アルバムレビュー(洋楽)2018年

2018年12月29日 (土)

恒例のブルースカレンダー

Title:2019-Classic Blues Artwork from the 1920s Calendar

Bluescalendar2019_2

すっかり恒例となったブルースカレンダー。今年も無事、2019年版を入手しました。毎年、アメリカのブルース・イメージ社という会社がリリースしているカレンダーで、LP盤2枚分のサイズのカレンダーの上半分に昔のブルースの広告がそのまま載っているという、なかなか洒落た雰囲気のカレンダー。毎年、我が家のインテリアの一部として活用させていただいております。

そしてこのカレンダーの大きな魅力となっているのが、カレンダーについてくる付録のCD。まあ、むしろカレンダー自体よりもこちらのCDが最大の目当てという点も否定できないのですが、戦前のブルースの楽曲が収録されているCDは、有名どころの曲から知る人ぞ知る的なミュージシャンの曲まで盛りだくさん。そして毎年必ず、貴重な音源が収録されているという点が最大の魅力となっています。

今年の目玉となっているのがPapa George Lightfootの音源2曲。一部では熱狂的な支持を得ているミュージシャンらしいのですが、今回は基本的に「戦前ブルース」のコンピである本作がそのルールをあえて破り、1950年録音の「Winding Bell Mama」「Snake Hipping Daddy」の2曲を収録。この2曲、いままで彼のディスコグラフィーには記載はあったのですが、音源がリリースされることのなかった幻の曲だったそうで、今回、非常に貴重な初解禁となっています。

さらに謎のブルースマンWilliam Harrisの「I'm A Roamin' Gambler」「I Was Born In The Country-Raised In Town」も最近見つかった音源だそうで、これまた非常に貴重な音源となっています。

さて今回も基本的に戦前のブルースを収録したコンピなのですが、戦前ブルースの奥深さを感じさせるバリエーションに富んだ収録内容になっています。Blind Blake「Too Tight Blues No.2」は飛び跳ねるような軽快なリズムにスタイリッシュなボーカルが乗ったおしゃれな雰囲気の曲調になっていますし、上でも紹介したPapa George Lightfootの曲でもう1曲収録されている「Ash Tray Blues」は軽快で楽しげな曲調が耳を惹きます。Sam Butlerの「Christians Fight On,Your Time Ain't Long」「Heaven Is My View」はいずれもスカスカのギターなのですが、独特なギターの音色が妙に耳に残りますし、Lottie Kimbrough「Don't Speak To Me」も彼女の力強く伸びやかなボーカルが印象的な曲に仕上がっています。

これは毎回恒例ですが、戦前ブルースの常として録音の状況は非常に悪く、そういう意味では万人向けといった感じではないのは残念。ただ今回も魅力的なカレンダーのアートワークを含めて、ブルース好きならたまらない作品に仕上がっています。今年もまた、このカレンダーが1年通じて私の部屋の壁を飾ることになりそうです。

評価:★★★★

2013-Classic Blues Artwork from the 1920s Calendar
2014-Classic Blues Artwork from the 1920s Calendar
2015-Classic Blues Artwork from the 1920s Calendar
2016-Classic Blues Artwork from the 1920s Calendar
2017-Classic Blues Artwork from the 1920s Calendar
2018-Classic Blues Artwork from the 1920s Calendar


ほかに聴いたアルバム

El Mal Querer/Rosalia

本作が高い評価を得ている主にスペインで活躍しているフラメンコの女性シンガーRosaliaのニューアルバム。ラテンフレーバーな哀愁感あるフラメンコのメロディーにのせつつ、エレクトロサウンドを取り入れたアレンジに彼女のハイトーンボイスが加わり、幻想感ある独特なサウンドが作り上げられています。ビョークmeetsフラメンコといった感もあるそのサウンドはスペインの伝統音楽を取り入れつつも、ポップテイストも強い、挑戦的な今の音を作り上げています。独特な雰囲気がユニークな傑作アルバムでした。

評価:★★★★★

First Collection 2006-2009/FLEET FOXES

デビューアルバム「FLEET FOXES」のリリース10周年を記念してリリースされた初期音源をまとめた企画盤。全4枚組となっており、1枚目はそのデビューアルバム「FLEET FOXES」、2枚目は2008年にリリースしたEP「Sun Giant」、3枚目には2006年リリースの自主作成盤のデモ音源「Fleet Foxes」、そして4枚目はB面曲やデモ音源などを収録したレア音源集となっています。

ただ、「FLEET FOXES」と「Sun Giant」は既に聴いたことある音源だったため、感想は下のリンク先を参照のこと。3枚目の「Fleet Foxes」はデモ音源らしく、他と比べると完成度は低い感じ。バンド色が強く、彼らが当初はバンド志向だったのが、徐々にアコースティック、フォーキーな路線にシフトしたことが感じ取れます。Disc4は1枚目、2枚目と同様フォーキーで美しいサウンドを聴かせる内容。B面集といってもクオリティー自体にはまったく遜色ありません。4枚組ということでボリュームありそうな内容ですが、トータルでも1時間40分程度の内容ですので、最近、FLEET FOXESを知った方は要チェックのアルバム。また、Disc3、4だけ目当てでも十分お勧めできる内容になっています。

評価:★★★★★

FLEET FOXES 過去の作品
Fleet Foxes+Sun Giant EP
HELPLESSNESS BLUES
Crack-Up

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2018年12月28日 (金)

大物然としたステージセットだけども

Title:Voodoo Lounge Uncut
Musician:The Rolling Stones

今回紹介するのはThe Rolling Stonesのライブ映像作品+ライブ盤。1994年7月にリリースされたアルバム「Voodoo Lounge」に伴い行われたツアー「Voodoo Lounge World Tour」から1994年11月25日、アメリカ・フロリダ州マイアミのジョー・ロビー・スタジアムで行われたライブ映像を、タイトル通りMCなどを含めてフル収録した映像作品。DVD/Blu-rayに、全く同じ音源をCDに収録した2枚組のライブアルバムが付属する内容になっています。

このライブでは数多くの彼らの代表曲、あるいは当時の最新アルバム「Voodoo Lounge」からの曲も数多く披露されたのですが、その一方で比較的「知る人ぞ知る」的な曲もセットリストに織り込んだ内容になっており、1曲目にいきなり1964年のシングル曲「Not Fade Away」からスタートするという意外な展開に。ほかにもバラード曲の「Beast of Burden」や初のライブ披露となった「Monkey Man」など、ライブでは珍しい曲を含んだセットリストとなっています。

