リミックスもおもしろい20周年記念盤
Title:This Is My Truth Tell Me Yours - 20 Year Collectors' Edition
Musician:MANIC STREET PREACHERS
1998年にリリースされたマニックス3枚目のアルバム「This Is My Truth Tell Me Yours」。彼らにとって5枚目となるアルバムは初の全英1位を獲得。イギリス国内だけで90万枚を売り上げ、最終的には世界で500万枚を売り上げる大ヒットを記録し、名実ともに彼らの出世作となったアルバムです。そのアルバムのリリースから20年。このたびコレクターズエディションとして3枚組の大ボリュームの内容でリリースされました。
個人的にはこのアルバム、リアルタイムで聴いたアルバムで、私がはじめて聴いたマニックスのアルバム。それだけに思い入れもあり、かつあれからもう20年も経つのかぁ、と感慨深く思ったりもしました。そんな訳で今や「名盤」という誉れの高い本作を久しぶりに聴いてみることにしました。
まず肝心の本編の方ですが、今から聴くといい意味でバンドとして大物然とした姿を感じられる作風になっています。全編にストリングスを取り入れてミディアムテンポの楽曲が多い構成は、疾走感には欠ける反面、スケール感を覚えます。ただこの手のアレンジは往々として大味になってしまうところが多いのですが、本作に関してはしっかりとロックバンドとしてのダイナミズムも同居させており、決してスタジアムバンドにありがちなスケール感だけの平々凡々な大味アレンジとは異なった様相を見せています。
そして全編に流れる哀愁感あふれるメロディーラインが、特に日本人の琴線にも触れそうな感も。こちらも単なるベタなメロディーという感じではなく、しっかりと曲によって微妙に味付けの異なる絶妙なポピュラリティーを保っており、バンドとしての勢いを感じます。スケール感あるサウンドに哀愁感あるメロディーと、一歩間違えれば平凡なアルバムになりそうなところを、逆にスケール感も哀愁感もしっかりと楽曲として生かした聴かせる傑作に仕上げている点、当時の彼らの勢いを感じさせます。
さて今回のコレクターズエディションは3枚組となっており、1枚目は言わずもがな本編がそのまま収録されているのですが、2枚目はデモ音源集に。こちらはライブリハーサルやデモ音源などが収録されており、ほぼ完成形に近い音源から「I'm Not Working」などは自宅でのおそらく最初の録音ではないかと思う、かなり粗いデモ音源に。こちらは完成形の雰囲気を保ちつつ、よりエキゾチックな色合いが強かった点に興味深さを感じます。また、「S.Y.M.M.」もデモ音源ではシューゲイザーか?と思うほどノイジーなギターサウンドが前に押し出されており、ここらへん最終形では他の曲とのバランスをとったアレンジになったのかな、と想像を働かせることが出来ます。
このデモ音源集もなかなか魅力的なのですが、さらに魅力的なのはDisc3。前半はリミックスとなっており、MASSIVE ATTACKやStereolab、David Holmesにさらにはコーネリアスという面々のリミックスが収録されています。MASSIVE ATTACKリミックスによる「If You Tolerate This Your Children Will Be Next」もエレクトロサウンドでダイナミックなアレンジが彼ららしくて楽しいのですし、コーネリアスリミックスによる「Tsunami」もエレクトロとアコースティックを組み合わせた、ここ最近のコーネリアス色が強く出たアレンジが耳を惹きます。原曲のメロディーがしっかりしているだけにリミックスでも各々のミュージシャンが各々の色をしっかりと出せた、よくできたリミックスに仕上がっています。
さらに後半はB面曲を収録しているのですが、おそらく本編の色とはちょっと合わないためアルバム未収録となった点もあったのでしょう、スケール感あるポップな側面の強い本編と比べると、よりロッキンでパンキッシュな楽曲が並んでおり、これはこれでロック好きにはたまらない名曲揃い。マニックスのロックな側面が強く出ている楽曲ばかりとなっています。
そんな訳でフルボリュームの3枚組だったのですが、本編の出来の良さもあり、またデモ音源やリミックス、B面曲が秀逸だったこともあってあっという間に聴くことが出来たアルバムになっていました。しかしそれから20年。マニックスもすっかりイギリスを代表する大物となりましたが、直近のアルバム「Resistance Is Futile」も文句なしの傑作アルバムでしたし、本当にすごいバンドになりましたね。そんな彼らの代表的な名盤のひとつとして、これを機に、チェックしておきたいアルバムです。リアルタイムで聴いた方はもちろん、まだ聴いたことない方も是非一度。
評価:★★★★★
MANIC STREET PREACHERS 過去の作品
Journal For Plague Lovers
POSTCARDS FROM A YOUNG MAN
NATIONAL TREASURES-THE COMPLETE SINGLES
Rewind The Film
FUTUROLOGY
Resistance Is Futile
ほかに聴いたアルバム
WARM/Jeff Tweedy
アメリカのオルタナティブロックバンド、WILCOのフロントマンによるソロアルバム。WILCOの直近作「Schmilco」はアコースティックテイストの作風となっていましたが、本作もアコースティックなサウンドが主軸になったアルバム。フォークやブルースなどの要素を取り込んだいなたい雰囲気の楽曲で静かに聴かせるのですが、メロディーラインはポップに聴かせるものが多く、メロディーメイカーとしての実力も感じさせます。決して派手さはないアルバムなのですが、シンプルなサウンドにメロディーの良さもあり、しっかりと聴かせてくれる作品になっていました。
評価:★★★★★
| 固定リンク
「アルバムレビュー(洋楽)2019年」カテゴリの記事
- 圧巻のステージ(2019.12.29)
- 前作と同じレコーディングで生まれた作品(2019.12.24)
- ゴスペル色が強い新作(2019.12.23)
- バラエティー富んだエレクトロサウンド(2019.12.22)
- 待望の続編!(2019.12.20)
コメント