St.Vincentの本質的な部分が現れた傑作
Title:MassEducation
Musician:St.Vincent
アルバムがリリースされた度に大きな話題となり、今、最も注目される女性ロックミュージシャンの一人となったSt.Vincent。昨年リリースされた「MASSEDUCTION」も高い評価を得て、なんとビルボードチャートでベスト10ヒットを記録するなど売上面でも大ヒットを記録しました。
本作はその直近作「MASSEDUCTION」を全編、ピアノ、アコースティックアレンジとして収録したリアレンジアルバム。パッと見、「MASSEDUCTION」と大文字小文字の使い方が変わっただけ・・・と思いきや、こちらは「MassEducation」と「a」の文字がひとつ加わっています。ちなみに「MASSEDUCTION」は「MASS」(大衆)と「SEDUCITON」(誘惑する)をあわせた造語。一方、「Mass education」は「大衆教育」という一般名称のようです。
今回のアルバムは、そんな訳で「MASSEDUCTION」の収録曲があらためてピアノ・アコースティックアレンジとして収録されているのですが、これが雰囲気がガラッと変わり、印象が全く異なるアルバムに仕上がっています。
「MASSEDUCTION」はエレクトロサウンドも入り、曲によってはへヴィネスさを強く感じる曲もありました。特にタイトルチューンである「MASSEDUCTION」はいきなり「政権の腐敗」という日本語のアジテーションからスタートして、特に日本人にとってはかなりインパクトある作品になっていました。
しかし本作ではそれがアコースティックアレンジとなり雰囲気がガラリと一変します。基本的にアレンジはピアノと彼女の歌声のみ。そのためアジテーションの色合いが強く感じた「MASSEDUCTION」も本作でも彼女の力強い歌声が印象に残るものの静かなピアノでメロディアスに聴かせる楽曲に変化しています。
他にもエレクトロアレンジがガラリと変わり、かなり印象の変わる曲がチラホラ。「Sugarboy」も原曲ではエレクトロサウンドでトランシーな曲調だったのですが、本作ではピアノの疾走感ある演奏で美しく聴かせる楽曲に。「Fear The Future」もエレクトロサウンドが目立つ原曲から一転、シンプルなピアノのアレンジだからこそ美しいメロディーラインが光る楽曲になっていました。そして特に印象が大きく変わったのが「Young Lover」。原曲ではかなりへヴィーなエレクトロサウンドが前に押し出されたダイナミックな曲調となっていたのに対して、テンポもゆっくりとなりその美しいメロディーラインにあらためて気が付かされる曲になっていました。
もっとも原曲でもしんみりと「曲」を聴かせていた「Happy Birthday,Johnny」や「New York」などイメージが大きくは変わらない曲もあったり、「Pills」などは低音のピアノを力強く聴かせることにより、むしろ原曲以上にへヴィーになったのでは?と感じさせる曲もありました。ただ全体的にはピアノのシンプルな演奏により、楽曲のよりコアな部分がはっきりと表にあらわれた作品になっていたと思います。
もともと「MASSEDUCTION」でも彼女のポップスセンスの良さを強く感じる部分は少なくありませんでしたが、今回、アコースティックアレンジにすることにより、彼女のメロディーメイカーとしての実力が、より如実に現れたアルバムになっていました。さらにシンプルに歌だけを聴かせるアルバムになったことにより、いままでのアルバムではさほど感じなかった、彼女のボーカリストとしての表現力の豊かさを強く感じる作品にすらなっていました。
彼女のミュージシャンとしての本質の部分がより鮮明になったアルバムであり、その結果として彼女の実力がよりはっきりとした形であらわれた作品だと思います。正直言うと、個人的には「MASSEDUCTION」よりもこちらの方がむしろ魅力的に感じたくらい。彼女のミュージシャンとしての「すごさ」を強く感じた傑作アルバムで、年間ベストレベルの傑作。リアレンジアルバムだからということで敬遠した方もいるかもしれませんが、むしろ元のアルバム以上に聴いてほしい1枚です。
評価:★★★★★
St.Vincent 過去の作品
St.Vincent
MASSEDUCTION
ほかに聴いたアルバム
ASTROWORLD/Travis Scott
本作でもアメリカビルボードチャート1位を獲得するなど高い人気を誇るアメリカのラッパーによる3枚目のアルバム。メロウで哀愁感あふれる歌のようにメロディアスなラップがメイン。サウンドは今、流行りのトラップの王道を行くような作りになっていて、全体的には良くも悪くも今のHIP HOPシーンのど真ん中を行くような傾向にあるアルバムといった感じでしょうか。ただいいアルバムだとは思うのですが、さすがに最近、この手のサウンドが多すぎて、若干飽き気味なのですが・・・。
評価:★★★★
Mudboy/Sheck Wes
本作にも収録している「Mo Bamba」が大ヒットを記録。また、上でも紹介しているTravis Scottの「ASTROWORLD」にも参加し、今、話題となっているラッパーによるデビューアルバム。Travis ScottのレーベルCactus JackのみならずKanye WestのG.O.O.D.Musicとも契約を結んでおり、それだけ今、とても勢いのあるラッパーでもある彼。上のTravis Scottと同様、ダークでダウナーなトラップがメイン。アルバム全体で何回言っているんだ?と思うほど終始「ビッチ」とつぶやいているのが妙にユニークなアルバムに。それだけ期待の新人ラッパーである彼ですが、アルバムチャートは最高位17位とまずまずの順位だったようですが、大ヒットとまではいかず。これからの活躍に期待といった感じでしょうか。
評価:★★★★
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