勢いは今も止まらず
Title:20 years
Musician:the band apart
2018年に結成20周年を迎えたthe band apart。本作は、そんな彼らのキャリアを振り返った初となるベストアルバムとなります。2枚組となる本作は、Disc1で1stアルバム「K.AND HIS BIKE」から5thアルバム「Scent of August」を再録して収録。Disc2はそれ以降の楽曲が収録されているほか、BKTS TOUR 2018の会場限定CDにのみ収録された「茶番」と、ベスト盤にあわせて録音された新曲「君が大人になっても」が収録されています。
昨年末の紅白にはワールドカップのNHKでのテーマ曲を歌って話題となったSuchmosが初出場して話題となりました。彼らに限らず、例えばNulbarichなどロックにジャズやブラックミュージックなどの要素を取り入れたバンドが大きな人気となっています。そしてそれらのミュージシャンが人気となる流れのいわば原点に位置するのが彼ら、the band apartではないでしょうか。2005年にリリースされた「quake and brook」がオリコン最高位5位を記録し、一躍ブレイクを果たした彼ら。ただそれに先立つデビューアルバム「K.AND HIS BIKE」も大きな話題となったのですが、ロックの中にジャズやブラックミュージックの要素をほどよく取り込んだ独自の音楽性に、当時はかなりの衝撃を受けたのを今でも覚えています。
今回のベストアルバムではそんな彼らの初期の作品ももちろん収録されているのですが、今聴いてもやはり独特なリズムとサウンドにカッコよさを感じる楽曲ばかり。特に今聴いて強く感じるのですが、彼らのジャズやブラックミュージック的な部分から、ちょっと聴いた感じではいわば楽曲の「温度の低さ」を感じるのですが、一方ではしっかりと鳴っているバンドサウンドにはロックバンドとしてのダイナミズムさや熱量の高さも同時に感じ、この楽曲の熱さと涼しさのちょうどよいバランスが彼らの大きな魅力に感じました。
また今回、Disc1とDisc2の収録曲の大きな違いとしてあげられるのが歌詞。Disc1の頃は彼らの楽曲の歌詞は英語オンリーでしたが、Disc2以降では日本語での歌詞が登場します。彼らのリズミカルでファンキーなサウンドにおそらく当初は日本語の歌詞を載せるのが難しいと感じていたのでしょうが、今回のベストアルバムで英語詞の曲と日本語詞の曲を続けて聴いても、日本語詞の曲に全く違和感を覚えません。今回、リズムに上手くのせられる歌詞の言葉選びの巧みさをあらためて感じました。
さらに彼らは「人気」という側面から考えると2005年にリリースされた「quake and brook」から2008年にリリースされた「Adze of penguin」まではオリコンでベスト10入りを記録しているのですが、残念ながらそれ以降の楽曲についてはベスト10から遠ざかってしまっています(もっとも10位代前半を記録しており、一定以上の人気は確保しているのですが)。しかし今回、初期の作品から最近の作品まで通して聴いてみても、最近の作品でも全くクオリティーが落ちていないことにあらためて気が付かされました。一時期に比べて人気の面ではちょっと落ち着いたものの、これだけのレベルの作品を作り続けているのですから、今後人気が再燃する可能性は十分にありそうです。
ちなみに今回のアルバムにはじめて収録された「茶番」は軽快なリズムが耳を惹くリズミカルなナンバー。また「君が大人になっても」は歌詞にもメロにも感じられる切なさが魅力的なナンバーに。どちらも選りすぐられた彼らの代表曲の中に収録されていても遜色ない名曲になっており、彼らの衰えない創作意欲を感じさせます。
このようにthe band apartというバンドの魅力を再認識し、かつ、今なお彼らの勢いが衰えていないことを再確認できたベスト盤。このベスト盤を機に新たな一歩を踏み出す彼らですが、まだまだ数多くの名作を世に生み出してきそう。これからの活躍も楽しみです。
評価:★★★★★
the band apart 過去の作品
Adze of penguin
shit
the Surface ep
SCENT OF AUGUST
街の14景
謎のオープンワールド
1(the band apart(naked))
Memories to Go
前へ(□□□ feat.the band apart)
2(the band apart(naked))
Title:tribute to the band apart
そしてそんな彼らの20周年に合わせる形でリリースされたのが、the band apartに影響を受けたミュージシャンたちが彼らの曲をカバーしたトリビュートアルバム。若手バンドからベテラン勢まで数多くのミュージシャンが参加し、the band apartがシーンに与えた影響の大きなをあらためて感じます。
序盤の若手勢に関しては原曲をなぞるようなカバーを披露しており、無難さを感じるカバーになっているのですが、さすがの実力を感じさせるのが中盤以降のベテラン勢。特に強い印象を受けたのは軽快でリズミカルなカバーに仕上げたLOW IQの「beautiful vanity」に、原曲の持つリズム感そのままに、よりロックにカバーしたストレイテナーの「Can't remember」。さらにゲスの極み乙女。は「I love you Wasted Junks&Greens」をギターサウンドにより複雑な構成を加えて彼ららしいプログレッシブなカバーに。川谷絵音の声もあり、完全にゲスの曲として生まれ変わっています。
そして坂本真綾の「明日を知らない」ではアコースティックなカバーに仕上げており、原曲のメロディーの良さを再認識させるような美しい歌声を聴かせてくれています。その他もどの曲もthe band apartへの愛情を感じさせるようなカバーばかり。原曲の良さを生かしつつも、それぞれのミュージシャンの味付けもしっかりとほどこされており、原曲からちょうどよい距離を感じるカバーがメインの理想的なトリビュートアルバムになっていたと思います。
そんな訳であらためてthe band apartが多くのミュージシャンからリスペクトを受ける存在であることが認識されたトリビュートアルバム。参加ミュージシャンの中には若手バンドも少なくなく、これからもthe band apartの音楽は多くのミュージシャンたちに影響を与えていきそうです。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
LOOKING FOR THE MAGIC/GLIM SPANKY
もともと60年代や70年代ロックをストレートに楽曲に反映させていたGLIM SPANKY。前作「BIZARRE CARNIVAL」はよりルーツ志向にシフトした印象を受けたアルバムでしたが、今回はどちらかというともうちょっと時代を下って、レッド・ツェッペリンやCreamあたりのハードロック、あるいはサイケロックあたりの影響を強く感じさせる作風に。前作で彼女たちの完成形に近づいた印象を受けたのですが、また違う一歩に踏み出したような印象も。ただ、ジャニス直系の松尾レミのボーカルは意外とこの方向性にマッチしているようにも感じられ、今後の彼女たちの行く先が気になるところです。
評価:★★★★
GLIM SPANKY 過去の作品
ワイルド・サイドを行け
Next One
I STAND ALONE
BIZARRE CARNIVAL
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