さてそんな彼らのステージは、当時デビュー30周年を迎えて押しも押されぬ大スターとなっていた彼ららしい、スタジアムライブらしい大型のセットが目立つ、いかにも大物感満載のステージになっています。

また、このステージでは数多くのゲストを迎えているのも特徴的で、オープニングではいきなりウーピー・ゴールドバーグによるオープニングのアナウンスからスタートという豪華なステージ。その後もシェリル・クロウを迎えて「Live With Me」を披露。ただ、その後に登場するのがロバート・クレイと、ボ・ディドリーというのがいかにもストーンズらしい感じ。特にボ・ディドリーは今となっては貴重な映像に。おなじみボ・ディドリー・ビートで軽快に「Who Do You Love?」を披露しているのですが、ストーンズに全く負けずとも劣らない貫録を醸し出しており、その実力のほどは今回の映像を通じてもしっかりと伝わってきます。

ただ、そんな大物然とした舞台設定である一方、ライブパフォーマンス自体のストーンズらしさはいつも通りといった感じ。演奏自体はもちろんシンプルなロックンロールをしっかりと奏でていますし、今となっては20年も前の映像となってしまいましたが、当時はおそらく50歳を超えた彼らが、いまだにロックンロールを変わらず奏で続けている姿にある種の驚きを感じた方も多かったのではないでしょうか。ステージパフォーマンスは躍動感があふれる一方、ベテランらしい安定感も同時に感じられたパフォーマンスになっていました。

ただ、オーバーフィフティーという年齢を全く感じさせないパフォーマンスも要所要所で感じられ、特に「Brown Sugar」ではミック・ジャガーがステージ狭しと走りまくっており、歳をとっても変わらない「若さ」を感じさせるステージに。言うまでもないことですが、ライブ全般を通じて、ミックは実にいろっぽい、見る者を惹きつけるパフォーマンスを繰り広げており、ストーンズのライブの魅力が映像を通じてしっかりと伝わってきました。

言うまでもないかもしれませんが、ファンならばとりあえずは見ておきたいライブ映像。ノーカット版ということでライブの魅力がより伝わってくる傑作になっていました。

評価:★★★★★

The Rolling Stones 過去の作品
Shine a Light: Original Soundtrack
Some Girls LIVE IN TEXAS '78
CHECKERBOAD LOUNGE LIVE CHICAGO 1981(邦題 ライヴ・アット・ザ・チェッカーボード・ラウンジ・シカゴ1981)
(MUDDY WATERS&THE ROLLING STONES
GRRR!
HYDE PARK LIVE
Sweet Summer Sun-Hyde Park Live
Sticky Fingers Live
Blue&Lonesome
Ladies & Gentlemen
ON AIR


ほかに聴いたアルバム

SIMULATION THEORY/MUSE

どこかの映画を彷彿とさせるようなジャケットもインパクトの強いMUSEの最新作。なぜか登場する「三难困境」という漢字も日本人にとっては目を惹きます。そんな彼らの新作はいつも以上にこってり風味。彼ららしい、これでもかというようなダイナミックなバンドサウンドの曲が並んでおり、実に「MUSE」らしいアルバムになっています。MUSEが好きな人はかなりはまりそうなアルバム。個人的にはこってりすぎて一度聴いただけでお腹いっぱいになってしまうのですが・・・。

評価:★★★★

MUSE 過去の作品
The Resistance
The 2nd Law(邦題 ザ・セカンド・ロウ~熱力学第二法則)
Live at the Rome Olympic Stadium
Drones

Origins/Imagine Dragons

アメリカで人気のロックバンドの新作。彼らのアルバムを聴くのはこれが2作目なのですが、基本的な印象としては前作と変わらず。全体的に打ち込みを取り入れたダイナミックなサウンドなのですが、同時にいなたさも強く感じられるのがアメリカのロックバンドならではといった感じ。サウンド的にはちょっと大味な印象が否めず、最後の方は聴いていて飽きが来てしまいました。

評価:★★★

Imagine Dragons 過去の作品
Night Visions

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2018年12月25日 (火)

オリジナルメンバー3人が顔をそろえる

Title:SHINY AND OH SO BRIGHT,VOL.1/LP:NO PAST.NO FUTURE.NO SUN.
Musician:The Smashing Pumpkins

スマパン約4年ぶりとなるニューアルバム。2005年の活動再開後は散発的な活動が続き、アルバムをリリースする毎にメンバーが異なるという不安定な状況が続いていました。正直なところ、一度解散したバンドが活動を再開した場合にこのような状況はよく起こりがち。やはり解散したバンドというのは解散するだけの理由があるだけに、その後活動を再開してもなかなか上手くいかない、というケースが少なくないのでしょう。

そんなスマパンですが、今回のアルバムのメンバーはちょっと違います。2009年に脱退したジミー・チェンバレンが再びバンドに復帰。さらにジェームス・イハも今回、バンドに復帰。残念ながらダーシー・レッキーはバンドに復帰しなかったものの、オリジナルメンバー3人が顔をそろえることになり、ファンにとってはかなりうれしいスマパンの形に戻ってきています。

そんなこともあってか最新作は、復帰後のアルバムの中ではもっともスマパンの魅力が形になっているアルバムと言えるのではないでしょうか。「Silevery Sometimes(Ghosts)」はストリングスも加わった分厚いバンドサウンドに、ちょっと切なさも感じるメロディアスなフレーズが魅力的なギターロックナンバーに仕上がっていますし、「Travels」もノイジーなギターサウンドがいい意味でいかにも「らしい」アルバムに仕上がっています。さらに「Solara」もヘヴィーでダイナミックなバンドサウンドがいかにもロック然として気持ちよいナンバーに仕上がっています。

さらに今回のアルバムで特に魅力的だったのが後半。「Marchin' On」は疾走感あるリズムにへヴィーなギターサウンドが気持ちよいロックナンバー。ダイナミックなドラミングにほどよいストリングスも入り、スマパンらしいダイナミズムを感じさせる楽曲に仕上がっていました。さらにそんな楽曲から一転、続く「With Sympathy」はメランコリックさを感じるメロディアスなポップチューンになっており、この「動」から「静」への楽曲の対比が実にユニーク。スマパンの魅力をよくあらわしている展開のように感じました。

