ロックバンドらしいロックバンド
Title:Joy as an Act of Resistance
Musician:IDLES
本日紹介するアルバムも2018年各種メディアの「ベストアルバム」の後追いで聴いた作品。音楽ニュースサイトamassで主要メディアの年間ベストアルバムを集計していたのですが、その中で8位に輝いたアルバム。IDLES・・・というとアイドルの集団か?とも思ってしまうのですが、そうではなくてイギリスはブリストルで結成されたポストパンクバンド。「現代のセックスピストルズ」とも称され、デビュー当初から高い注目を集めているバンドです。
最近はすっかり音楽シーンの中心に位置するのはHIP HOP勢に占められてしまっています。ロックバンドも勢いあるバンドは少なくないものの、どちらかというとHIP HOPからの影響を含め、様々なジャンルからの音楽を取り入れたような、いわば「音楽的偏差値の高いバンド」が注目を集めているような印象を受けます。
彼らもパンクバンドと称しているとはいえ、頭に「ポスト」という一言がついているので、そんなHIP HOPを含めて様々な音楽性を取り込んでいるようなロックバンドかと思いきや・・・1曲目「Colossus」から、非常に重いバンドサウンドとノイジーなギター、そしてシャウト気味のボーカルという、ある意味、ロックらしいロックサウンドが展開されてきます。続く「Never Fight A Man With A Perm」も疾走感あるバンドサウンドにテンポよく展開されるギターリフが心地よいロックチューン。分厚くて重いバンドサウンドにシャウト気味のボーカルという、とてもロックバンドらしいロックナンバーが続いていきます。
「現代のセックスピストルズ」という言われ方をしているのですが、音楽的な方向性としてはパンクロックというよりもエモコア、ハードコアの指向が強いように感じます。どちらかというとBPMはゆっくり目の重いバンドサウンドの楽曲が続いていきます。ここ最近のロックバンドはインディー勢も含めて、どちらかというとスカスカなサウンドのバンドが多いだけに、このヘヴィーなサウンドはロック好きとしては素直に心地よさを感じてしまいます。
一方では「I'm Scum」や「Great」など、へヴィーなサウンドとシャウト気味なボーカルの中で少々気が付きにくい部分はあるのですが、メロディーラインが意外とポップで気持ちよさを感じるのも大きな特徴。分厚いサウンドやシャウトだけで楽曲を成り立たせているわけではなくて、その底辺にはしっかりとしたメロディーラインが確実に流れています。
ロックバンドとしてはここ最近目づらしいほどの「王道」的なものを感じるバンド。それだけにロックリスナーとしてはへヴィーなサウンドに気持ちよさを素直に感じるアルバムになっていました。もっとも、そんな「王道」的なサウンドではありつつも、不思議に思ったほど古さみたいなものは感じません。なによりも圧倒的な音量と、そしてポップなメロと時代を越えて不変的に魅力を感じる要素で迫ってきているからでしょうか?
また一方、彼らが高い評価を受けるもうひとつの要因はその歌詞。「Danny Nedelko」は移民の友人を描くことによりイギリスの移民問題をテーマとしていますし、「Samaritans」では男性らしさということを懐疑的に描いています。特にこの手のエモコア、ハードコアサウンドはともすればマッチョイムズと結びつきやすい分野ですし、実際、彼らの楽曲もサウンド的にある種の「男らしさ」を感じるだけに、その「男らしさ」というものを懐疑的に捉えている点には非常におもしろさを感じます。「現代のセックスピストルズ」という言われ方はサウンド面よりもむしろこういった歌詞を指しているのかもしれません。
そんな訳で、歌詞の世界観を含めて実にロックバンドらしいロックバンドと言えるかもしれない彼ら。ただそれにも関わらず、サウンドを含めて今の時代に違和感ない点に頼もしさを感じます。既に紹介しているように個人的には年間ベストクラスの傑作アルバムだと思っています。これからの彼らの活躍も楽しみです。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
Radio Luboyna/Luboyna
本作も2018年各種メディアの「ベストアルバム」の後追いで聴いた1枚。「Music Magazine」誌のワールドミュージック部門5位。Luboynaとはヴェラ・ミロシェフスカという女性ボーカルを擁するマケドニアのビックバンド。ホーンセッションを中心とした暖かみのあるサウンドに哀愁感たっぷりに歌い上げるヴェラのボーカルが非常に魅力的。要所要所に醸し出すエキゾチックな雰囲気もいい塩梅に入っており、全体的には比較的ポップで聴きやすいものの、異国情緒を感じる雰囲気に大きな魅力を感じた傑作でした。
評価:★★★★★
Un Autre Blanc/Salif Keita
世界的にもその名前を知られるアフリカはマリ出身のシンガーソングライター、サリフ・ケイタの新作。既に「大御所」とも呼ばれるような地位を築いている彼ですが、なんとこのアルバムを最後に引退を表明しているとか。偉大なミュージシャンなのでその事実は非常に残念。本作も「Music Magazine」誌ワールドミュージック部門で6位にランクイン。ただ、選者評でも引退の「ご祝儀も兼ねて」とコメントされていたように、ミディアムテンポでしんみり聴かせる楽曲がメインの内容は良くも悪くもいつも通りといった感じがあり、卒なくこなしているものの「傑作」というにはちょっと物足りない印象も。本当にこれで「最後」になるのかは不明なのですが・・・とりあえずはお疲れ様でした!
評価:★★★★
SALIF KEITA 過去の作品
LA DIFFERENCE
TALE
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