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2019年2月 9日 (土)

いきなり2作品連続でリリース

ここ最近、サニーデイ・サービスとして「DANCE TO YOU」「Popcorn Ballads」「the CITY」と立て続けに傑作アルバムをリリースし続ける曽我部恵一。さらに「the CITY」のリリースからわずか9ヶ月というスパンで、今度は曽我部恵一名義としてのアルバムをリリースしてきました。

Title:ヘブン
Musician:曽我部恵一

まず最初にリリースされたのが10曲入りとなるアルバムなのですが、これが全編ラップによるHIP HOPの作品となっているから驚きです。もともと「the CITY」などでもHIP HOP的な要素は入れており、彼のHIP HOPに対する興味は強くうかがわせたのですが、その結果、ここまでHIP HOPに振り切ったアルバムを1枚作ってくるというのは、かなり意外でした。

そんな彼のHIP HOPアルバムは、まさにHIP HOPの「外側」にいるミュージシャンが手探りの状態で作り上げた感のある作品。基本的にループするトラックで作り上げられたサウンドに、丁寧にライムしていくそのラップのスタイルは、まさに「HIP HOPはこんな感じでいいんでしょうか」と模索する曽我部恵一の姿が浮かんできます。サウンド的には決して「今風」という感じではありませんが、ただほほえましさすら感じました。

もっともサウンドはトライバルな雰囲気の「small town summer wind」からスタートし、不気味に鳴り響く鐘が印象的な「the light~夜明け前の明るさについて」、メロウなサウンドが心地よい「mixed night」など、しっかりと聴かせるナンバーが続いていきます。歌詞の世界観もサニーデイからの延長線上のような都会の男女をちょっとウェットで、でもクールな視点から描いた歌詞が印象的。一方でラストの「花の世紀」ではネット社会となり有名人が万人に監視されるようになった今の時代を皮肉めいて描いており、ちょっと不気味さも感じる歌詞も印象に残りました。

HIP HOPの「素人」らしい拙さも感じつつ、ただ一方でその「素人」感がひとつの味となっているアルバム。なによりも彼のその挑戦心あふれる心意気が強い印象を残した作品になっていました。HIP HOPは・・・という方でも曽我部恵一、サニーデイ・サービスが好きなら是非ともチェックしてほしいアルバムです。

評価:★★★★★

で、このアルバムリリースからわずか2週間。早くも次のアルバムをリリースしてきたから驚きです。

Title:There is no place like Tokyo today!
Musician:曽我部恵一

カーティス・メイフィールドの名盤「There's No Place Like America Today」へのオマージュともなるこのアルバムタイトル。ただし、アメリカへの批判を込めたカーティスの作品とは異なり、こちらは決して「東京」への批判とかではなく、東京の風景を彼なりの視点で描いた作品となっています。

全体的にはメロウでちょっと気だるさも感じる歌モノが並んだアルバム。しんみりメロウでダウナーなタイトルチューン「There is no place like Tokyo today!」はいきなり「スマホの画面」という今時の言葉からスタートし、夜の東京を漂っているような印象を受けるような作品に。続く「暴動」は軽快なエレクトロビートの作品。こちらも1曲目と同じく、「夜の東京」という印象を受ける、どこかダウナーな雰囲気の作品になっています。さらに続く「チャイ」はタイトル通り、エスニックな雰囲気が印象的なナンバー。こちらも多国籍の人が集う東京という街を描いた、と言えるかもしれません。

ただ一方本作の大きな特徴はHIP HOPの要素を多く取り込んでいる点。前のアルバムと同じタイトルとなる「ヘブン」ではアンビエントHIP HOPのような様相を持ったナンバーになっていますし、「bitter sweets for midnight life」もループするトラックがHIP HOP的な印象を強く受けます。