全8曲31分というミニアルバム的な長さがちょっと物足りなさを感じた部分もあったものの、復帰後のスマパンのアルバムの中ではもっともアルバムとしてまとまりがあり、良くできた作品だったように思います。オリジナルメンバーのうち3人が復帰し、昔からの気心の知れたメンバーによりバンド活動が行えたという点が一番大きな要素でしょうか。やはり今回のアルバムの出来が良かったのも、このメンバーが集まったから、だと思います。聴いていてとても心地よさを感じたアルバム。次のアルバムも是非、このメンバーで。できればダーシー・レッキーも復帰してほしいところですが・・・それは難しいのかなぁ。

評価:★★★★★

The Smashing Pumpkins 過去の作品
Teargarden by Kaleidyscope
OCEANIA
(邦題 オセアニア~海洋の彼方)
Monuments to an Elegy


ほかに聴いたアルバム

Out of the Blue/Willie Hightower

御年77歳。特に日本のディープ・ソウルファンに人気の高いアメリカのシンガー、Willie Hightowerのニューアルバム。基本的にはホーンセッションなどを取り入れつつ、ミディアムテンポで力強く歌い上げる、ある意味、「王道」とも言えるようなソウルミュージック。ある意味、時代の流れなど関係なく、とことん昔ながらのスタイルにこだわったようなスタイルとも言える感じ。そういう意味での「目新しさ」はないかもしれませんが、ソウル好きにはたまらないグルーヴ感、空気感を感じさせてくれる1枚でした。

評価:★★★★

NO TOURISTS/THE PRODIGY

THE PRODIGYの最新作は、一言で言えば、「これぞTHE PRODIGY!」といった印象のアルバム。ビックビートという懐かしい言葉を彷彿とさせるような、これでもかといった強いビートとトランシーな音感のサウンドを次々と繰り広げるダイナミックなサウンドが特徴的。とにかく押し一辺倒で37分を乗り切っているとも言える感じのアルバム。もちろん、これはこれで非常に気持ちいいアルバムだったのは間違いないのですが、一方で言えば目新しさはゼロ。パワー不足を感じた前作と比べると、パワーの面では戻って来た印象もあるのですが、さすがにマンネリ気味といった印象も否めない感じ。まあ、これはこれで「大いなるマンネリ路線」に進むのもあるかもしれませんが・・・。

評価:★★★★

THE PRODIGY 過去の作品
INVADERS MUST DIE
THE DAY IS MY ENEMY

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2018年12月21日 (金)

まさかの第2弾

Title:Do The Blues 45s! Vol.2~The Ultimate Blues 45s Collection~

昨年リリースされたディスクユニオンの秋元伸哉氏監修・選曲によるブルースのコンピレーションアルバム「Do The Blues 45s!」。1950年代から60年代のマイナーレーベルからリリースされた音源がメインの、「知る人ぞ知る」的なかなりマニアックな音源を集めたコンピ盤。ただ、そんなアルバムながらもCDの帯に甲本ヒロトの推薦文が書かれたり、ジャケットデザインが本秀康だったりと、その豪華なメンバーが協力していることでも話題になりましたが、その影響もあってか、ブルースのコンピとしては好セールスを記録したとか。そしてなんとそのコンピレーションアルバムの第2弾がリリースされました。

今回もまた、知る人ぞ知る的なミュージシャンの曲20曲が収録された今回のアルバム。基本的に知られざる名曲を選んでいるという共通項はあるものの、一方では様々なタイプのブルースが選曲されており、ブルースという音楽の幅広さを知ることの出来るコンピにもなっていました。

例えば1曲目Little Sonnyの「STRETCHIN'OUT」は抜けのよいリズムが楽しめる、どこか陽気さを感じるインストナンバーからスタートしていますし、続くJohn Heartsman「JOHNNY'S HOUSE PARTY PT.1」に至っては、後ろの歓声もそのまま収録されているという、かなりアットホームな録音に。タイトル通り、こちらも明るい雰囲気のナンバーになっています。またJoe Scott And His Orchestraの「PICKIN' HEAVY」もビックバンド風のとにかく明るいジャンプブルースに仕上がっており、ワクワク楽しくなってきそうな楽曲に仕上がっています。

一方ではLarry Davis And His Band「I TRIED」はだみ声のボーカルと力強いバンドサウンドでかなり荒々しさを感じさせるナンバーに。T.B.Fisher「Don't Change Your Mind」はムーディーなボーカルとメロディーラインでソウルバラードのテイストの強い哀愁感漂うナンバーに。Eddie Bo「I'm So Tired」もムード歌謡ばりに歌い上げるボーカルも強い印象に残ります。

ただ、そんな様々なタイプのブルースが収録されている本作ですが、全体としては録音状態にしろバンドの演奏にしろ、あるいはボーカルも含めて全体的に荒々しさが目立つような曲が多かった印象を受けました。マイナーレーベルの曲だからこそ洗練されていないと言えるのかもしれません。ただ、その「洗練を受けていない」感じが、逆に楽曲に勢いを感じさせる結果になっていたと思います。

これ、イメージで言えば、今の時代なら「インディーロック」といったイメージになるのでしょうか。この荒々しさ、洗練のされていなさ具合こそが、ある意味、マイナーレーベルならではの魅力と言えるのかもしれません。そしてこのコンピレーションにはそんな魅力がたくさん詰まっていました。

前作が気に入った方には本作ももちろんおすすめできる1枚。内容のマイナー具合から、さすがに「ブルース入門」的なコンピではないかもしれませんが・・・ただ、決して「上級者向け」ではなく、私のようなブルース初級者を含め、ブルースが好きなら幅広く楽しめるようなそんな魅力的なコンピレーションアルバムとなっていました。

評価:★★★★★

Do The Blues 45s!-The Ultimate Blues 45s Collection


ほかに聴いたアルバム

A Legendary Christmas/John Legend

先日はEric Claptonのクリスマスアルバムを紹介しましたが、こちらはJohn Legendによるクリスマスアルバム。クリスマスソングをソウルやブルース調にカバーしつつ、しっかりとしんみり歌い上げるスタイル。さすがに実力派の彼らしく、どの曲もいい意味で安定感があり、安心して聴いていられる、これからのクリスマスシーズンにもピッタリな暖かい雰囲気のポップスが並んでいました。

