原点回帰のロックアルバム
Title:バタフライ・アフェクツ
Musician:ソウル・フラワー・ユニオン
ソウル・フラワー・ユニオンというとご存じの通り、もともとは中川敬率いるニューエスト・モデルと、伊丹英子らが参加していたメスカリン・ドライブが合体して誕生したバンド。このうちニューエスト・モデルといえば当初はパンクロックバンドとしてスタートしたものの、その後は骨太なロックサウンドを奏でるバンドへと進化。さらには末期からはトラッドや民謡などを取り入れて、ソウル・フラワー・ユニオンへとつながっていきます。そしてソウル・フラワー・ユニオンといえば、トラッドや民謡、さらにチンドンなどの大衆音楽とロックを見事に融合させた独特のサウンドを聴かせてくれていました。
そんな中リリースされた約4年ぶりのアルバムは、まず驚くべきことはニューエスト末期から彼らのサウンドの中心となっていたトラッドや民謡、チンドンといった要素を完全に排除。ニューエスト・モデルに回帰したような、ソウルやサイケの要素を取り込んだ骨太のロックサウンドを聴かせるアルバムに仕上げてきました。
サウンド的にもシンセの音などを取り入れているものの、基本的にはシンプルなバンドサウンドがメイン。そういう意味ではソウル・フラワー・ソウル史上、もっともシンプルかつロックらしいロックアルバムと言えるかもしれません。いままで大衆に根付いた音楽へのあくなき追及を続けていただけに、ここに来て、彼らの原点ともいえるロックに立ち返ったというのはちょっと意外な感じもしました。
もっともそうは言っても最近のソウル・フラワーらしさがなくなってしまった・・・という訳ではありません。「この地上を愛で埋めろ」の祝祭色あるサウンドはまさにソウルフラワーらしさを感じますし、「愛の遊撃戦」もリズムから民謡っぽさを感じます。決してソウルフラワーになってからの大衆音楽路線を投げ捨てた訳ではなく、しっかり根底にはソウルフラワーが培ってきた音楽が流れています。ソウルフラワーとしての活動を経たからこそ作ることが出来たロックアルバムであることは間違いないかと思います。
さてそんな本作の歌詞、Twitterなどではポリティカルな発言が目立つ中川敬ですが、歌詞ではそんなに強く政治性を出してきていないのがユニークなところ。ただ、とはいえその歌詞からは中川敬の強烈なメッセージを感じることが出来ます。「この地上を愛で埋めろ」ではデマや差別に対するアンチを読み取れますし、「路地の鬼火」にも辺野古を彷彿とさせる描写も出てきます。
また「エサに釣られるな」もタイトル通り、権力者からのエサに釣られるなと歌う強いメッセージ性ある曲なのですが、「フェイクに釣られるな それはただの水」なんて表現は、ちょっと前に流行った水素水を皮肉った感じが。このように堅苦しいメッセージというよりは、どこかユーモラスを感じたり、また風景描写に郷愁感を感じたりするスタイルはいままでのソウルフラワーと何ら変わりませんでした。
そんな訳で、いままでのソウルフラワーユニオンとは少々異なった原点回帰の作風に、ちょっと戸惑った部分もあるのですが、ただ骨太のロックサウンドは文句なく魅力的。またきちんといままでのソウルフラワー路線も反映されており、単純なニューエストへの回帰ではなく、まさに今の彼らだからこそつくれたアルバムと言えるでしょう。またここに来てあらたな一歩を踏み出した彼ら。次のアルバムはどんな方向性になるのでしょうか。今から楽しみです。
評価:★★★★★
ソウル・フラワー・ユニオン 過去の作品
満月の夕~90's シングルズ
カンテ・ディアスポラ
アーリー・ソウル・フラワー・シングルズ(ニューエスト・モデル&メスカリン・ドライブ)
エグザイル・オン・メイン・ビーチ
キャンプ・バンゲア
キセキの渚
踊れ!踊らされる前に
アンダーグラウンド・レイルロード
ほかに聴いたアルバム
Catch The One/Awesome City Club
3月にリリースされたEP「Torso」に続くフルアルバム。「Torso」収録曲も2曲収録されています。軽快なエレクトロポップチューンが並び、ダンサナブルな楽しい曲がメイン。「Torso」同様にディスコチューンの影響が強いアルバムで、なによりも男性ボーカルメインの中に、上手く女性ボーカルをからませてくるバランスの上手さが光りました。メロディーのインパクトなども十分な一方、「Torso」と同様、ちょっとバリエーションや音楽的な目新しさという意味では物足りなさも。ただ純粋なポップアルバムとしては十分に楽しめた1枚でした。
評価:★★★★
Awesome City Club 過去の作品
Awesome City Club BEST
Torso
ネリネ/KANA-BOON
5月にリリースされたミニアルバムに続くKANA-BOONの新作は今回も「冬」をテーマとした5曲入りのミニアルバム。どの曲もメロディアスなギターロックで構成されており、シンプルな曲調になっています。恋人の日常を描いた暖かい雰囲気のラブソング「湯気」など冬らしさも感じつつ、ただ全体的にバンドとしての特徴はちょっと薄めか。悪くはなく、楽曲にそれなりにインパクトはあるのですが、よくありがちなギターロックという印象が否めませんでした。
評価:★★★★
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2019年」カテゴリの記事
- 彼女の幅広い音楽性を感じる(2019.12.26)
- 80年代に一世を風靡した女性ロックシンガー(2019.12.28)
- 2つの異なるスタイルで(2019.12.14)
- ミュージシャンとしての矜持を感じる(2019.12.17)
- 2019年最大の注目盤(2019.12.13)
コメント