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2019年2月23日 (土)

数多くの民謡に影響を与えた原点

Title:牛深ハイヤ節

本作もまた、各種メディアで2018年ベストアルバムとして紹介されたアルバムのうち、まだ聴いていないアルバムを後追いで聞いた1枚。Music Magazine誌のワールド・ミュージック部門で10位にランクインされていた本作。
ここでも何度か取り上げた、
阿波踊りをレアグルーヴ的な観点から再解釈し大きな話題となった「ぞめき」シリーズをプロデュースした久保田麻琴による企画・録音・リマスターによるアルバム。熊本県の天草に位置する漁村、牛深に江戸時代から伝わる民謡、牛深ハイヤ節を録音した作品です。

「ハイヤ」とは九州で南風のことを示す「ハエの風」が語源。船乗りたちがこの南風が吹くのを待つ風待ちの時間に繰り広げられた宴会の席で歌った酒盛り歌がこの「ハイヤ節」のルーツだとか。そんなハイヤ節は海を介して文字通りの津々浦々に広がっていき、佐渡おけさなどのルーツになった、と言われています。

本作は2枚組のアルバムとなっており、1枚目には現在の歌い手による「牛深ハイヤ節」が収録。2枚目は1996年に逝去した舞踏家・民俗芸能研究家の桧瑛司が70年代に録音したと思われる「牛深ハイヤ節」の貴重な録音を収録。さらに同作のリミックス、ダヴ・バージョンも収録されています。

さて、そんな本作ですが、まずはとにかくビートが心地よさを感じます。三味線が鳴る中で軽快なリズムを刻む小太鼓。そして時折大太鼓が重いビートを奏でます。太鼓が刻むビートはシンプルな四つ打ちではなく、跳ねるようなリズム感が大きな魅力に。また、ここに大太鼓の重い音が絡むことにより、一種の幻想感すら感じます。

そもそもこの「ハイヤ節」というのは宴会の席での音楽ということで当然、聴き手にはアルコールが入っている訳で。そういう意味ではハイヤ節は酩酊状況で聴く音楽。軽快に飛び跳ねるようなリズムからは一種のトリップ感を覚えます。また「ハイヤ節」ではハイトーンの女性の歌が加わりますが、この女性の甲高い歌声もトリップ感を味わえる大きな要素に。誤解を恐れずにいえば、「ハイヤ節」は一種のドラッグソング、と言えるの・・・・かも??

今回のアルバムには、牛深ハイヤ節の源流とも言われる「元ハイヤ(加世浦磯節~牛深ハイヤ節)」が収録。15分にも及ぶ長尺の曲なのですが、途中に合いの手を入れながら歌い手が順々に歌っていくスタイルで、まさに宴会の場を彷彿とさせるような曲。こういう曲からハイヤ節がはじまったと思うと、なかなか興味深く感じられました。

Disc2は前述のとおり、70年代の録音ということで音はかなり悪い感じに。ただ、基本的なグルーヴ感はそんな中でも十分に感じられます。ここに久保田麻琴によるリミックスが加わり、より「レアグルーヴ感」が強まった感じに。このリミックスやダブバージョンももちろん魅力的なのですが、どちらかというとおまけ的な感じかな?

さて、日本人というと平坦な四つ打ちのサウンドを好んだり、無意味に音を詰め込んだような分厚いサウンドを好んだりと、リズム感が悪く、耳が貧乏と言われることがあります。ただ、この牛深ハイヤ節を聴くと、ある種の「ファンキー」さも感じるリズムや、音を削ったようなシンプルなサウンドが大きな特徴となっており、本来、日本人はリズム感がないわけではなく、また耳貧乏でもなかったのではないか、とすら感じました。お酒を飲みながら聴くと、軽くトリップできそうな心地よさのある音楽。日本にはまだまだ魅力的な音楽文化がたくさんありそうです。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

SAMURAI SESSIONS vol.3- Worlds Collide -/MIYAVI

最近では海外でも活躍するギタリストMIYAVI。本作は以前から彼がリリースしている、数多くのミュージシャンとのセッションを収録したアルバムの第3弾。海外でも活躍する彼らしく、本作はサブタイトルどおり、海外のミュージシャンも数多く参加したアルバムになっています。ファンキーでヘヴィーなギターサウンドがとにかくカッコよく、特に前半ではアグレッシブなギターサウンドがゲストと四つに組んだような楽曲が多く、理想的なセッションとなっているのですが、EDMが目立つようになる後半からは打ち込みのサウンドが前に出てしまいギターが後ろに下がってしまった感が。全体的な出来としてはいまひとつだったVol.2よりも圧倒的によくはなかったのですが、個人的にはEDM路線はあまりいらないような・・・。

評価:★★★★

MIYAVI 過去の作品
WHAT'S MY NAME?(雅-MIYAVI-)
SAMURAI SESSIONS vol.1(雅-MIYAVI-)
MIYAVI
THE OTHERS
FIRE BIRD
ALL TIME BEST "DAY2"
SAMURAI SESSION vol.2

Life is going on and on/MISIA

本作にも収録されている「アイノカタチ」がドラマ主題歌となり大ヒットを記録したMISIAの約3年ぶりとなるニューアルバム。その歌唱力は昨年の紅白でも大きな話題となりましたが、本作もそんな歌唱力を活かしつつ、ただ全体的には良くも悪くも安定感ある作品。特におととしジャズのアルバムをリリースしている彼女らしく、アルバムの要所要所にジャズの影響を感じさせる曲が並んでおり、そんなジャズ的要素を含めて「大人のアルバム」という印象を強く受ける作品となっていました。

評価:★★★★

MISIA 過去の作品
EIGHTH WORLD
JUST BALLADE
SOUL QUEST
MISIAの森-Forest Covers-
Super Best Records-15th Celebration-
NEW MORNING
MISIA 星空のライヴ SONG BOOK HISTORY OF HOSHIZORA LIVE
MISIA SOUL JAZZ SESSION

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