評価:★★★★

John Legend 過去の作品
once again
WAKE UP!(John Legend&The Roots)
LOVE IN THE FUTURE
DARKNESS AND LIGHT

Suspiria(Music for the Luca Guadagnino Film)/Thom Yorke

ご存じRADIOHEADのボーカリスト、トム・ヨークによるソロ最新作は今年公開された映画「サスペリア」(日本公開は来年1月予定)のサントラ盤。この「サスペリア」はもともと1977年に公開された傑作映画のリメイク版だとか。日本公開はまだなので当たり前なのですが、私自身は映画を全く見ていない状態で、トム・ヨークの新作ということでサントラ盤のみ聴いてみました。

サントラ盤は2枚組。Disc1は主に歌モノがメイン。ホラー映画ということで、ピアノやストリングスなどを効果的に用いた不気味な雰囲気の作風の中に、美しいメロディーラインが入ってくるスタイルで、「歌」としてかなり聴かせる内容に。この「美しさ」と「不気味さ」のバランスが実に絶妙で、もともとトム・ヨークの、というよりもRADIOHEADの作品は内省的な曲がメインなのですが、トム・ヨークらしさがよく出ている作風に仕上がっていました。一方Disc2はおそらく映画の中で使用されるBGMなどがメイン。メタリックな作風で不気味な雰囲気の曲が多く、こちらは良くも悪くも「サントラ盤」。映画を見ていないと、ちょっと退屈さも感じされる内容になっています。

歌モノについてはソロ作としてもかなりの傑作と感じた一方、後半はちょっと退屈してしまった点も否めないため、全体的な評価は以下の通りに。ただ、Disc1は間違いなくトム・ヨークのファンだけではなくRADIOHEADのファンにとっても聴いておきたい傑作だったために、サントラ盤ということで回避するにはあまりにももったいないと思います。間違いなくトム・ヨークの「最新アルバム」です。

評価:★★★★

Thom Yorke 過去の作品
The Eraser Rmx
Tomorrow's Modern Boxes

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2018年12月17日 (月)

ディスコブームそのままに

Title:It's About Time
Musician:Nile Rodgers&CHIC

70年代後半から80年代にかけて一世を風靡したディスコブーム。そのブームを牽引した代表的なバンドのひとつが今回紹介するナイル・ロジャーズ率いるCHICでした。70年代から80年代にかけてヒットを飛ばしたものの、メンバーのバーナード・エドワーズが96年に急死。また90年代以降、ディスコブームがすっかり影を潜めてしまった影響もあり、事実上、解散状態にあったようです。

しかし90年代から2000年代あたりにかけては「ダサい」とみなされていたディスコの評価が2010年代あたりから再上昇。特に2013年にダフトパンクがリリースしたアルバム「ランダム・アクセス・メモリーズ」にナイル・ロジャーズが参加したことも大きなきっかけとなり一気に注目が集まるようになりました。

そして今年、「CHIC」名義では実に26年ぶりとなるニューアルバムがリリースされて大きな話題となっています。まずこのジャケット写真からして、いかにも80年代的。「CHIC」のロゴと共に、ちょっと前ならばおそらく「ダサい」とされていそうな雰囲気がありますが、今なら一回り廻って「ダサカッコいい」といった感じになるのでしょうか。ちなみにこのジャケット、CHICのデビューアルバムのオマージュ的なデザインともなっています。

さらに内容的にも80年代のディスコブームそのものの、いかにもなダンスチューンの連続となっています。1曲目「Till The World Falls」から軽快なリズムからハイトーンの女性ボーカルでスタートするあたりから、「これこれ!」と思ってしまうような気持ちよさがありますし、「Do You Wanna Party」なんかもタイトル通りのいかにもなダンスチューン。「I Dance My Dance」もほどよくソウルに歌い上げる女性ボーカルも含めて、いかにも80年代的な香りが漂っています。

楽曲的には正直言ってどれも似たようなパターンのディスコチューンのみなので、若干単調で、ボーカルをいろいろと変えることによりバリエーションをつけているようにも感じます。ただ、後半にはチルアウト的なミディアムチューンがあらわれるのですが、その中のインストチューン「State Of Mine(It's About Time)」などもアーバンな雰囲気が実に80年代的。日本でいえばバブルの雰囲気がプンプン匂ってくるようなナンバーに、ある種の懐かしさを感じてしまいます。

そんな訳で、少々悪い表現を使ってしまうと「軽薄」という印象すら受けてしまうアルバム。確かに、こういう曲ばかりがブームになったとしたら、少々うんざりしてしまうだろうなぁ、という感じもするのですが、ただ、このアルバムだけ取り上げれば、何も考えずに楽しめる、文句なしに楽しい作品だったと思います。似たようなタイプの曲も多いのですが、全39分という短さもあり、飽きることなく一気に楽しむことが出来ました。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

MASTERS OF THE SUN VOL.1/THE BLACK EYED PEAS

2011年に活動を休止したものの2015年に再結成したアメリカのHIP HOPグループBLACK EYED PEAS。その彼らが約8年ぶりとなる待望のニューアルバムをリリースしました。久々のアルバムなのですが、ジャズやエレクトロのテイストなどを取り入れ、軽快にまとめあげて楽しいHIP HOPチューン。ポップテイストが強くかなり聴きやすいアルバムに仕上がっています。活動休止前のアルバムに比べると実験的テイストは薄いような印象も受けるのですが、ただただ最初から最後までその音楽を楽しめるポップスアルバムになっていました。

評価:★★★★★

THE BLACK EYED PEAS 過去の作品
THE E.N.D.
THE BEGINNING

OLYMPUS SLEEPING/RAZORLIGHT

イギリスのギターロックバンドによる、実に約10年ぶりとなる久々のニューアルバム。本作は4作目となるアルバムで、前3作はいずれもイギリスのアルバムチャートでベスト10の上位にランクインしたのですが、本作は残念ながら最高位27位に留まる厳しい結果となりました。ただ内容的には非常にシンプルで軽快なギターロックの楽曲が並んでおり、いい意味でインディーロックバンドらしい若々しさと勢いをいまだに感じさせます。メロディーラインもポップでそれなりにインパクトもあり、わずか36分という短さもあって、一気にダレルことなく楽しめる傑作アルバムに仕上がっていました。

評価:★★★★★

RAZORLIGHT 過去の作品
SLIPWAY FIRES

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2018年12月 9日 (日)

