社会から疎外された人々を描く
Title:るつぼ
Musician:中村中
約3年ぶりとなる中村中のニューアルバムは、「意欲作」という表現がピッタリと来る作品になっています。まずジャケットからして、彼女の全裸に墨絵師の東學が蛾をペイントした、というかなり衝撃的な絵柄からまず大きなインパクトに。そして「現代の『おかしなこと』をテーマ」という今回の作品は、まさに彼女らしいといえる、現代社会の中で疎外感を感じる人たちの姿を描いた歌詞が大きなインパクトとなっていました。
例えば今回のアルバムで歌詞がまず印象に残るのが「箱庭」。オンラインゲームをテーマとしたこの作品は、よくありがちなゲームを否定的な文脈に使うのではなく、むしろ彼女自身、「現実が余りにも苦しいなら、ゲームの世界に居場所を求めても良い」とインタビューで述べているとおり、オンラインゲームの世界を肯定的に描いている点に彼女らしい独特の視点を感じます。
「きみがすきだよ」もおそらく人間関係の中で疎外された人にも微笑んでくれる異性に対する恋心を描写した歌詞で、そのあまりにも悲しい歌詞に胸が苦しくなってきます。「雨雲」も神様に救いを求める心の叫びがあまりにも痛々しい歌詞が大きなインパクトに。ほかの曲も彼女らしい、社会の中で疎外された人たちの言葉を描いた作品が並んでいます。こういうタイプの曲はいままでの彼女の曲の中でもよく見受けられたのですが、今回のアルバムはその傾向がより強くなっており、アルバムを聴いていて胸がとても痛くなってくるような作品になっていました。
ただもっともラストの「孤独を歩こう」はそんな「孤独」を肯定的に描く歌詞になっています。ある意味、「孤独」をそのまま肯定的に描いた歌詞も彼女らしさを感じるのですが、そんな楽曲をラストに配するあたり、このアルバムの「やさしさ」を強く感じさせる構成になっていました。
そして意欲的なのは決して歌詞の側面のみではありません。サウンド的にもかどしゅんたろう、えらめぐみなどの新進気鋭のミュージシャンが参加しており、ダイナミックなサウンドを取り入れた「羊の群れ」や、前述の「箱庭」はゲームのイメージさながらなエレクトロサウンドを取り入れたり、さらに「きみがすきだよ」ではトラップなどでよく聴かれるスネアのリズムが特徴的。歌詞にあった非常に切ない雰囲気のサウンドも大きなインパクトとなっています。
以前から常々、彼女はもっと売れるべきミュージシャンだ、と言っていたのですが、本作はまさにそんな思いをさらに強くする傑作アルバムに仕上がっていました。とにかく切ない歌詞が大きなインパクトですし、その世界観を上手く浮き上がらせるサウンドも実に見事。まさに彼女の思いの詰まったアルバムと言えるでしょう。是非とも聴いてほしい1枚です。
評価:★★★★★
中村中 過去の作品
私を抱いて下さい
あしたは晴れますように
少年少女
若気の至り
二番煎じ
聞こえる
世界のみかた
去年も、今年も、来年も、
ベター・ハーフ
ほかに聴いたアルバム
DEATH IN THE PYRAMID/The Mirraz
2017年は驚異的なペースでアルバムとミニアルバムをリリースし続けた彼ら。2018年になってそのペースも若干落ち着いたものの、8月にリリースされたアルバムから約4ヶ月で早くもリリースされた11枚目となるアルバム。
彼ららしいハイテンポで疾走感あるギターロックにこれでもかといほど言葉を詰め込んだ早口の歌詞が相変わらず。The Mirrazらしくて安心して聴けるアルバムといった感じが。ただ一方で少々マンネリ気味という印象は否めないのですが・・・。
評価:★★★★
The Mirraz 過去の作品
We are the fuck'n World
言いたいことはなくなった
選ばれてここに来たんじゃなく、選んでここに来たんだ
夏を好きになるための6の法則
OPPOTUNITY
しるぶぷれっ!!!
BEST!BEST!BEST!
そして、愛してるE.P.
ぼなぺてぃっ!!!
Mr.KingKong
バタフライエフェクトを語るくらいの善悪と頑なに選択を探すマエストロとMoon Song Baby
ヤグルマギク
RED JACKET
夏を好きになるための6つの法則 Part.2
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