アルバムレビュー(洋楽)2018年

2018年11月12日 (月)

「雅楽」を取り入れたアンビエントの傑作

Title:Konoyo
Musician:Tim Hecker

カナダ人のエクスペリメンタルコンポーザー/サウンドアーティストの9枚目となるソロアルバムである本作は、日本人にとって非常に興味深いアルバムとなっています。今回のアルバムは日本での旅行中に大部分を制作。日本を代表する民間雅楽団体である東京楽所と共に、東京練馬の観蔵院というお寺で録音された音源を使用しているようで、タイトルである「Konoyo」も日本語の「この世」の意味。東京楽所の奏でる雅楽が伝統音楽であるのに対して、このアルバムの音楽は現在(=この世)の音楽であることを意味しているそうです。

そんな本作はエレクトロサウンドがベースとなりつつ、空間ある作風を聴かせるアンビエントのアルバム。基本的に全編、ミディアムテンポの楽曲が並び、伸びやかなサウンドを聴かせる作品となっています。そして一番興味深いのはやはり雅楽の使われ方でしょう。まずおもしろいのは一般的に日本人がイメージしそうな、いかにも「雅楽」といった感じのフレーズは本作ではほとんど登場しません。

例えば1曲目「This Life」でエフェクトにより増幅しつつ流れてくるのは笙の音色でしょうか。メタリックさもある独特の音色が幽玄な雰囲気を醸し出し、確かに雅楽的な要素も感じるのですが、あくまでも現在の音楽としてのアンビエントの中で効果的に用いられているのにとどまります。

続く「In Death Valley」でも笛や太鼓の音が登場しますが、あくまでも楽曲の背後で静かに流れているだけ。楽曲としては分厚いエレクトロサウンドがスペーシーに展開するスケール感ある作品としてまとまっています。

和楽器の要素を強く感じるのは最後の「Across to Tokyo」でしょうか。ノイジーでフリーキーな雰囲気を感じる前半から、後半はおそらく笙や笛の音色で埋め尽くされ、優美な雰囲気を感じるナンバー。最後は笙の音色で優雅に締めくくられます。ただこの楽曲にしても、あくまでもノイジーなエレクトロサウンドとその背後で流れる静かでアンビエント色強いメロディーラインが大きな軸となっている楽曲となっています。

アルバム全体としてはあくまでも雅楽の楽器を効果的に用いて、優美で優雅な雰囲気を醸し出してはいるのですが、「雅楽」のアルバムではありません。タイトルである「この世」もあくまでも伝統音楽である雅楽と対比されたタイトルであるように、あくまでも「現在の音楽」であることに拘っています。おそらくこれが日本人なら「雅楽」であることを必要以上に意識して、いかにも雅楽的なフレーズを前に押し出しそう・・・。雅楽に対してあくまでも客観的なスタンスを感じます。

ただし、雅楽らしい部分が少ないとはいえ、日本人にとってはなじみのある雅楽の楽器の音色が流れてきており、またそれによって生み出された優雅な雰囲気は日本人にとってはどこか琴線に触れるものがあります。本作は海外メディアでも非常に評判が高いようですし、ほぼMade in Japanの作品として日本でももっと注目されてもよさそうなのですが・・・。日本人にとってはまず注目したい作品です。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Collapse EP/Aphex Twin

約2年ぶりとなるAphex Twinの新作。5曲28分の長さの作品で、全体的にはいつものAphex Twinらしい、変態的なビートが展開されつつもどこかメロディアスで惹きこまれるサウンドが特徴的。良くも悪くもいつも通りの彼といった印象が強く、正直言うと目新しさは少ない・・・というよりも30分弱であっさりすぎるかも、という印象でしたが、とりあえずは彼の新作が聴けた、ということだけでも満足感を得られる作品でした。

評価:★★★★

Aphex Twin 過去の作品
Syro
Computer Controlled Acoustic Instruments pt2 EP
orphaned deejay selek 2006-2008(AFX)
Cheetah EP

Medicaid Fraud Dogg/PARLIAMENT

FUNKADELIC名義でのアルバムは2014年にリリースされていたものの、PARLIAMENT名義では実に38年ぶり(!)となるニューアルバム。今、流行の真っただ中にあるトラップを取り入れるなど、一応今風にアップデイトしているのですが、これに関しては若干「取り合えず流行っているから取り入れました」的なやっつけ感は否めず。全体的にもパワー不足の感もあるのですが、ただそれでも所々にしっかりとどこかコミカルで楽しい、ライブ映えしそうなファンクナンバーがしっかりと収録されており、CDにして2枚組全120分に及ぶアルバムながらも最後まで楽しむことが出来ました。

評価:★★★★

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2018年11月 3日 (土)

「歌心」あるHIP HOPアルバム

Title:Room 25
Musician:Noname

シカゴの女性ラッパー、Nonameのデビューアルバム。Chance the Rapperのアルバムにも参加して話題となったミュージシャンのようですが、このデビュー作はメディアにも評判が高いようで、Pitchforkでも高い評価を得ており、気になったので聴いてみました。ちなみに既に昨年、日本にも来日を果たし、一部では「知る人ぞ知る」的なラッパーとなっているようです。

Chance the Rapperのアルバムに参加、ということもあって、タイプ的にはいかにも「今風」なラッパーなのかなぁ、と今回のアルバムを聴く前は漠然と考えていました。しかし、実際に聴いてみるとタイプ的には大違い。シカゴ出身のラッパーといっても、他のシカゴ出身のラッパー含め、最近の流行のスタイルとはかなりイメージの異なるタイプのラップを聴かせてくれます。