スターの孤独を描いた話題作

話題の映画「ボヘミアンラプソディー」を見てきました。

ご存知80年代から90年代にかけて一世を風靡し、日本でも絶大な人気を誇るロックバンドQUEENの軌跡を追った映画。この手の音楽映画としては珍しく大ヒットを記録。日本でも興行収入で週間1位を獲得するなど、異例の大ヒットとなっています。

実は私自身、QUEENについては名盤の誉れ高い「オペラ座の夜」やベスト盤を聴いている程度であり、正直言ってさほど思い入れの深いミュージシャンではありません。ただ、映画は前評判から非常に高かったため、これは見てみなくては、と映画館に足を運びました。

そんな訳でQUEEN自体に対しては比較的ニュートラルな立場から映画を見てみたのですが・・・まず一言で言ってしまえば非常におもしろい映画でした。一応、宣伝文句的には「QUEENの伝記映画」的なプロモーションをされています。事実、QUEENの結成からその後の活躍、さらには数々のQUEENの名曲の誕生秘話的なエピソードも多く紹介しています。さらに一番のクライマックスは終盤21分に及ぶ1985年に行われたチャリティーイベント「LIVE AID」でのQUEENのステージの完全再現。かなり細かい部分までこだわったというその映像は、まるで本当にQUEENのステージを体験しているかのよう。特に映画館の大スクリーンと音響で見ると、迫力ある演奏でグイグイと迫ってきて、21分にも及ぶシーンはひと時も目が離せません。

ただ、この映画で描かれている本題はおそらく「QUEENの伝記」ではありません。映画の中心となるのはボーカル、フレディー・マーキュリーの孤独と苦悩、そしてその後の仲間や家族たちとの和解がメイン。そのため、事実とは異なるような展開があり、その点、熱心なファンからはマイナス評価されているようですが、しかし、映画で何を描きたかったのか、を考えると、そんな異なった事実の描写も十分納得感のあるものでした。

また「フレディーの孤独と苦悩」という映画のテーマがはっきりしていたこともあって、映画全体としての流れもスムーズになっていたように感じます。結果、QUEENの、というよりもフレディーの物語を楽しみつつ、QUEENの音楽も楽しめる、そんなエンタテイメント性あふれる傑作に仕上がっていました。この手の伝記モノとしては異例の大ヒットとなっているのも納得の作品です。 また、そんな訳で、映画と共に大ヒットを記録しているサントラ盤ももちろん聴いてみました。

Title:Bohemian Rhapsody(The Original Soundtrack)
Musician:QUEEN

ちなみにこのサントラ盤、最初聴いたのは映画に行く前。もちろんその時も楽しめましたが、映画を見た後、断然、再度聴いてみたくなりました。

今回のサントラはQUEENの代表曲が収録されているのですが「ベスト盤」というよりもサントラなので当たり前ですが映画の内容に沿ったセレクトがされています。それなので映画を見る前に聴くと、ベスト盤的な内容ではないため違和感を覚える部分もあるかもしれませんが、映画を見た後だといろいろなシーンを思い起こして、胸が熱くなるような、そんなサントラでした。

特に今回のアルバムで目玉的なのが映画でクライマックスだった「Live Aid」。このライブの音源が5トラック収録されており、まさに映画を見た後だとあのシーンと重ね合わせて音源を楽しめるのではないでしょうか。

QUEENの曲は全体的にインパクトあるフレーズが含まれており、ある意味ちょっとベタとも言えるもののダイナミックな楽曲の構成は聴いていて非常に高揚感を覚えます。個人的には若干過剰と思える部分もあるのですが、ただこの高揚感がQUEENの大きな魅力ですし、映画でもこの楽曲の高揚感とフレディーの孤独が良い対比になっていたように思います。

本作単体でもQUEENのベスト盤的に楽しめますし、それ以上にやはりサントラとして映画を見た後に聴くと、さらに魅力的に感じられるアルバムだったと思います。QUEENのファンでもそうでない方も、映画を見ていても見ていなくても、チェックしておきたいサントラ盤です。

評価:★★★★★

以下、ネタバレの感想です。

続きを読む "スターの孤独を描いた話題作"

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2018年12月 8日 (土)

3人のSSWの違いと共通項が上手く反映

Title:boygenius
Musician:boygenius

今回紹介するアルバムはアメリカの女性シンガーソングライターPhoebe Bridgers, Julien Baker, Lucy Dacusの3人が集まったニュープロジェクト。今回、そのプロジェクトの初になる6曲入りEPがリリースされました。すいません、こう書いておいて何なのですが、実は3人とも初耳のミュージシャンばかり。その3人が集まった、と言われてもいまひとつピンと来ませんでした。

そんなこともあって今回、この3人の女性シンガーの曲についてYou Tubeなどであらためて聴いてみました。印象としてはPhoebe Bridgersはギターサウンドをバックにしたフォークロック、Julien Bakerは美しい歌声をアコースティックなサウンドにのせて幻想的な雰囲気に聴かせるポップシンガー、Lucy Dacusはギターサウンドをバックに大人な雰囲気のボーカルでメロディアスに聴かせるシンガーといった印象。

3人のソロを聴くとタイプ的には微妙に異なる3人ですが、ただ一方では同じような方向性も感じられます。まず3人ともフォークからの影響を感じる美しいメロディーラインで聴かせるポップチューンがメインという点。また3人ともボーカルを美しく聴かせる楽曲を奏でているという点でも共通項でしょう。

そんな3人が組んだプロジェクトだからこそ、3人の音楽性の異なる点をうまく生かしつつ、3人の共通項をしっかりと聴かせる、この手のユニットらしいアルバムがリリースされました。まず1曲目「Bite The Hand」はダウナーなギターサウンドを前に出したローファイ気味なギターロック。ノイジーなギターが耳に残る一方、メロディーは至ってポップにまとめていますし、3人によるハーモニーも実に美しくまとまっています。

続く「Me&My Dog」も3人の美しいハーモニーが強く耳に残るナンバー。バックにはノイジーなギターが流れ、幻想的で美しいポップチューンに仕上がっています。ここから一転「Souvenir」はアコースティックギターとピアノで聴かせるフォーキーなナンバー。ただ美しいメロディーとコーラスラインは1、2曲目から変わりません。さらに「Stay Down」もピアノの力強い演奏をバックに美しい歌声でメロディアスに聴かせる曲調。フォークテイストが強い作風なのですが、根底に流れる音楽性は大きな変化はないため、アルバムの流れの中で自然に聴くことができます。

