ポップスバンドとしてさらなる成長を遂げた傑作
Title:A Brief Inquiry Into Online Relationships
(邦題 ネット上の人間関係についての簡単な調査)
Musician:The 1975
イギリスのギターロックバンドThe 1975の3枚目のニューアルバム。アルバム毎に高い評価を受けている彼ら。前作「I like it when you sleep, for you are so beautiful yet so unaware of it」はついにアメリカビルボードチャートでも1位を獲得するなど、世界的に高い注目を集めています。そして3枚目となる本作は前作に引き続き長いアルバムタイトルになり、最近の邦楽としては珍しく邦題がつきました。そういう意味で前作の延長線上のようなアルバムなのですが、高い評価を得た前作以上の傑作アルバムに仕上がっていました。
ロックよりもポップス寄りにシフトした前作同様、本作もポップス寄りにシフト。またどこか感じる80年代的な雰囲気も前作と同様といった感じでしょうか。エレクトロなポップチューンも目立ち、最初聴いた時はちょっと軽すぎるかな、といった印象も受けてしまいました。
実際アルバムは、バンド名を冠したインスト曲から軽快なエレクトロポップの「Give Yourself A Try」「TOOTIMETOOTIMETOOTIME」へと続いていきます。ちょっと幻想的な雰囲気の「How To Draw/Petrichor」に続く「Love It If We Made It」もエレクトロアレンジのポップチューンなのですが、アレンジ、メロディー共に80年代のAORを感じさせるようなポップナンバーになっており、どこか懐かしさすら覚えるポップチューンに仕上がっています。
特にこの中盤以降のバリエーションある展開がこのアルバムの一番の魅力。続く「Be My Mistake」はアコギで聴かせるフォーキーなナンバーになっていたかと思えば、「Sincerity Is Scary」はピアノとホーンの音色も印象的なジャジーなナンバーに。ピアノとストリングスにギターの音色も入り、美しく歌い上げる「Inside Your Mind」を聴かせたかと思えば、「It's Not Living(If It's Not With You)」は再び80年代のような軽快な空気感のつまったエレクトロポップへと続き、リスナーを飽きさせません。
終盤もアコギで聴かせる「Surrounded By Heads And Bodies」から、ピアノでムードたっぷりに聴かせるジャジーな「Mine」、そして80年代のAORそのままな「I Couldn't Be More In Love」へと続き、最後は美しいメロディーラインとファルセットボイスでしんみり聴かせる、ミディアムチューンの「I Always Wanna Die(Sometimes)」でアルバムを締めくくります。
そんなバリエーションあるポップナンバーが続いているのですが、どの曲も美しくインパクトあるポップなメロディーラインが流れているため、アルバム全体として統一感がありますし、洋楽リスナーに限らず、幅広い音楽ファンを楽しませる訴求力を感じました。前作に続いて最近の洋楽としては珍しい邦題がついているのですが、それはそれだけ洋楽リスナー層に留まらないリスナー層へアピールできると考えているからではないでしょうか。確かにレコード会社側がそう感じるのも納得のポピュラリティーあるアルバムに仕上がっています。
そして単なるポップなアルバムではなく、その向こうにはジャズやAORからの影響を強く感じる幅広い音楽性が大きな魅力に。ファンキーなリズムが特徴的だった前作に比べると、わかりやすくファンクな楽曲は今回はあまりなかったのですが、前作同様にブラックミュージックからの影響は顕著に感じられる作風に仕上がっていました。
前作も傑作アルバムだったのですが、本作は間違いなく前作の水準を軽々と超えてしまった年間ベストクラスの傑作アルバムだったと思います。その人気のほども含めて、間違いなくミュージックシーンを代表するバンドへの成長しつつある彼ら。その実力と勢いをしっかりと感じることが出来るアルバムでした。ちなみに本作に続き今年5月にも早くも新作のリリースが予定されており、本作と並んで2部作となる予定だとか。これは5月のアルバムにもかなり期待が持てそうです。
評価:★★★★★
The 1975 過去の作品
The 1975
I like it when you sleep, for you are so beautiful yet so unaware of it(君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。)
ほかに聴いたアルバム
Merrie Land/The Good, The Bad&The Queen
突然、といった感じで少々ビックリしていまいました。ご存知blurのデーモン・アルバーンを中心に、The Clashのポール・シムノン、the verveのサイモン・トング、さらにトニー・アレンがバンドを組み、2007年にアルバム「The Good,The Bad&The Queen」をリリースした彼ら。なんと11年ぶりに活動を再開しニューアルバムをリリースしてきました。
アルバムはメロディーラインを前面に押し出しつつ、どこか幻想的でファンタジックな雰囲気が印象的。サイケな音を入れたり、東洋的な音を入れたり、不気味な雰囲気を醸し出したりと、かなり自由度の高い音を入れ込んでいます。結果として、アルバム全体として少々つかみどころのない感じも否めない印象も。良くも悪くも自由度の高い、デーモンがやりたいことをやった、という印象の強いアルバムに仕上がっていました。
評価:★★★★
Brainfeeder X
フライングロータス主催のレーベル「Brainfeeder」。設立10周年を記念してリリースされたコンピレーションアルバム。
Flying Lotusはもちろん、Thundercatなどの楽曲も収録。全体的にはジャズやエレクトロなどを取り入れた実験的な作風の楽曲が多く、今のシーンの先端を行くサウンドを知ることが出来るうってつけのコンピ盤でした。
評価:★★★★★
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