まずアルバムはいきなりネオソウル風のメロウなコーラスとサウンドからスタートする点に驚かされます。そしてそれに続くNonameのラップは、ラップとポエトリーリーディングの中間を行くような、いわば「語る」ようなラップ。優しさを感じるその声に、まずは大きく惹かれます。

この「語る」ようなラップが個人的にはかなり壺。「Window」「Don't Forget About Me」などでもポエトリーリーディングにも近いようなラップスタイルを聴かせてくれるのですが、ひとつひとつの言葉をしっかり語るように綴るスタイルに個人的には好印象。ただ単純に語るだけではなく、しっかりとリズムにのせており「ラップ」している点も特筆すべきでしょう。

トラックもジャズやネオソウルなどの影響の強いメロウなトラック。ベースラインを強調していたり、それなりに今風にアップデートするスタイルは感じるのですが、今流行りのトラップ的な要素は皆無。ただ、メロウで実に美しいトラックにはとても耳を惹きつけられるものがあります。

後半には「Montego Bae」「Part Of Me」のような歌モノも登場。少々トライバルなリズムも印象的なナンバーなのですが、美メロともいえるメロディーラインを聴かせてくれており、R&Bのミュージシャンとして歌でも十分勝負できそうな力量と歌心を感じます。

そしてラストを飾るセルフタイトルともえいる「No Name」も実に素晴らしい名曲。最初は静かなピアノのインストからスタートし、途中で彼女のラップも登場。後半は男性R&シンガーAdam Nessとのデゥオで締めくくられます。歌もサウンドも美しく聴かせるナンバーで、最後を締めくくるにふさわしい、心に残る名曲に仕上がっています。

「刺激的で新しい」というタイプのラップではないかもしれませんが、彼女の語るようなラップもメロウなトラックも歌も、心に響いてくるとても優しい曲を聴かせてくれます。HIP HOPでありながらも歌心あふれる楽曲の連続で、HIP HOPリスナー以上にソウルやジャズ系の曲が好きな方が気に入りそうなアルバム。私もすっかり気に入りました。傑作です。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

QUARTERTHING/Joey Purp

Quarterthing

Chance the Rapperを抱えるクルー、Save Moneyのひとりとして注目を集める若手ラッパー、Joey Purp。いままでMix Tapeのみのリリースでしたが、本作がスタジオアルバムでもデビュー作だとか。もっともいままでのMix Tape同様、CDでのリリースはなく、配信オンリーでのリリースだそうです。

サウンドは今時のトラップ的な要素を取り入れつつ、リズミカルで軽快なラップ。トラップ的なハイトーンのスネアの音もそうですが、全体的にハイトーン気味のシンプルなミニマルテイストのサウンドで軽快に聴かせてくれます。全36分という長さも試しに聴いてみるにはちょうど良く、いい意味でポップで聴きやすいアルバムに仕上がっています。これからの活躍も楽しみです。

評価:★★★★★

MY MIND MAKES NOISES/Pale Waves

最近、特に日本でメディアにおいてよく取り上げられているイギリスの新人バンドPale Wavesのデビュー作。女性ボーカルを中心とした4人組のバンドで、80年代あるいは90年代を彷彿とさせるような、ちょっと懐かしい雰囲気のあるエレクトロ・ガールズポップを奏でています。同じレーベルのThe 1975との類似性を言われることも多いようですが、またChvrchesともかぶるような部分も。確かに軽快で明るいポップソングは聴いていて素直に楽しめるのですが、最近よくありがち・・・と思ってしまったのも事実。ゴシックロックをイメージしたルックスに強いインパクトがあるバンドですが、楽曲自体にもう一歩のインパクトも欲しいところかも。

評価:★★★★

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2018年10月29日 (月)

60歳を迎えた今だからこそ

Title:True Meanings
Musician:Paul Weller

イギリスロック界のボス的存在のポール・ウェラー兄貴。パンクバンドThe Jamのボーカリストとしてデビュー後、The Style Councilとしての活動を経て、現在ではソロで活動している彼。いまでも1,2年、長くて3年に1枚くらいのペースでコンスタントにアルバムをリリースしているだけではなく、いずれもアルバムも全英チャートでは上位に食い込んでくるから驚きです。そしてそんな彼のどの作品もしっかりと現役感のある作品に仕上がっています。

しかし、そんな彼の約1年ぶりとなるニューアルバムはちょっと驚かされました。1曲目「The Soul Searchers」からいきなりアコースティックギターをベースとした物悲しいメロディーラインでスタート。続く「Glide」も美しいアコギのアルペジオを聴かせるフォーキーなナンバーに。優しく歌う彼のボーカルも、いつもの「兄貴!」といった感じよりも、ちょっと失礼ながら「おじいちゃん」に近い雰囲気すらあります。

その後も基本的にアコースティックなアレンジで「歌」を聴かせるような楽曲が並びます。もちろんフォーキーな雰囲気のナンバーだけではなく、例えば「Old Castles」はバンドサウンドが入り、ムーディーな雰囲気で聴かせる楽曲に。女性ボーカルが加わる「Books」のように、シタールの音色も入ってエキゾチックな雰囲気に仕上がる楽曲もあります。ただ、基本的には先行シングルとなった「Aspects」やピアノとアコギの音色が美しい「Bowie」など、シンプルに歌を聴かせる、レイドバックした曲が続きます。

いままでももちろんアルバムの中でアコースティックなナンバーは聴かせてくれています。ただ、ここまで全面的にアコースティックに仕上げたアルバムははじめて。歌詞も全体的に内省的なものが多いようで、インタビューでは本人曰く、このような内省的なアルバムになったのは「60歳を迎えたことが大きい」とのこと。「個人的なアルバムを作るべき時期があるとしたら、今しかないと思った」とも語っています。