さらに「Salt In The Wound」も再びギターサウンドが前に出てきたロッキンなアレンジとなっていますが、こちらもミディアムテンポでメロディーを聴かせるナンバー。途中から登場する3人のハーモニーの美しさが特に耳を惹きます。そしてラスト「Ketchum,ID」はアコースティックギターをバックで3人で美しいハーモニーを聴かせるフォークソング。プライベイトな雰囲気の強い録音状況となっており、3人の息の合ったコーラスがとても魅力的に仕上げています。

そんな訳で、3人の音楽性の違いと共通項をうまく利用した完成度の高いアルバムに仕上がっていました。3人のフォーキーなサウンドと美しいメロディーライン、そしてなにより息の合ったハーモニーが耳を惹く素敵なポップチューンが並んでいます。3人とも残念ながら日本ではさほど知名度が高くなく、私もいままで一度も聴いたことがなかったのですが、これを機に、ソロ作も聴いてみたいなぁ。とにかく、ポップス、とくにフォークロックあたりが好きならはまること間違いなしの傑作です。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Natural Rebel/Richard Ashcroft

元The Verveのボーカリスト、Richard Ashcroftによるソロ5作目のアルバム。イギリス出身の彼ですが、いままでのソロアルバムはイギリスというよりもアメリカのロックの影響を色濃く感じたのですが、本作もカントリーの要素を入れつつ、いなたい感じのロックチューンに、アメリカのカントリーロックからの影響を色濃く感じます。渋い雰囲気の強い大人のロックアルバムといった印象を受けた1枚でした。

評価:★★★★

RICHARD ASHCROFT 過去の作品
THE UNITED NATIONS OF SOUND(RPA&THE UNITED NATIONS OF SOUND)
THESE PEOPLE

A Star Is Born Soundtrack(邦題 アリー/ スター誕生 サウンドトラック)/Lady Gaga & Bradley Cooper

Lady Gaga主演ということで日本でも話題の映画「アリー/ スター誕生」のサウンドトラック。楽曲的にはどちらかというとLady Gagaと共に主演を務めた俳優、Bradley Cooper歌唱による曲が多いのですが、圧巻なのは特に後半に並ぶLady Gagaによる曲。その歌唱力、表現力ともに圧倒するものがあり、Lady Gagaって、こんなに歌が上手かったんだ・・・とあらためて実感させられます。Bradley Cooperもなかなか健闘はしているのですが、ちょっと物足りなかったかな。

評価:★★★★

LADY GAGA 過去の作品
The Fame
BORN THIS WAY
ARTPOP
Cheek to Cheek(Tony Bennett & Lady Gaga)
Joanna

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2018年12月 4日 (火)

前作よりもポップで聴きやすく

Title:Negro Swan
Musician:Blood Orange

前作「Freetown Sound」が大きな評価を集めたプロデューサーとしても活躍しているイギリスのミュージシャン、デヴ・ハインズのソロプロジェクト、Blood Orangeの約2年ぶりとなるニューアルバム。今回の高い注目を集めた新作となりました。

そんな待望のニューアルバムなのですが、まずは率直に言って、非常に心地よいポップな作品に仕上がっていたな、というのが第一の感想でした。まず1曲目「Orlando」はハイトーンボイスが心地よい、ネオソウル風の作風となっています。それだけにいかにも「今時」感を醸し出しつつ、続く「Saint」「Take Your Time」は比較的シンプルでソウルなポップチューンに仕上げています。さらにPuff Daddyと、新進気鋭の女性シンガーTei Shiを迎えた「Hope」もラップとハイトーンで美しく聴かせる女性ボーカルを絡ませつつ、楽曲的にはちょっとジャジーな要素を入れつつも、あくまでもポップにまとめ上げています。

その後も基本的にはハイトーンボイスで気持ちよく聴かせるフィリーな雰囲気のソウルナンバーが続きます。リズミカルなトラックとメロウなボーカルが心地よい「Chewing Gum」、シンプルなサウンドで、ほぼアカペラベースで力強いボーカルを聴かせる「Holy Will」、ループするサウンドが心地よい「Dagenham Dream」など、メロウなボーカルで心地よく聴かせるポップチューンが続きます。

そんな訳で全体的な方向性としては前作「Freetown Sound」同様。今風なサウンドを入れつつも、一方では80年代風な要素を感じさせるサウンドが心地よいソウルチューンの連続。全16曲入りながらも1曲あたり2、3分程度の短いポップチューンにおさめており、全48分という聴いていてちょうどよい長さなのも前作同様。そういう意味では前作の延長線上のような作品と言えるかもしれません。

ただ様々なサウンドとアイディアを入れてきて、少々情報過多にも感じられた前作に比べると、今回のアルバムはよりすっきりとポップなアルバムに仕上がっていたように感じます。そういう意味で前作よりも聴きやすいアルバムに感じました。メディアなどの評価では本作の評価もそれなりに高い反面、前作ほどの出来ではないというのが一般的のようですが、個人的にはむしろ前作よりも本作の方が気に入ったかも・・・。とても気持ちよく楽しめた1枚でした。

評価:★★★★★

Blood Orange 過去の作品
Freetown Sound


ほかに聴いたアルバム

The Atlas Underground/Tom Morello

ご存じRAGE AGAINST THE MACHINEのギタリストであり、最近ではPROPHET OF RAGEとしても活躍しているトム・モレロの、初となるソロ名義でのアルバム。今回は彼のギターサウンドにEDMを取り入れるなど挑戦的な方向性になっています。ただ、正直、EDMという方向性は「いまさら」感は否めませんし、彼のギターを生かそうとした結果、取り入れ方も中途半端に。所々に彼らしいカッコイイギターリフは顔を覗かせるのですが、全体的には「あのトム・モレロのソロ」として聴くと少々期待はずれな内容になっていました。

評価:★★★

Bottle It In/Kurt Vile

The War On Drugsの元メンバーであり、昨年はCourtney Barnettとのコラボでも話題となったギタリストの新作。基本的にはアコギメインでのダウナーな路線は前作から変わらず、地味な作風ながらもメロディアスに聴かせる楽曲は魅力的。ただ今回、1時間18分という長さのアルバムの中で、10分を越える曲が2曲、10分近い曲が1曲あり、いずれも淡々とした作風の曲に。そのためアルバムとしては少々中だるみした感じが否めず、1曲1曲の出来は悪くないのですが、少々聴いていて退屈してしまう部分も。そういう意味では非常に惜しいアルバムなのですが・・・。

