ユニークな視点の歌詞が大きな魅力
Title:INOTOPIA
Musician:井乃頭蓄音団
毎作、そのユニークかつ独特な歌詞が大きな魅力となっている井乃頭蓄音団。本作はそんな彼らの約2年ぶりとなるニューアルバムです。彼らの大きな魅力といえば、何をおいてもまずは歌詞の世界観なのですが、以前の彼らはダメな自分たちをそのまま描く、ある意味、変態性すら感じられる自虐的な歌詞が大きな特徴でしたが、ここ最近は日々の日常をありのままに描いた歌詞にシフトしています。もっとも、ありのままの自分をそのまま描く、という意味では初期の作品から共通しているのでしょうが。
まず1曲目の「愛」からあまりにもストレートなラブソング。このストレートさが逆に新鮮味を感じます。「今日だけはとことん悲しむといい」という、こちらも彼ららしいストレートさが胸をうつ「悲しむといい」、「愛や夢だけじゃ愛も夢も守れない」という歌詞が胸に響く「イキテク才能」など、ふとしたフレーズが心に深い印象を残す歌詞が大きな魅力となっています。
一方で「THE財閥」など、財閥に対して「世間に縛られている自分たちをまるごと買収してくれ」と歌う、あまりにも独特な発想がユニークですし、「誰だかわからない人にあいさつされた」という「あるある」なシチュエーションを描いた「佐々木です」など、彼ららしいユニークな歌詞も多く、こういうユニークな発想も耳を惹きます。
そんな中でも一番印象に残ったのは最後を締めくくる「息子の恋」。3歳児が保育園で出会った女の子との恋(?)とそれに伴った成長を描いた作品なのですが、確かにこの頃の子どもって、1日でグッと成長するような瞬間があり、似たような歳の子どもを持つ親としてはグッとさせられる歌詞になっています。今回のアルバムの中でも断トツに印象に残る歌詞でした。
一方、サウンドに関しては比較的シンプルなサウンドのフォークロック、カントリーロックなどがメイン。ただ、そんな中で、例えば「悲しむといい」のような悲しい歌詞の楽曲にも関わらず曲調は軽快なカントリーになっていたり、同じく、彼らならではの視点から社会派的な歌詞に挑戦している「違う次元に行こうよ」なども歌詞で歌われている重い内容とは反して、至って軽快な曲調にまとめあげており、そのギャップにユーモアさを感じます。
また、へヴィーなブルースロックでまとめた「土竜」や、ストレートなオルタナ系ギターロック路線の「愛」など、意外と豊富な音楽性のバリエーションも感じられます。どのタイプの曲も比較的シンプルでストレートな作風なのですが、逆にだからこそしっかりとした音楽的な土台を感じることが出来ます。
最近のアルバムは、初期の作品のような「変態性」という飛び道具が薄れてちょっとインパクトが弱くなってしまった感もあったのですが、今回のアルバムではそのユニークな視点からの歌詞によって、ここ最近のアルバムの中では一番強いインパクトを感じた作品になっていました。間違いなくもっともっと売れてもいいバンドだと思うのですが・・・まだ彼らに触れたことない方は、是非ともこのアルバム、一度聴いてみてください。お勧めです。
評価:★★★★★
井乃頭蓄音団 過去の作品
親が泣くLIVE at 下北沢GARDEN 29 Feb.2012
おかえりロンサムジョージ
グッバイ東京
MAHOROBA
ほかに聴いたアルバム
daily/androp
andropのニューアルバムは全6曲入りのミニアルバム。前作「cocoon」はバラエティー富んだ音楽性が特徴的でしたが、本作は一転、全曲にわたる切ないメロと歌詞で統一感あるアルバムになっていました。サウンド的にはシンプルにまとめあげられており、あくまでも「歌」を聴かせることが主眼となったアルバム。ただ、似たような曲が並んだこともあり、ちょっと楽曲のインパクトが薄かったのが惜しい感じがしました。
評価:★★★★
androp 過去の作品
door
relight
one and zero
period
androp
best [and/drop]
blue
cocoon
Saravah Saravah!/高橋ユキヒロ
高橋幸宏が1978年にリリースしたソロデビュー作「サラヴァ!」。本作はバッキングトラックはそのままで、ボーカルのみ今の声で取り直したリメイクアルバム。メロウな雰囲気が入りつつ、ラテンやフランス音楽などの要素を取り入れたシティポップは今聴いても個性的で、古さを全く感じさえないアルバムとなっています。坂本龍一が全作編曲にかかわっているほか、細野晴臣や山下達郎、加藤晴彦や高中正義などそうそうたるメンバーが参加したアルバムですが、その魅力は40年たったいまでも全く衰えることはありませんでした。
評価:★★★★★
高橋幸宏 過去の作品
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