そんないつもの彼とはちょっと違うスタイルの本作ですが、「歌」が前面に出た結果、メロディーラインがとても美しいポップチューンが並んでいました。「Glide」や「Bowie」などフォーキーな作品のほかにもストリングスを取り入れた「May Love Travel With You」なども美メロとも称すべき、素晴らしいメロディーラインを聴かせてくれます。本作ではまさにメロディーメイカーとしての本領が発揮された傑作というべき作品になっていました。

もっとも彼曰く、このような作風のアルバムは今回でお終い。次回作以降はいままでと同様の前向きな作風に戻るということですので、いままでの彼の作風が好きな方はご安心を。もっとも「いままでと同様」と言ってもアルバム毎にいろいろなスタイルを聴かせてくれる彼なだけに、今後もどのようなアルバムが聴けるのか、いまから楽しみにしていたいところ。とりあえずは今は、本作でじっくりと彼の歌声と美しいメロディーを味わいたいところです。

評価:★★★★★

Paul Weller 過去の作品
22 DREAMS
Wake Up The Nation
Sonik Kicks
A Kind Revolution


ほかに聴いたアルバム

And Nothing Hurt/Spiritualized

約6年半ぶり、少々久しぶりとなったSpiritualizedの新作。ここ最近、比較的シンプルなギターロック路線が続いた彼らですが、今回のアルバムも「On The Sunshine」のようなギターノイズを前に出した、若干サイケな路線の曲もありつつ、基本的にはシンプルなギターロック路線が継続されています。どの曲もメロディアスでポップなメロディーラインが心地よいのですが、全体的に個性は薄め。いいアルバムだとは思うんですが、もうちょっとガツンと来るようなインパクトが欲しかったような。

評価:★★★★

Spiritualized 過去の作品
Songs in A&E
Sweet Heart Sweet Light

Safe In The Hands of Love/Yves Tumor

本作よりWarpからアルバムがリリースされることとなったアメリカ出身、イタリア在住のミュージシャン。「エクスペリメンタル・ソウル」「ゴシック・ポップ」などという表現をされることの多い独特かつ実験的なサウンドが特徴的で、ソウル、ジャズ、ノイズ、ミニマルミュージックなどの要素を融合。ダイナミックなサウンドも印象に残ります。「歌モノ」の楽曲もあるものの、基本的にはボーカルラインもサウンドと同一に並べたような「インスト」の作品がメイン。正直言うとちょっと取っつきにくさは否めないのですが、今後次第ではよりおもしろくなりそうな可能性も感じる作品でした。

評価:★★★★

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2018年10月27日 (土)

いままでにないシンプルな作風だが

Title:Raise Vibration
Musician:Lenny Kravitz

かつてはグラミー賞を受賞し、アルバム毎に大ヒットを記録。日本でも楽曲がCMソングに採用されるなど高い人気を誇っていたロックミュージシャン、レニー・クラヴィッツ。ただ残念ながら最近では人気の面ではちょっと落ち着いたような印象を受けます。そんな彼の約4年ぶりとなるニューアルバムがリリースされました。

レニー・クラヴィッツの楽曲と言えば、ゴリゴリのギターリフとファンキーなリズムに載せて繰り出されるロックサウンドが特徴的。ある意味、「これぞロック」といった感じのわかりやすいスタイルが強いインパクトを持っており、良くも悪くも「ベタ」という印象を強く受けました。

しかし、今回のアルバムに関してはそういう「わかりやすい」レニー・クラヴィッツ節ともいうようなスタイルに出会うことはほとんどありません。確かに1曲目の「We Can Get It All Together」はノイジーなギターサウンドを前に押し出した、いかにもなギターロックナンバーですし、続く「Low」でもファンキーなリズムを聴くことが出来ます。ただし、どちらの楽曲にしてもゴリゴリのギターリフを聴かせるとか、とにかくこれでもかというほどのファンクのリズムを聴かせるというスタイルはなく、比較的シンプルな雰囲気にまとめ上げています。

今回のアルバムはいわばギミック的な側面をほとんど排除し、シンプルなギターロックに終始したアルバムに仕上がっていました。その後もタイトルナンバーである「Raise Vibration」も最初は彼らしいギターリフからスタートするものの、あくまでもシンプルなギターロックナンバーにまとめあげていますし、さらに「Johnny Cash」「Here to Love」はミディアムテンポで聴かせるナンバー。いずれも彼のメロディーセンスがキラリと光るような楽曲に仕上がっています。

この傾向は後半も続き、「The Majesty of Love」のようなホーンセッションを入れたファンキーなナンバーが一種のインパクトとなっているものの、「5 More Days 'Til Summer」「Gold Dust」のようなメロディーを主軸としたシンプルなギターロックナンバーがメイン。ラストの「I'll Always Be Inside Your Soul」もメロウに聴かせるソウルバラードで締めくくられています。

アルバム全体としては非常にシンプルな印象を受けるアルバムであり、派手さはほとんどありませんし、インパクトのある曲もありません。ただシンプルなだけにレニーのメロディーメイカーとしての実力が良くわかるアルバムになっていたと思います。ある意味、ギミック的な部分を排除した結果、レニー・クラヴィッツというミュージシャンのコアな部分がより表にあらわれた作品といってもいいかもしれません。

