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2019年3月10日 (日)

バンドの成長を感じる傑作・・・だが・・・。

Title:ANTI ANTI GENERATION
Musician:RADWIMPS

「前前前世」をはじめ、映画「君の名は。」に使用された楽曲の大ヒットにより一躍、国民的バンドとなったRADWIMPS。
ただ、そんな中リリースされたアルバム「人間開花」は歌詞的にも彼ららしいユニークな視点の曲が少なく、サウンド的にも挑戦的なサウンドを取り入れようとしつつも、全体的にアンバランスになってしまう、正直言って彼らとしては「凡作」となっていました。

そんな前作から約2年。「君の名は。」旋風も落ち着いた中リリースされた新作が本作。正直、前作の出来が今一つだったので、あまり大きな期待をしないで聴いてみたのですが、今回のアルバムは前作の懸念が払しょくされた傑作アルバムに仕上がっていたと思います。

特に今回、良くできていたのがサウンド面でのバランス。「IKIJIBIKI」「HOCUSPOCUS」「サイハテアイニ」のような疾走感あるギターロックをしっかりと聴かせる一方、「そっけない」やあいみょんが参加した「泣き出しそうだよ」のようなピアノで歌を聴かせるナンバー、さらに「カタルシスト」ではエレクトロビートでHIP HOP風という挑戦的で、かつ野田洋次郎のソロプロジェクトillionからの流れを感じる曲もありますが、今回のアルバムに関しては全体の中にうまく溶け込んでいます。

このサウンドのバリエーションの多さかつバランスの良さはいままでの作品の中でも一番であり、その点、バランスが悪かった前作と比べるとバンドとして一皮むけた傑作に仕上がっていたと感じました。一方、歌詞については今回に関しても、「そっけない」のような彼ららしいラブソングは顔をのぞかせるものの、前々作までの彼らに比べるとちょっとインパクトは薄めだったかな、と感じます。ただ、それなりに彼ららしさは出ていたと思いますが。

ただ今回のアルバム、1曲、「問題作」と言える楽曲がありました。それが9曲目に収録されている「PAPARAZZI~*この物語はフィクションです~」という曲。この曲はタイトル通り、パパラッチをテーマにした曲なのですが、子供がパパラッチである父親に対して、職業の内容を問うというストーリーからパパラッチに対して強烈な批判を加える楽曲になっています。

いわば強烈なマスコミ批判に賛否わかれる「問題作」となっているのですが、私ははっきりいえば歌詞の面からこの曲は駄作だと思います。歌詞としてはパパラッチ批判を一方的かつ感情的に繰り出すだけでその批判内容も定型的かつ表面的。何ら深みも独特の視点も面白みもありません。それを子供の視点を通して語ろうとするスタイルも、純粋無垢な「公正的な視点」を作り出したいのでしょうが、その方法自体が完全に逃げですし、かつ卑怯に感じます。同様にして、タイトルに「この物語はフィクションです」という一文を入れているあたり、逃げの姿勢を感じ、かつ無責任さすら感じます。

マスコミ批判という、ある意味感情的になりがちな題材を取り扱っているにも関わらず、その扱い方があまりにも雑。かつ表現者として無責任。RADWIMPSといえば昨年、シングル「カタルシスト」のカップリングとしてリリースした「HINOMARU」が、愛国心をテーマにした内容に賛否両論の大炎上を引き起こしました。ただ、構造としては今回の「PAPARAZZI」に非常に似ています。「愛国心」という感情論的になりがちで、かつ人によって様々な考えを持っている題材を取り扱っているにも関わらず、その扱いが非常に雑。また「HINOMARU」に関しても批判の多さにあっさりと謝罪を表明する(にも関わらず、次のライブでは「国を愛して何が悪い」とこの曲を歌ったらしい・・・)姿勢も表現者としての無責任さを感じます。そういう意味では今回の「PAPARAZZI」には、「HINOMARU」に似ている部分を強く感じます。

マスコミ批判といえばかの川谷絵音率いるゲスの極み乙女。も似たテーマで曲を書いています。彼の場合は自業自得なのでしょうが、ただ彼の場合、「僕は芸能人じゃない」ではマスコミ批判だけではなくその向こうにいる視聴者にもスポットをあてていますし、さらに「あなたには負けない」では川谷絵音をめぐるゴシップネタに対してシニカルかつユーモラスに反撃するという、きちんとエンタテイメントとして仕上げています。こういうやり方がミュージシャンとしてあるべきスタイルだと思うし、正直、マスコミ批判というテーマ性に関しては、ミュージシャンとして川谷絵音の方が野田洋次郎に比べて1枚も2枚も上手に感じてしまいました。そもそも今回、マスコミ批判のきっかけとなった週刊誌ネタって、野田洋次郎の親に突撃インタビューを行ったことらしいんですが、それってはっきりいって有名税の範囲内では??

