民謡歌手としての原点回帰
Title:元唄(はじめうた)~元ちとせ 奄美シマ唄集~
Musician:元ちとせ
約3年4ヶ月ぶりとなる元ちとせの新作は全7曲入りのミニアルバム。前作「平和元年」は、戦後70周年の年にリリースされた「平和」をテーマとしたコンセプチャルな内容となっていました。そして続く本作は、彼女の生まれ故郷、奄美大島の「シマ唄」を彼女が歌った作品となっています。
ここで単純に「元ちとせ、奄美の民謡に挑戦」という書き方をしたいところなのですが、まあご存じの方も多いかとは思いますが、もともと彼女はシマ唄の歌い手として注目を集め、中学から高校にかけて、数多くの奄美民謡の大会で受賞し大きな話題になり、オフィスオーガスタからデビューする前に、既に奄美民謡を吹き込んだCDをリリースしていた過去もあります。
そういう意味では今回のアルバム、彼女にとってはまさに原点回帰のアルバムと表現がピッタリ来る内容となっています。また、全7曲のうち4曲はおなじ奄美大島出身のシンガー、中孝介とのデゥオとなっています。彼もまた、もともとシマ唄の歌い手として活動をはじめており、そういう意味ではお互い、今はポップスシーンで活動をしながらも原点に奄美大島のシマ唄がある、という点で共通しているミュージシャン同士となっています。
さらに今回のアルバムは、奄美大島のシマ唄をポップス風にアレンジしたアルバム・・・といった感じではありません。本当にシマ唄のオリジナルなアルバムを聴いたことがないので、正確なことはわからないのですが、三味線の音色のみをバックに、元ちとせと中孝介がこぶしの聴いた歌声のみで歌い上げるスタイルの本格的なシマ唄のアルバムとなっています。
そのためポップス的な耳で聴くと、少々戸惑ってしまう感もあるかもしれません。ただ、三味線+こぶしを効かせた哀愁感あるフレーズというスタイルは本土の民謡とも共通する部分も感じられ、私たちにとっても比較的なじみやすい歌ではないでしょうか。
そしてそんなシマ唄を、元ちとせは(中孝介もですが)まさに水を得た魚のように、非常に生き生きと歌い上げています。彼女のボーカルもいつも以上に表現力が増した歌声を聴かせてくれており、聴いていてゾクゾクするような感覚すら覚える部分も。基本的には聴かせるタイプの曲が多く、若干「似たようなタイプの曲が並んでいる」という印象を受ける部分もあるのですが、その点を差し引いても、元ちとせの歌手としての実力がいかんなく発揮されたアルバムに仕上がっていたと思います。
また今回、アルバムの最後には民謡クルセイダーズがゲスト参加。「豊年節」を元ちとせと作り上げているのですが、今回、彼らは「豊年節」にクンビアのリズムを取り入れて、独特なリズムの楽曲にリアレンジしています。原曲は聴いたことがないのですが、ただこの作品を聴く限りだと楽曲自体にもマッチ。また元ちとせのボーカルとの相性も抜群で、ほかの曲とはまた違った味わいを醸し出す名曲に仕上がっていました。
そんな訳で民謡歌手としての元ちとせの魅力を存分に味わえるアルバム。確かに彼女、もともと歌い方からして、シマ唄の歌い方をそのままポップスに取り入れているのですが、それだけにシマ唄を歌うと、よりそのボーカルが映えるように思います。次はまたおそらくポップの作品を作ってくるのでしょうが、時々はシマ唄のアルバムも聴きたいな、そう感じさせてくれる1枚でした。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
YOAKE/KYONO
THE MAD CAPSULE MARKETSのボーカリスト、KYONOの初となるソロ名義でのアルバム。基本的にはマドカプの延長線上のようなエレクトロビートの入ったハードコアな作品が並んでいます。マドカプといえば上田剛士がAA=として活動していますが、AA=を聴くとどうしても感じる「何かが物足りない」の「何か」がここにありました。どう考えてもAA=に足りないのはこの力強いボーカル。ただ一方、KYONOソロはソロでサウンド的にマドカプをなぞっているだけ、という印象も否めず、それなりに満足感はあるのですが、マドカプと比べると新たな一歩を感じられないんだよなぁ。そういう意味ではTHE MAD CAPSULE MARKETSの活動再開を強く希望したいのですが。
評価:★★★★
KYONO(WAGDUG FUTURISTIC UNITY) 過去の作品
HAKAI
DESTROY THE DESTRUCTION-mash up&remixes-
R.A.M.
ЯAW
qp/青葉市子
2年ぶりとなるニューアルバム。いままでの彼女の作品同様、アコースティックギター一本でのアレンジにより、その美しい歌声を聴かせてくれています。歌詞もファンタジックな雰囲気を醸し出したものが多く、それにあわせてファンタジックな作風の曲も目立ちます。そんなこともあり基本的には前作「マホロボシヤ」の延長線上のようなアルバムなのですが、そのボーカルの表現力、シンプルなアコギの奏でながらもしっかりと聴かせるフレーズから、聴いていて全く飽きが来ることがありません。ただただその静かなサウンドとボーカルに圧倒されるアルバムです。
評価:★★★★★
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