ここ最近の彼のアルバムは正直なところマンネリ傾向が強く、悪くないけど・・・という煮え切らない印象を強く持っていました。しかし、そんな中でこのアルバムはインパクトこそ薄いものの彼の良さがより出ていた久々の傑作アルバムになっていたと思います。一時期に比べて人気の面で落ち着いた彼。本作も目立つアルバムではないので人気回復の起爆剤としては難しいかもしれません。ただこのような良作を作り続ければ、次第に人気はまた上向きに回復していきそう・・・。これからもまだまだ彼の活躍から目を離せなさそうです。

評価:★★★★★

Lenny Kravitz 過去の作品
Black and White America
Strut

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2018年10月26日 (金)

曲の世界を旅するような

Title:Egypt Station
Musician;Paul McCartney

御年72歳を過ぎてもいまだに元気なポール・マッカートニー。 前作「NEW」リリース後も積極的に来日公演を行っており、その元気なほどを日本のファンにも見せています。今年も来日公演の決まった彼ですが、そんな彼の約5年ぶりとなるニューアルバムがリリースされました。

「エジプト・ステーション」と名付けられた今回のアルバム。1曲目は駅の風景をそのまま録音したようなイントロからスタートするのですが、まさに駅から列車に乗って旅をすることをイメージしたコンセプチュアルな作品に仕上がっています。彼自身インタビューで今回のアルバムのことを、「1曲目の駅から出発して、それぞれの曲がまるで違う駅のようなんだ」と語っていますが、まさに彼の曲の世界を旅するような、そんなアルバムと言ってもいいでしょうか。

そしてそんな今回のアルバムはポップス職員としてのポールマッカートニーの本領が発揮されたアルバムになっていました。前作「NEW」ではエレクトロサウンドを取り入れて、タイトル通り、今時の音にアップデートしようとしていました。今回のアルバムでもグレッグ・カースティンやライアン・テダーといった流行りのプロデューサー陣の力を借りつつ、ただ全体としてはあくまでもメロディアスに「歌」を聴かせる作品に仕上がっていました。

まずオープニングに続く「I Don't Know」からしてピアノ主体のポップチューン。暖かみのあるちょっと切ないメロディーラインが心に響くナンバーになっています。かと思えば続く「Come On To Me」は軽快なギターサウンドが耳に残るロックンロールのテイストが強いナンバーに。さらに続く「Happy With You」はシンプルなアコギでメロディアスに聴かせるフォーキーなナンバーに、とまさに彼が言うように、「違う駅」のように様々なタイプの曲が続いていきます。

特に後半に行くに従い、様々な音を入れたユニークなナンバーが増えていき、例えば「Back In Brazil」ではちょっとラテン風のリズムの軽快な打ち込みのナンバーが入ったり(ちなみに歌詞になぜか日本語で「Ichiban!」が登場してきます・・・)、さらには「Despite Repeated Warnings」ではミディアムテンポの落ち着いたメロディアスなナンバーながらもストリングスやピアノやホーンなど様々な音を入れ、分厚く構成。楽曲的にも中盤いきなりテンポがかわったり、曲調も変化したりと複雑なナンバーに。ただメロは至ってポップで、どこかビートルズを彷彿とさせるようなナンバーになっています。

さらに「Caesar Rock」では御年70歳を超えてシャウト気味のロックなボーカルを聴かせてくれますし、ラストの「Hunt You Down/Naked/C-Link」も序盤はロッキンに、中盤、ピアノでメロディアスに、さらに後半はブルージーにと、タイトル通り3つの曲が合わさったかのようなユニークな構成の楽曲に。まさにアルバムのコンセプト通り、様々な曲の世界を旅しているかのような構成になっていました。

さすがに70歳を超えた彼なだけにボーカリストとして声には残念ながら少々年齢を感じさせる部分も否定できません。最初は正直ちょっとこの点は気にかかりました。ただ、曲を聴き続けるにつれて、楽しいポップチューンの連続で、この声の部分は徐々に気にならなくなります。というよりも、楽曲的にこの「声」に合わせたかのような、いい意味で老成した雰囲気も感じられるような曲が多かったように感じました。

そんな訳で、様々なタイプの曲が並びつつ、どれも素晴らしくメロディアスなポップチューンが並ぶ、まさにポップ職人としてのポールの本領が発揮された傑作だったと思います。さすがに70歳を超えるとこれが最後の・・・なんてことを頭によぎってしまいますが、でもこれだけの傑作をリリースできるんだから、まだまだ次回作も期待できそうですね。まだまだ彼の活躍は続きそうです。

評価:★★★★★

PAUL McCARTNEY 過去の作品
Good Evening New York City
NEW


ほかに聴いたアルバム

Let's Go Sunshine/THE KOOKS

イギリスのギターロックバンドによる約4年ぶりのニューアルバム。もともと非常にシンプルなギターロックが持ち味のバンドでしたが、今回のアルバムは序盤いきなり、アイドルポップか?と思うほどの爽やかなポップチューンからスタート。少々驚かされます。その後も基本的にシンプルで爽快感あるポップな曲が多く、いままで以上にポップ寄りのアルバムに。ただしラスト3曲はいかにもイギリスのギターロックらしいメロディアスなメロとほどよくノイジーなギターを押し出したバンドサウンドを聴かせるロックなナンバーになっており、UKロック好きなら気に入りそうな楽曲で締めくくっていました。