歌モノをベースとしながらHIP HOP的な要素を強く取り入れた本作は前作の「ヘブン」から引き続き、彼のHIP HOPへの興味を強く感じさせるアルバムになっていました。また、都会的とも言えるトラックに、都会の風景を気だるくウェットに描写した世界観は曽我部恵一作品に共通。もともと都会の描写が多かった彼ですが、本作ではそんな彼の世界観によりスポットがあてられた作品となりました。もちろん、こちらも傑作アルバム。あらためて彼の音楽への強い意欲を感じた作品でした。

評価:★★★★★

ちなみにこの2作品、どちらも「HIP HOPの要素が強い」という点で共通しています。じゃあ、なんで、ここ最近サニーデイ名義でのリリースが続いていたのに、曽我部恵一名義なんだろう・・・と考えると、まず昨年5月にメンバーの丸山晴茂が逝去した影響も大きいのでしょうね。残った2人のみで活動は続けているようですが、まだ「サニーデイ」として作品を作るインセンティブが薄いのかもしれません。

また、前作「the CITY」で挑戦的な音楽を取り入れた結果、賛否がわかれた、という点も大きいのかも。今、彼が興味を持っているHIP HOPという音楽はサニーデイ・サービスというバンドに求められている音楽から大きく異なってしまう点も、今回、あえてサニーデイではなく曽我部恵一名義とした大きな要素かもしれません。

そう考えると、今の彼の状況からすると、今後もしばらく「曽我部恵一」名義の作品が続くかも。もっとも、この2作が立て続けにリリースされたことから、今の彼には強い創作意欲がありそう・・・2019年も早くも次の曽我部恵一作品が聴けるかも?楽しみです。

曽我部恵一 過去の作品
キラキラ!(曽我部恵一BAND)
ハピネス!(曽我部恵一BAND)
ソカバンのみんなのロック!(曽我部恵一BAND)
Sings
けいちゃん
LIVE LOVE
トーキョー・コーリング(曽我部恵一BAND)
曽我部恵一 BEST 2001-2013
My Friend Keiichi


ほかに聴いたアルバム

Wayfarer/畠山美由紀

途中、カバーアルバムのリリースはあったもののオリジナルアルバムとしてはなんと約5年6ヶ月ぶりとなるニューアルバム。プロデューサーに冨田ラボを迎えた本作は、楽曲提供もいきものがかりの水野良樹にceroの髙城晶平、KIRINJI堀込高樹と豪華なメンバーがズラリと並んでいます。そんな楽曲のメロディーと彼女の歌声は暖かさを感じるポップソングが並んでいるのですが・・・ただ全体的にエレクトロなアレンジが多かった本作、このアレンジと彼女の歌声やメロディーがいまひとつミスマッチだったように感じます。若干オーバープロデュース気味でしたし、正直、彼女の歌声を生かすにはもうちょっとシンプルなアレンジの方がよかったのでは?冨田ラボとの相性の悪さを感じてしまった、少々惜しいアルバムになっていました。

評価:★★★★

畠山美由紀 過去の作品
わたしのうた(畠山美由紀withASA-CHANG&ブルーハッツ)
わが美しき故郷よ
rain falls

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アルバムレビュー(邦楽)2019年」カテゴリの記事

コメント

曽我部さんの2作はおっしゃる通りウエットな感じで聴いていて心地よいです。2018年の創作ペースは凄まじいですね。
丸山氏の追悼ライブmcにて2019年はサニーデイのライブは休止してサニーデイ新作レコーディングに専念します、というようなことを言っていたらしいです。音源発表はしばらくないかもしれません。(ソロは出るかもしれませんが)

投稿: kozy | 2019年2月 9日 (土) 23時38分

>kozyさん
>レコーディングに専念します。
そうらしいですね。ただ、それだけ新作には力が入っていることなんでしょう。おそらく来年あたりになるかもしれませんが、次の新作が非常に楽しみです!

投稿: ゆういち | 2019年3月 9日 (土) 23時25分

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