間口は広く、奥行は深く
Title:DANCE TO THE MUSIC
Musician:Shiggy Jr.
とにかくポップでキュートな楽曲が楽しいShiggy Jr.。今回のアルバムに収録された「ピュアなソルジャー」はフジテレビ系火9ドラマのオープニングテーマにも起用されています。また本作の「DANCE TO THE MUSIC」というタイトルもある意味非常にベタなのですが、そのタイトルの通り、軽快で楽しいダンサナブルなポップチューンが多く、このベタさも含めてShiggy Jr.らしさを感じるところではあります。
ただ今回のアルバム、特に前編に関してはいかにもJ-POPテイストな曲が続き、最初はちょっと物足りなさを覚えました。1曲目の「ピュアなソルジャー」は前述の通りタイアップ曲らしいメロのインパクトはある、わかりやすいポップチューン。続く「TUNE IN!!」も軽快なエレクトロダンスチューンなのですが、キャッチーさがいかにもJ-POP的ですし、「シャンパンになりきれない私を」もちょっと90年代のJ-POPを彷彿とさせる軽快なポップチューン。軽くストリングスが入るアレンジも、いかにもヒットチャート王道系といった感があります。
そういった90年代を彷彿とさせるJ-POPナンバーはキャッチーで聴きやすくインパクトはあるものの、ある意味昔から「よくあるタイプ」という印象を受けてしまい、若干平凡さも感じてしまいます。Shiggy Jr.のひとつの魅力である間口の広さは感じるものの、一方ではこれだけだとちょっと奥行が浅いかな、と前半では感じてしまいました。
ただその印象が一気に変わったのが後半戦。軽快でスペーシーなサウンドに心地よさを感じる「DANCE DANCE DANCE」に、「we are the future」は80年代風のディスコサウンドにファンクの要素が入ったダンサナブルなナンバー。J-POPよりも洋楽テイストも強く感じるエレクトロチューンに、前半で踏み入れたShiggy Jr.の世界は、思ったよりも奥行があることに気が付かされます。
さらに原田茂幸がボーカルをつとめた「you are my girl」はメロウに聴かせるソウルテイストのナンバーに仕上げていますし、「どうかしちゃってんだ」もエレクトロダンスチューンにファンクの要素も入ったアゲアゲで楽しいパーティーチューンに仕上げています。
バラードナンバーの「looking for you」を挟み、ラストの「誘惑のパーティー」はボーカル池田智子のかわいらしさを前面に押し出した序盤同様にキュートでキャッチーな曲で締めくくられていますが、この展開で聴かせると、ベタなJ-POPという印象はあまり受けず、Shiggy Jr.の魅力であるキュートさが聴いた後に印象として残る展開となっていました。
そんな訳で、前半、ポップでキャッチーな曲で思いっきり広く間口をあけつつ、後半に彼女たちのコアな部分を聴かせ、音楽性の広さと奥の深さを感じさせるアルバムになっていました。そういう意味では実によく出来た構成のアルバムになっていたと思いますし、またShiggy Jr.というバンドの魅力もしっかりと伝わってくる傑作に仕上がっていたと思います。
ただ一方でちょっと気になったのは、これだけキュートでキャッチーな曲を書いていながらなかなかブレイクできない点。もっとも今、フェスで人気を集められるようなロック系や一種のブーム的になっているHIP HOP系と異なり、タイアップ効果がなかなか利かなくなってしまった中で彼女たちのようなポップ系はなかなかブレイクが厳しくなっているんですよね。ただそんな中、正直彼女たちの曲は十分ヒットポテンシャルのあるインパクトは持っているものの、誰もの耳を一気に惹きつけるような、ほかを圧倒するようなインパクトがあるかと言われると微妙。おそらく一度聴いたら思わず口ずさんでしまうようなキラーフレーズがないと、彼女たちのようなポップバンドはなかなかブレイクできないんですよね。彼女たちにはがんばってほしいのですが・・・そろそろ「これは!」というようなキラーチューンが欲しいところです。
評価:★★★★★
Shiggy Jr. 過去の作品
ALL ABOUT POP
SHUFFLE!!E.P.
KICK UP!! E.P.
ほかに聴いたアルバム
正しい偽りからの起床/ずっと真夜中でいいのに。
昨年6月にYou Tubeにアップされた「秒針を噛む」のMVが大きな話題となったミュージシャンのデビューアルバム。ACAねという女性ボーカリストを中心としたユニットらしく、ボカロPとして著名なぬゆりや、アニメーターとして活躍しているWabokuも参加していることでも大きな話題になり、本作もデビュー作ながらベスト10ヒットとなりました。
参加しているメンバーの名前といいミュージシャン名といい、いかにも「今時」な感じ。楽曲的には「自意識高い系女子」といった感じでしょうか。ハイトーンボーカルに疾走感あるギターにシンセを加えた宅録的なサウンドも正直言うと、どこかで聴いたような印象。YUIとか家入レオとかそのあたりを彷彿とさせられる部分も。悪くはないけど目新しさも薄い感じ。良くも悪くも売り出し方を含め、今時のネット志向が強い印象を受けるユニットでした。
評価:★★★
¿WHO?/木村カエラ
木村カエラ約2年ぶりの新譜は5曲入りのミニアルバム。今年、デビュー15周年を迎える彼女ですが、今年リリース予定のフルアルバムを前に、タイアップなどですでに発表されている曲をまとめたそうで、5曲中4曲はタイアップ。あと1曲はミュージカル「アニー」の主題歌「Tomorrow」のカバーとなっています。基本的にどの曲も木村カエラらしい明るいポップソングが多く、目新しさはありませんが、彼女らしさを感じられる楽しい5曲となっています。2年ぶりの新作が5曲入りのミニアルバムというのはちょっと物足りない感もあるのですが、今年リリースされるであろうフルアルバムが楽しみになってくるアルバムでした。
評価:★★★★
木村カエラ 過去の作品
+1
HOCUS POCUS
5years
8EIGHT8
Sync
ROCK
10years
MIETA
PUNKY
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