評価:★★★★

THE KOOKS 過去の作品
Konk
Junk of the Heart
The Best of...So Far

KIN/MOGWAI

以前からちょくちょく映画やらテレビ番組やらへの楽曲提供を行い、サントラ盤もリリースしている彼ら。本作は映画「KIN」のサントラ盤。映画のサントラ盤ということもあり、全体的に静かな雰囲気の曲調となっており、特に前半はピアノで静かに聴かせるような曲調となっています。ただ、後半はギターノイズを聴かせるダイナミックな曲調を聴かせてくれたりして、MOGWAIらしさはきちんと健在。映画のサントラによくありがちなBGM的な薄っぺらい内容ではなく、劇伴としての役割を果たしつつ、要所要所にMOGWAIらしさを入れた作品になっています。オリジナルに比べるとさすがに物足りなさはあるかもしれませんが、ファンとしてはとりあえずは聴いておくべき、間違いなく「MOGWAIのアルバム」です。

評価:★★★★

MOGWAI 過去の作品
The Hawk Is Howling
HARDCORE WILL NEVER DIE,BUT YOU WILL
Live at All Tomorrow's Parties,9th April 2000
Earth Division EP
Rave Tapes
Les Revenants
CENTRAL BELTERS
ATOMIC
Every Country's Sun

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2018年10月20日 (土)

全方向にディス

Title:Kamikaze
Musician:EMINEM

8月に急きょ配信でリリースされ話題となったEMINEMのニューアルバム。昨年12月に久々となるニューアルバム「Revival」をリリースしましたが、そこからわずか約8ヶ月というスパンでリリースされたアルバムということになります。事前アナウンスなしの突然のリリースという形態も話題になりましたが、あきらかにBeastie Boysの「Licensed to Ill」のオマージュとも言えるジャケットにも目を惹きます。また、日本人としては「Kamikaze」というタイトルもまずは大きな印象が残りました。

さて前作「Revival」ですが、売上的にはビルボードチャートで1位を獲得するなど大成功する結果となった作品。ただし評論家筋には相当評判が悪かったようで、各種メディアでは残念ながら酷評となったそうです。実際、日本のメディアでも芳しい評判は受けられていませんでした。

そんな世間の評判に怒ってリリースされたのが今回のアルバム。残念ながら配信オンリーのリリースであったため、歌詞について詳しい内容はわからないのですが、冒頭の「The Ringer」「Greatest」などはまさにそんな「Revival」を酷評したメディアなどに対する強烈なディスになっているとか。さらに彼のディズはそれにとどまらず、人気のラッパーを数多く標的にしています。タイトルチューンの「Kamikaze」ではDrakeをディスっているそうですし、「Fall」ではTyler, The Creatorをディス。ほかにも多くの若手ラッパーをディスっているらしく、まさに全方面にディスりまくりのアルバムとなっているそうです。

怒りの表現によりわかりやすく自分の感情を吐露したアルバムになっている本作。配信オンリーで急きょリリースしたのは、まさに「今現在」彼が抱えている思いを綴ったアルバムなだけに、その瞬間にリリースしないと意味がない、ということもあるのでしょう。また、先日第2弾を紹介した「文科系のためのヒップホップ入門」の中で、ラップは場を楽しむゲームだ、ということが語られているのですが、「Revival」という酷評に対しする反論を、ラップというゲームの場に引きずり上げているのもエミネムらしさを感じます。

日本人には残念ながらここらへんの「ゲーム」は歌詞の内容がわからない状況ですぐに理解するのは難しいのですが、今回のアルバムはリリックがわからないような状況でも十二分に楽しめる内容だったと思います。わかりやすいビート感あるテンポよく力強いラップは、やはりついつい惹きこまれてしまいます。映画「ヴェノム」の主題歌にもなっている「Venom」のようにダイナミックなサウンドに耳を惹かれるような楽曲も多く、いい意味でHIP HOPリスナー層以外にも訴求できるようなわかりやすい楽曲も目立ちます。特に「Lucky You」などで聴くことが出来る超絶なラップスキルは素人でもわかりやすい形で披露されています。

ほかにも「Stepping Stone」のような歌モノもあったりして、メロディーが魅力的に感じる曲も少なくありません。一方では「Not Alike」では最近流行のトラップ的なサウンドを入れてきており、今時のサウンドにもアップデートしています。ここらへん、前作「Revival」では良くも悪くもオールドスタイルを貫いていた印象もあっただけに、前作とは対照的な部分にも感じられました。

残念ながら現時点で歌詞について詳しい内容はわからないものの、11月には国内盤がリリース予定で、さらに今回は全訳付きだとか(!)。前作「Revival」は国内盤リリースがアメリカでのリリース時より差があった癖に訳がついておらず、その点を前作のレビューではかなり酷評したのですが、今回は無事、全訳がついている模様。その点はかなり安心しました。今回、本作はSpotifyで聴いたのですが、全訳目当てにCDで購入し直す予定。ともかくいろいろな意味でEMINEMらしさが全開となった今回のアルバム。めまぐるしく変化していくHIP HOPシーンですが、その中でもまだまだ彼の立場は健在のようです。

評価:★★★★★

EMINEM 過去の作品
RELAPSE
RECOVERY

THE MARSHALL MATHERS LP 2
REVIVAL


ほかに聴いたアルバム

2017年に創立70周年を迎えたアトランティック・レコード。60年代から70年代にかけては数多くのソウル/R&Bの名曲を世に送り出した名門なのですが、その70周年を記念して1964年から72年まで、ほぼ1年区切りでアトランティック・レコードのシングル集を10作品リリース。今回はその第1弾の紹介です。