そんな訳で「HINOMARU」と合わせて野田洋次郎のミュージシャンとしての問題点と限界も感じてしまった今回のアルバム。そういう意味では1つ下げようか迷ったのですが・・・ただ、この曲を除けばアルバムの出来としては非常に良いアルバムではあるのは間違いないので、下記の評価で。ただ、今後も同じような歌詞の曲が続いたら厳しいなぁ・・・。誰か、周りももうちょっとアドバイスできるような人材はいないのでしょうか。野田洋次郎もすでに30歳を超えたよい大人なのですが、それにしては感情にまかせて書く歌詞があまりにも幼い・・・。

評価:★★★★★

RADWIMPS 過去の作品
アルトコロニーの定理
絶対絶命
×と○と罰と
ME SO SHE LOOSE(味噌汁's)
君の名は。
人間開花
Human Bloom Tour 2017


ほかに聴いたアルバム

FLAVA/Little Glee Monster

昨年末は2年連続紅白出演を果たし、本作では初となるチャート1位を獲得するなど勢いが続く女性ボーカルグループLittle Glee Monster。爽快なJ-POP路線ながらも、あくまでも「歌」を聴かせるスタイルのため伸びやかに声量を聴かせる曲も多く、微妙にモータウンなどブラックミュージックの要素も加え、アイドルグループとは一線を画する、ボーカリストとしての実力と誇りも感じます。ただ、通常盤のDisc2ではモータウンのカバーメドレーが収録されているのですが、なぜか日本語カバー。彼女たちを聴くような層は英語の歌詞だと受け入れないのでしょうか?かなり残念。正直、アルバムの1曲2曲くらい、もっと洋楽寄りに振り切ってしまった曲を入れてもおもしろいと思うのですが・・・。

評価:★★★★

Little Glee Monster 過去の作品
Joyful Monster
juice

フリー・ソウル・スガシカオ/スガシカオ

ご存知おしゃれなブラックミュージックをあつめたコンピレーションアルバム「フリーソウル」シリーズ。今回取り上げるミュージシャンはあのスガシカオ。比較的「知る人ぞ知る」的な曲を集めるコンピですが、今回のアルバムでは「黄金の月」「愛について」など代表曲も収録。さらにkokua名義でリリースした「Progress」やご存知、SMAPに提供して大ヒットを記録した「夜空ノムコウ」のセルフカバーバージョンも収録。オールタイムベスト的にも楽しめる魅力的なコンピになっていました。

評価:★★★★★

スガシカオ 過去の作品
ALL LIVE BEST
FUNKAHOLiC
FUNKASTiC
SugarlessII
BEST HIT!! SUGA SHIKAO-1997~2002-
BEST HIT!! SUGA SHIKAO-2003~2011-

THE LAST
THE BEST-1997~2011-

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コメント

paparazziは確かに賛否両論って感じですよね・・私は個人的には五月の蝿(あれも
表現が過激なところはありますが)とかは
割と好きなんですが、こっちは内容があまりにも具体的なだけに、あそこまで攻撃的になるのはどうかなとは思います。
川谷さんは最近ジェニーハイでも色々ネタにしているけど、あっちは笑える自虐って
感じで好きです。

投稿: 通りすがり | 2019年5月23日 (木) 17時18分

>通りすがりさん
そうですね。川谷さんはなんだかんだいってもふっきれて自虐ネタに入っている点、まあやったことの良し悪しはともかくとしてエンタテイナーとして覚悟は出来ているのかな、といった感じがします。RADWIMPSは・・・いろいろな意味で残念な感じが・・・。

投稿: ゆういち | 2019年6月10日 (月) 23時33分

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