくる双葉盆唄のリズムに本当にワクワクさせられる展開。ここまで、映画の中で音楽というのはある種サブ的なアイテムだったのですが、このラストのクライマックスでは文句なしに音楽が主役。日本で昔から伝わる大衆音楽の魅力と迫力を存分に感じることが出来ます。
そしてラストはドキュメンタリーの主人公だった横山さんたちのチームのメンバーによる演奏となります。もちろん、いままでドキュメンタリーの中で彼らの物語を追ってきただけに思い入れたっぷりにその素晴らしい演奏に聴きほれます。ここちよい高揚感の中で映画は幕を下ろしました。
「ふるさと」をテーマとして描いているドキュメンタリー。決して派手な演出などはないのですが、非常に心に残る作品だったと思います。「盆唄」というタイトルに惹かれるような方はもちろん、原発を巡る日本の現実という意味でも、是非とも一度見ておいてほしい意義深いドキュメンタリー映画でした。
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