500 Atlantic R&B/Soul Singles Vol.1 1964-65

まずこちらは第1弾。タイトル通り、1964年から65年にリリースされたシングル50曲を収録。

500 Atlantic R&B/Soul Singles Vol.2 1965

こちらは第2弾。1965年にリリースされたシングル50曲を収録されています。

楽曲的にはパワフルなソウルナンバーやバラード。さらにメロウに聴かせる甘いポップナンバーなど数多くの曲が収録。R&B/ソウルといってもその幅広さを感じさせますし、なによりもいい意味で強いポピュラリティーを感じさせる名曲が揃っています。さらにやはり時節柄でしょうか、当時流行していたモータウンの後追いのような軽快なガールズポップもちらほら収録されている点もユニーク。ただそんな曲もどこかソウルな要素を強く感じる曲となっており、モータウンとは違った魅力あふれる曲となっています。

ただそんな中でも特にSolomon BurkeやOtis Reddingはボーカルの力強さはもちろんのこと、その豊かな表現力でもこうやってコンピの中で比べて聴くと、頭ひとつ出ているような印象も。もちろんほかにも魅力的なシンガーがズラリと並んでおり、R&B/ソウル好きならたまらないコンピレーションアルバムとなっていました。

評価:どちらも★★★★★

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2018年10月19日 (金)

延べ8時間のオウテカ体験

Title:NTS Sessions 1-4
Musician:Autechre

オウテカの最新作はある意味すさまじい作品です。ロンドンのラジオ局「NTS Radio」に4回にわたって出演し、それぞれセッションを実施。「NTS Sessions」と名付けられたこれらのセッションは、1回につき2時間、延べ8時間にわたるセッションになりました。本作はそれをCDに収録したもの。1度のセッションにつきCD2枚組、計8枚組となる作品で、全部聴くと8時間にも及ぶアルバムになっています。

本作は8時間にもわたる作品ながらも、全曲新曲によるオリジナルアルバム。ある意味、その創作意欲は驚異的とも言えます。彼らは前作「elseq 1–5」(こちらは未聴)も5枚組5時間にも及ぶ内容でしたし、その前作「Exai」も2時間という大作。どんどん長くなる傾向にあるのですが、全8時間というのは行き着くところまで行き着いたといった感じでしょうか。

ただ、正直言ってしまうと、さすがに8時間は長すぎ・・・。全体的に淡々と同じ調子で展開していくような曲が多く、聴いていてさすがにダレてしまいました。楽曲は2分程度の短い曲もある一方、概ね10分程度の長尺の曲がほとんど。特にラストの(タイトルどおり)「all end」はなんと1曲が58分にも及ぶ大作・・・なんですが、ノイズの音が少し濃淡を加えて展開していくだけでひたすら同じ調子で淡々と展開していくのみ。さすがに聴いていてちょっと厳しいものがありました。

Session 4まであるのですが、全体を聴いてみて一番よく出来ているのがやはりSession 1。ミニマルなサウンドが目立つのですが、例えば「bqbqbq」では彼ららしい無機質なサウンドの中にどこかメロディーを感じることが出来るのもオウテカの大きな魅力。「north spiral」ではファンキーな要素も感じますし、特に「gonk steady one」では22分にも及ぶ長尺の曲ながらも、メタリックなサウンドからスタートし、途中、ロック的なサウンドも顔を覗かせたりしてバラエティー富んだ展開になっている楽曲。長い曲ですが飽きずに聴くことが出来ます。

その後も要所要所にオウテカのユニークなアイディアを楽しめる曲は顔を覗かせます。例えばSession 2の「elyc9 7hres」はどこか昔のゲームミュージックみたいな雰囲気を感じさせる楽しい曲になっていますし、「violvoic」もよりアバンギャルドさを増したサウンドが耳を惹きます。オウテカ自体はこれだけボリューム感あるアルバムをつくってくるあたり、決して調子は悪くないのでしょう。ただ、さすがに8時間通じて聴けないので、ちょっとずつ順番に聴いていったのですが、最初聴き始めは「これはカッコいい!」と感じても、徐々に飽きてしまうような展開が続いています。似たような雰囲気を感じる曲も多く、そういう意味ではこのアルバムをもっと凝縮すれば、傑作アルバムになったのにな、と残念に感じます。

多分、まとめて1時間程度の長さにすれば、文句なしの傑作になっていたと思いますし、2時間程度にまとめても良作に仕上がっていたと思います。しかし如何せん、8時間は長すぎる・・・。かなり淡々と続いていくような曲も多く、片手間で聴くようなラジオプログラムということも影響したのかもしれませんが、少なくともCDでしっかりと聴くにはちょっと向いていないようにも感じました。

彼らの才能は決して衰えた訳ではないと思うのですが・・・惜しい印象も受けるアルバム。次回作はもっとシンプルに1時間程度のアルバムを期待したいところ。ここ最近続く長尺傾向に拍車がかかり10時間超え、とかはさすがに勘弁してほしいのですが・・・。

評価:★★★

Autechre 過去の作品
Quaristice
Oversteps
move of ten
Exai


ほかに聴いたアルバム

Woman Worldwide/Justice

フレンチ・エレクトロのミュージシャン、Justiceの最新作は、過去の楽曲を再レコーディングしたアルバム。それもライブを通じてリアレンジされた楽曲を、スタジオ・ライブという形で収録されたアルバムだそうで、彼らの楽曲が新たに生まれ変わっています。とはいえ、基本的にはいままでの彼らの楽曲のイメージからは大きく変わっておらず、目新しさのようなものはありません。ただし、ライブ感を最重要視したアルバムとなっており、難しいこと抜きに素直にリズミカルなフレンチ・エレクトロのサウンドを楽しめるアルバムに。ライブ、とても楽しそうだなぁ。

評価:★★★★

JUSTICE 過去の作品
CROSS
Woman

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2018年10月11日 (木)