評価:★★★★

Kurt Vile 過去の作品
B'lieve I'm Goin Down…
Lotta Sea Lice
Courtney Barnett&Kurt Vile)

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2018年12月 2日 (日)

幻の音源

Title:Give Out But Don't Give Up:The Original Memphis Recordings
Musician:Primal Scream

Primal Screamが1994年にリリースしたアルバム「Give Out But Don't Give Up」。1991年にリリースされ、アシッドハウスの要素を多く取り入れることによりロック史に残る傑作として今なお評価の高いアルバム「Screamadelica」の直後にリリースされた本作。前作の方向性からガラリと変わり、アメリカ南部の音楽を多く取り入れレイドバックした作風になっていたため評判の方は残念ながら評価の方はいまひとつのアルバムになっています。

このアルバム、もともとはアレサ・フランクリンなどのプロデュースでも知られるトム・ダウドをプロデューサーとして迎え、マッスル・ショールズ・リズム・セクションとメンフィスで録音を行ったものの、その内容にクリエイション・レコーズのアラン・マッギーが落胆。あらたにジョージ・ドラキュリアスをプロデューサーとして迎えレコーディングを行い、今の形になったとか。いままでそのメンフィスでのレコーディング音源は日の目を見ることがなかったのですが、今回、メンバーのアンドリュー・イネスの自宅地下室で当時の音源を発見。今回、オリジナルレコーディングとして新たにリリースされることになりました。

そうしてリリースされた今回のアルバムなのですが、当初アルバムとしてリリースされた音源と比べると、明らかにその方向性に違いが見える興味深い内容に仕上がっています。簡単に言ってしまうとアルバムとしてリリースされた音源と比べると、あきらかによりソウルやブルースなどの雰囲気が強くなり、泥臭い感じが増した方向性になっています。例えば、いまでも彼らの代表曲としてライブではおなじみの「Rocks」はメンフィスレコーディングではよりホーンやピアノを前に押し出し、いなたさを強く感じる録音になっているのに対して、リリース音源ではホーンやピアノの音は残されているものの一気に後ろに下がり、ギターサウンドを前に出したロック色の強い音源になっています。「Call On Me」も同様。メンフィスレコーディングではピアノやホーンの音をより押し出したアレンジになっているのに対して、リリース音源ではここらへんの音は抑え気味となり、ギターサウンドを前に押し出したアレンジとなっています。

「Sad and Blue」とか「Big Jet Plane」とか、比較的リリース音源と大きな違いがない曲もあるのですが、全体的にはアメリカ南部の音楽を取り入れているという方向性がより明確になっているメンフィス音源と比べて、リリースされた音源はメンフィス音源のいなたさが軽減され、代わりにロックという方向性が強くなっています。またおもしろいのはリリースされた音源が全部収録されているわけではなく、例えば「Funky Jam」「Struttin'」「Give Out but Don't Give Up」「I'll Be There for You」の4曲はメンフィス音源に含まれていません。これらのうちバラード曲「I'll Be There for You」以外はファンキーな作風でイメージ的には「Scremadelica」の方向性に近い作風。当初の方向性があきらかにルーツ志向に向かいすぎたため、後日追加にレコーディングした作品によりかじ取りを修正した後が伺わされます。また、逆にメンフィス音源に収録されている「Jesus」は1997年にリリースされた「Star」のカップリングでようやく日の目を見ることになる音源で(日本では97年のアルバム「Vanishing Point」のボーナストラックで収録)。ブルージーに聴かせるなかなかの名曲なのですが、おそらく他に同様のブルージーなバラードが多かったため、アルバムから省かれたものと思われます。

確かに今回のメンフィス音源を聴くと、いなたさがあきらかに強すぎて、このままリリースすると「Screamadelica」の次のアルバムとしてはファンは戸惑うだろうなぁ、ということは強く感じます。ただこれはこれでアルバムの出来として決して悪くはなく、今回、アルバムとして新たにリリースすることにしたメンバーの意向はよくわかります。むしろソウルやブルース的な要素を強く取り込もうとしていまひとつ中途半端に終わってしまった感のあるリリース音源に比べて、メンフィス音源はその方向性が明確にあらわれており、見方によっては、この音源をリリースした方が、リアルタイムでは売れなかったかもしれないけども、アルバムとしての評価はむしろ高くなったのではないか、とすら感じてしまいました。

そんな訳で、ある種のファインズアイテム的な要素も強くアルバムなのですが、内容的には非常に興味深い内容。特にアルバム「Give Out but Don't Give Up」の本質的な部分が強く表に出ている音源でもあるため、ファンなら要チェックの1枚ですし、ファンならずとも彼らのアルバムの1枚として聴いてみても損はない作品だと思います。

ちなみにDisc2はデモ音源集。こちらは作品完成前のアイディアの欠片的な曲があったり、途中でいきなり終わる曲もあったりと、ファンズアイテム的な要素も強い「アイディア集」的な作品。ファンとしては興味深く聴ける内容ですが、幅広くはお勧めしずらいかも。もっとも、本編の方は素晴らしい内容だったと思うので下記の評価に。個人的にはリリース音源よりもこちらの方が好き、かも。

評価:★★★★★

primal scream 過去の作品
Beautiful Future
Screamadelica 20th Anniversary Edition
More Light
Chaosmosis


ほかに聴いたアルバム

LOOK UP/Elvis Costello&The Imposters

Elvis&The Imposters名義では2008年の「百福」以来10年ぶりとなるコステロの新作。序盤は軽快なギターロックナンバーが顔をのぞかせるものの、中盤以降はムーディーな雰囲気の聴かせる楽曲がメイン。もちろんコステロらしいポップスセンスある楽曲は耳を惹きますが、全体的には大人のポップスという印象を受けるアルバムに。単独名義としては前作となる「National Ransom」に通じるような作品になっていました。

評価:★★★★

Elvis Costello 過去の作品
Momofuku(Elvis Costello&the Imposters)
Secret,Profane&Sugarcane
National Ransom
Wise Up Ghost(Elvis Costello&The Roots)