ミスチルが堂々の1位獲得

今週のアルバムチャート

http://www.oricon.co.jp/rank/ja/

先週まで4週連続K-POPのアルバムが1位を獲得していましたが、今週は日本を代表するミュージシャンのアルバムが堂々の1位獲得です。

今週1位を獲得したのはMr.Children「重力と呼吸」。約3年4ヶ月ぶりとなるニューアルバムが堂々の1位。初動売上は30万9千枚で、前作「REFLECTION」の35万5千枚からは若干ダウンしてしまいました。もっとも前々作「[(an imitation) blood orange]」は初動53万枚だったので、前々作から前作にかけての大幅ダウンに比べると、下げ止まった感はありますが・・・。

2位3位はゲームのキャラソン。男性俳優育成ゲーム「A3!」からのキャラクターソング集「A3! VIVID SPRING EP」「A3! VIVID SUMMER EP」がそれぞれランクイン。初動売上はそれぞれ3万枚、2万7千枚。前作は同じく2作同時ランクインした「A3! Blooming AUTUMN EP」「A3! Blooming WINTER EP」で、前作の初動2万5千枚、2万4千枚からアップしています。

続いて4位初登場です。4位は氷川きよし「新・演歌名曲コレクション8-冬のペガサス-勝負の花道~オーケストラ」がランクイン。演歌の名曲のカバーと彼のオリジナルが収録された「名曲コレクション」シリーズの最新作。初動売上1万8千枚は前作「新・演歌名曲コレクション7-勝負の花道-」の2万2千枚(5位)からダウン。

5位には韓国の男性アイドルグループWINNER「EVERYD4Y」がランクイン。4月に韓国でリリースされた同名のアルバムの日本語ヴァージョン。初動売上は1万5千枚。前作は韓国でリリースされた同作をそのまま国内盤としてリリースした「EVERYD4Y -KR EDITION-」で、こちらの初動2千枚(22位)より大幅アップ。純然たるオリジナルアルバムの前作「OUR TWENTY FOR」の1万2千枚(5位)よりもアップしています。

6位は女性声優麻倉もも「Peachy!」がランクイン。声優ユニットTraySailのメンバーとして活動。またソロとしてもいままで4枚のシングルをリリースしていますが、ソロでのアルバムは本作が初。初動売上1万3千枚で見事ベスト10入りです。

7位にはゴスペラーズ「What The World Needs Now」がランクイン。オリコンでは9月26日リリースとされ、初登場ではなく先週からランクアップしてのベスト10入りという形になっていますが、これは9月26日に先行リリースという形でLP盤がリリースされていた影響。CDは10月3日付リリースなので、CDリリースにあわせてのベスト10入りとなりました。

最近はアルバムはLPと配信のみというミュージシャンが出てくる中、ゴスペラーズのようなメジャーどころもLPを優先するんですね。当然のごとくサブスクリプションでもリリースしていますし。LP盤の先行リリースというアルバム、今後は徐々に増えていきそうです。

なお、今週の売上枚数は1万2千枚ですが、こちらが事実上の初動売上。前作「Soul Renaissance」の1万5千枚(5位)からダウンとなっています。

初登場最後は8位。アルスマグナ「アルスミュージアム」がランクイン。ニコニコ動画の「踊ってみた」で人気を博した男性5人組グループ。初動売上1万2千枚は前作「アルスロットル」の1万枚(11位)からアップ。前々作「アルス上々↑↑↑」以来2作ぶりのベスト10入りとなりました。

今週の初登場は以上ですが、最後にロングヒット組。安室奈美恵「Finally」は今週、10位にダウン。残念ながら売上枚数も2万2千枚にダウンしています。ただこのアルバム、リリースが昨年の11月とそろそろ1年に迫ろうかという頃。いまだにベスト10に顔を見せる驚異的なヒットには驚かされます。

今週のアルバムチャートは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2018年10月 6日 (土)

アラブ、アフリカ、西洋が融合

Title:El Ndjoum
Musician:Sofiane Saidi&Mazalda

今日紹介するのは、ワールドミュージックのミュージシャン。パリ在住のアルジェリア人ライ歌手、Sofiane Saidi(ソフィアン・サイディ)です。女性の顔がジャケットになっているので、その人がソフィアン・サイディかと思いきや、流れてきたのはおもいっきりおじさんの声。なんでも40代後半くらいの男性歌手。ライとはアルジェリア西部のオラン地方起源のポピュラー音楽。90年代のイスラム原理主義の伸長により多くのミュージシャンがフランスに移住し、活動を続けているとか。彼もそんなミュージシャンの一人ということなのでしょう。

アラブ音楽からの影響を強く受けているのがライの特徴のようで、本作も最初、「Wahdi Ana W Galbi」のスタートはアラビア音楽のような哀愁感あふれる笛の音色からスタート。ソフィアンのボーカルも哀愁感あふれる歌声を聴かせてくれています。続く「El Ndjoum」もリズミカルなダンスチューンなのですが、軽快なパーカッションのリズムにのせて歌われるメロディーやサウンドは中近東的なエキゾチックさがあふれる音楽。アラブ系の音楽らしいこぶし聴いたボーカルと哀愁感あるメロディーが大きな魅力になっています。

ただ一方ではアフリカ的なリズムが同時に加わっている点も大きな魅力に感じます。例えば前述の「El Ndjoum」のパーカッションなどはトライバルな要素を強く感じますし、「Yamma」などはリズミカルなパーカッションにはアフロビート的なリズムを感じますし、「Gasbah Trinsiti」のリズムにも同じくアフリカ音楽的な要素を強く感じます。ここらへん、アラビアとアフリカの文化の交差点で生まれた音楽のような大きな魅力を感じることが出来ます。

あともうひとつユニークなのは基本的に生音主体。また最近、ライのミュージシャンでは声にエフェクトをかける、いわゆる「ロボ声」が流行っているようなのですが、完全に生声でロボ声はなし。泥臭さを感じるソフィアンのボーカルが大きな魅力となっています。ただその一方ではシンセのサウンドは要所要所に取り入れており、例えば「Bourkan」はシンセのリズムやサウンドが楽曲全編に。さらに「La classe Fi Las Vegas」は完全なディスコチューンになっています。

また、シンセを取り入れたナンバーに関してはワールドミュージック的な独特の癖のある要素は薄くなり、むしろ西洋音楽的な垢抜けたポップチューンになっている点も大きな特徴に感じます。そのため、彼のボーカルや生音により、最初アルバムを聴きはじめたころは泥臭いなぁ、と強く感じさせる一方、中盤以降に関してはむしろ垢抜けた雰囲気さえ感じるアルバムになっていました。

ここらへん、アラビア、アフリカ、さらに西洋という文化が混じり合ったサウンドというのが最大の魅力といった感じでしょうか。アルバムの中に様々な音楽的な要素が入り、非常にユニークなアルバムに感じます。最初、ちょっと取っつきにくさも感じる部分もあるのですが、アルバムを最後まで聴くと、いい意味で意外な聴きやすさを感じ、はまってしまうようなそんな1枚でした。

評価:★★★★★

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2018年10月 2日 (火)

HIP HOP界の女王(Queen)降臨

Title:Queen
Musician:Nicki Minaj

正直言って思わずそのダイナマイト・ボディーに目が釘付けになってしまいます。おそらく今、女性ラッパーの代表格ともいえるニッキー・ミナージュの約4年ぶりとなるニューアルバム。タイトルの「Queen」はまさに今の彼女のヒップホップシーンにおける位置づけを表しているといってもいいのでしょうか。またそのダイナマイト・ボディーはもちろんのことながらも、クレオパトラを模したと思われるようなその衣装にも目が行きます。

さてそんな「女王」ゆえでしょうか、本作でもまずは豪華なゲスト勢に目がいきます。「Majesty」ではあのEMINEMが参加。力強いラップで、聴いていて一発で彼だとわかるの点でも強いEMINEMの個性を感じさせますし、また彼女の力強いラップも決してENIMEMに負けていません。「Bed」ではアリアナ・グランデが参加。リズミカルにラップするニッキーと一緒にその透き通る歌声を聴かせてくれています。

そんなちょっと久々となる彼女の新作。彼女のアルバムは以前から比較的ポップテイストが強く、いい意味で聴きやすいという印象を受けていました。今回のアルバムも全体として比較的ポップで聴きやすいアルバムに仕上がっていたかと思います。例えば「Chun Swae」は哀愁感あふれる歌が前に出ている楽曲に仕上がっていますし、「Nip Tuck」もメロディアスな歌を聴かせてくれています。特に「Come See About Me」は伸びやかな歌声を聴かせてくれる歌モノのR&Bバラード。アルバムの中でも歌モノが目立ちます。

もっともそんな歌モノのナンバー以外でも基本的にリズミカルで勢いのあるラップが多く、HIP HOPを普段聴かないようなリスナー層でも十分楽しめそうなナンバーが揃っています。例えば「Barbie Dreams」はシンプルなトラックでリズミカルなラップが楽しめますし、「LLC」なども勢いがあり力強いラップに聴いているだけで惹き込まれます。

また彼女の楽曲は本作に限らずポップ寄りのアルバムが多かったのですが、その中でも今回のアルバムは比較的HIP HOP寄りという印象も受けます。またここ最近の流行りなのですが、トラップの要素を強く入れてきており、「Chun-Li」「Sir」などトラップの曲も目立ちます。特に「Sir」ではトラップの代表的なミュージシャンであるFutureをフューチャーしてきており、そういう意味でも今の時代にしっかりとアップデートしてきているアルバムという印象を受けました。

現在のHIP HOPをしっかりと取り入れつつ、いままでの彼女らしいポップな側面も残したアルバム。HIP HOP的な部分とポップな部分をしっかりと両立させたバランスの良いアルバムだったように感じます。そういう意味でも彼女の良さがしっかりと表れた傑作アルバムだったように感じました。まさにタイトル通り、HIP HOP界のクイーンとしての実力を見せつけたアルバムでした。

評価:★★★★★

Nicki Minaj 過去の作品
Pink Friday
Pink Friday:Roman Reloaded


ほかに聴いたアルバム

Tangerine Reef/Animal Collective

アルバム毎に高い評価を受けるアメリカのインディーロックバンドAnimal Collectiveの新作。アバンギャルドさを感じるエレクトロサウンドを聴かせつつ、ポップにまとめあげている楽曲が彼らの大きな特徴でしたが、今回のアルバムはエレクトロサウンドのノイズを前面に押し出したような作風。そのため実験的な要素が強く、残念ながら聴いていてあまり楽しめませんでした。同じく実験的だった前々作「CENTIPEDE HZ」は過剰な音の世界だったに対して、今回は比較的トラックは静かで落ち着いたものとなっており、そういう意味ではあまり不快さはなかったのですが・・・。良くも悪くもアルバム毎に振れ幅があるミュージシャンだなぁ。

評価:★★★

Animal Collective 過去の作品
Merriweather Post Pavilion
CENTIPEDE HZ
Painting With
The Paniters EP

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