HAPPY XMAS/Eric Clapton

クラプトンの新作はなんとクリスマスアルバム。もうこんな時期になるのかぁ、と同時にこうやってクリスマスソングでアルバム1枚リリースしてくるあたり、向こうの人にとってはクリスマスが重要な行事なんだな、と伺わせます。楽曲はクリスマスソングをブルージーにカバーしているアルバム。ただ、このうち「Jingle Bells」は今年4月に急逝したAviciiを偲び、なんと打ち込みを取り入れたカバーになっています。そのため若干浮いてしまっている感は否めないのですが、全体的には卒なくブルージーにカバーしたアルバムに。目新しさはないけれども安定感のある、安心して聴けるアルバムになっていました。

評価:★★★★

ERIC CLAPTON 過去の作品
Clapton
Old Sock
I Still Do

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2018年12月 1日 (土)

St.Vincentの本質的な部分が現れた傑作

Title:MassEducation
Musician:St.Vincent

アルバムがリリースされた度に大きな話題となり、今、最も注目される女性ロックミュージシャンの一人となったSt.Vincent。昨年リリースされた「MASSEDUCTION」も高い評価を得て、なんとビルボードチャートでベスト10ヒットを記録するなど売上面でも大ヒットを記録しました。

本作はその直近作「MASSEDUCTION」を全編、ピアノ、アコースティックアレンジとして収録したリアレンジアルバム。パッと見、「MASSEDUCTION」と大文字小文字の使い方が変わっただけ・・・と思いきや、こちらは「MassEducation」と「a」の文字がひとつ加わっています。ちなみに「MASSEDUCTION」は「MASS」(大衆)と「SEDUCITON」(誘惑する)をあわせた造語。一方、「Mass education」は「大衆教育」という一般名称のようです。

今回のアルバムは、そんな訳で「MASSEDUCTION」の収録曲があらためてピアノ・アコースティックアレンジとして収録されているのですが、これが雰囲気がガラッと変わり、印象が全く異なるアルバムに仕上がっています。

「MASSEDUCTION」はエレクトロサウンドも入り、曲によってはへヴィネスさを強く感じる曲もありました。特にタイトルチューンである「MASSEDUCTION」はいきなり「政権の腐敗」という日本語のアジテーションからスタートして、特に日本人にとってはかなりインパクトある作品になっていました。

しかし本作ではそれがアコースティックアレンジとなり雰囲気がガラリと一変します。基本的にアレンジはピアノと彼女の歌声のみ。そのためアジテーションの色合いが強く感じた「MASSEDUCTION」も本作でも彼女の力強い歌声が印象に残るものの静かなピアノでメロディアスに聴かせる楽曲に変化しています。

他にもエレクトロアレンジがガラリと変わり、かなり印象の変わる曲がチラホラ。「Sugarboy」も原曲ではエレクトロサウンドでトランシーな曲調だったのですが、本作ではピアノの疾走感ある演奏で美しく聴かせる楽曲に。「Fear The Future」もエレクトロサウンドが目立つ原曲から一転、シンプルなピアノのアレンジだからこそ美しいメロディーラインが光る楽曲になっていました。そして特に印象が大きく変わったのが「Young Lover」。原曲ではかなりへヴィーなエレクトロサウンドが前に押し出されたダイナミックな曲調となっていたのに対して、テンポもゆっくりとなりその美しいメロディーラインにあらためて気が付かされる曲になっていました。

もっとも原曲でもしんみりと「曲」を聴かせていた「Happy Birthday,Johnny」「New York」などイメージが大きくは変わらない曲もあったり、「Pills」などは低音のピアノを力強く聴かせることにより、むしろ原曲以上にへヴィーになったのでは?と感じさせる曲もありました。ただ全体的にはピアノのシンプルな演奏により、楽曲のよりコアな部分がはっきりと表にあらわれた作品になっていたと思います。

もともと「MASSEDUCTION」でも彼女のポップスセンスの良さを強く感じる部分は少なくありませんでしたが、今回、アコースティックアレンジにすることにより、彼女のメロディーメイカーとしての実力が、より如実に現れたアルバムになっていました。さらにシンプルに歌だけを聴かせるアルバムになったことにより、いままでのアルバムではさほど感じなかった、彼女のボーカリストとしての表現力の豊かさを強く感じる作品にすらなっていました。

彼女のミュージシャンとしての本質の部分がより鮮明になったアルバムであり、その結果として彼女の実力がよりはっきりとした形であらわれた作品だと思います。正直言うと、個人的には「MASSEDUCTION」よりもこちらの方がむしろ魅力的に感じたくらい。彼女のミュージシャンとしての「すごさ」を強く感じた傑作アルバムで、年間ベストレベルの傑作。リアレンジアルバムだからということで敬遠した方もいるかもしれませんが、むしろ元のアルバム以上に聴いてほしい1枚です。

評価:★★★★★

St.Vincent 過去の作品
St.Vincent
MASSEDUCTION


ほかに聴いたアルバム

ASTROWORLD/Travis Scott

本作でもアメリカビルボードチャート1位を獲得するなど高い人気を誇るアメリカのラッパーによる3枚目のアルバム。メロウで哀愁感あふれる歌のようにメロディアスなラップがメイン。サウンドは今、流行りのトラップの王道を行くような作りになっていて、全体的には良くも悪くも今のHIP HOPシーンのど真ん中を行くような傾向にあるアルバムといった感じでしょうか。ただいいアルバムだとは思うのですが、さすがに最近、この手のサウンドが多すぎて、若干飽き気味なのですが・・・。

評価:★★★★

Mudboy/Sheck Wes

本作にも収録している「Mo Bamba」が大ヒットを記録。また、上でも紹介しているTravis Scottの「ASTROWORLD」にも参加し、今、話題となっているラッパーによるデビューアルバム。Travis ScottのレーベルCactus JackのみならずKanye WestのG.O.O.D.Musicとも契約を結んでおり、それだけ今、とても勢いのあるラッパーでもある彼。上のTravis Scottと同様、ダークでダウナーなトラップがメイン。アルバム全体で何回言っているんだ?と思うほど終始「ビッチ」とつぶやいているのが妙にユニークなアルバムに。それだけ期待の新人ラッパーである彼ですが、アルバムチャートは最高位17位とまずまずの順位だったようですが、大ヒットとまではいかず。これからの活躍に期待といった感じでしょうか。

評価:★★★★

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